第136話 初恋と多忙な所長

 私はセレア様の事を知りたいと思ってしまった。まるで、セバスチャンさんが語ってくれたレディオ様のように。


「セレア様のお母様とお父様はどんな人…何ですか?」

「…………さぁ。どんな人なんだろうね」

「え?分からないの?ですか?」

「私の両親は私が四歳の時に亡くなったんだ。それから、私はもう両親の事を何も覚えていない。どんな人だったのか、どんな顔をしているのか…何も」


 そう語るセレア様はとても悲しそうで、でもそれすら隠すほど無理やり笑っていた。

 そんなセレア様をみると、私は胸が苦しめられた。


「冷えてきたね、これを着な。女の子に風邪を引かせるわけにはいかないから」

「セレア様だって、女の子じゃないですか」


 私がそう言うと、セレア様はキョトンとした。

 まるで、そう返されると思ってなかったかのように。


「ふっ、ふふっ……」


 セレア様は笑った。

 私はセレア様が笑った姿を見ると、心が満たされた。


 もっと、笑わせたい。あの光の無い瞳に、私が光を与えたい。

 あの人の特別でありたい。


「セレア様!私、夢が出来た!」

「…夢?」

「うん!私の夢は、セレア様を笑わせること!」

「そんな事を夢にして良いの?」

「そんな事じゃないよ!私はセレア様が笑ってる姿が見たいの!あっ…見たいです……」

「ふふっ、ふっ…ふふっ………そ、そっかぁ。ふふっ、不思議な子なんだねリリアナは」


 また、笑った。私はセレア様が笑うととても嬉しくなる。

 セレア様が笑うのが私であればとそう思った。


「セレア様、私…沢山会いに来るから!」

「待ってるよ。小さなお姫様」


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 リリアナが語り終わると、周りの人達は歓声を上げた。

 そんな話もあったな。覚えてるのは凄いなぁ。


「凄いロマンチックですね!それに幼いセレア様って感情が乏しかったんですね。今は全然そう感じれませんけど」

「昔は没頭していた魔道具アーティファクト作りすらも進まなかったからな」


 私はあの後、沢山質問攻めされた。答えれないものもあった為、選別して答えた。


 あの騒動…影響力が凄いな。こんな興味を抱く人が多いとは思わなかった。


「食べる時間が少なくなった…」

「そう言ってる割には、結構量のあるものを頼んでますね?」

「これは私のお気に入りだから……」


 私はお馴染みのハンバーグ定食を頼んでいた。

 リリアナはオムライスのようだ。


 相変わらず美味しいなぁ…ここのハンバーグ!

 何年経っても変わらない味。うまーい!


「セレア様ってハンバーグ好きですけど、何か理由でも?」

「乳母がよく作ってくれてたんだ。私にとって、乳母が作るハンバーグは母の味でね」

「ハンバーグはセレア様にとって家族を思い出させるものなんですね」


 そういや、前世でもハンバーグが好きだったな。確か母がよく作ってくれていたんだっけ。

 前世でもお世話になってるんだな。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 昼食を食べ終えると、リリアナは部下に呼ばれ去ってしまった。

 リリアナもリリアナで仕事が大変そうだ。


「仕事に私も戻るか」


 私は所長室に戻って魔道具アーティファクト作りに専念する。

 最近猫背になってきてて不安なんだよな。


 ストレッチでもするかな。ヨガとかやってみるか?

 この世界では、ヨガなんて聞かないけど…流行らせれば皆、健康になるかもな。


『我が主…。お客がいるようです』

「客?また?」

『我が主の先輩と言っておりましたが……』


 もしかして、イノワさんとウルトさんか?


 部屋に入れると、やはりイノワさんとウルトさんだった。


「結婚おめでとう」

「おめでとうセレア」

「だからまだ結婚してないんですよ!皆して何なんですか!?気が早いですよ!」

「それで、子供はつくるの?」

「同性ですって……」


 子供なんて考えて無かった。そもそも、子作りなんて出来ないし。

 アルセリア家は養子でも才能さえあればアルセリア家を継げるし…跡継ぎっても養子になるんだろうか。


 ってか、本当に何で既に私が結婚したみたいな風になってんだよ。

 まだだよ。全然決まってないよ。


「まだだったか?既にしてるものだと」

「まだしてないですよ。気が早すぎます」

「そうかしら?あっ!結婚式は是非呼んでね」

「勿論。呼びますよ。でも、体調には気を付けてくださいね」


 ウルトさんは妊娠をしている。腹はそこまで大きくなっていないが、妊婦さんだ。

 イノワさんと随分盛んなようだ。


 学生時代からラブラブだったからなぁ。


「夫婦での悩みならいつでも頼ってね。先輩夫婦が助けてあげるから」

「頼もしいです」

「セレア…夫は大変だぞ」

「やめてくださいイノワさん。私を落とそうとしないでくださいよ。魔の手ですよ魔の手」

「俺のことを何だと思ってるんだ!」

「奥さんの不調に気付けない駄目夫とかですかね」

「ぐっ……」

「…何も言い換えないわよねぇ。実際、イノワはそういうの気付けないんだから」


 イノワさんは過保護な人だが、何故かウルトさんの不調には気付けない。

 ウルトさんが隠すのが上手いのか、イノワさんが鈍感なのか。


「俺等はそろそろお暇するよ。仕事、頑張ってくれ」


 私は二人を見送り、また仕事に戻る。

 はぁ〜仕事が疲れる。早く癒しをくれ…。


『癒しが欲しいのなら早く仕事を終わらせるべきかと』

「正論はいらないんだよぉ」


 アイゼアの言葉が刺さる。痛い…痛いよぉ。

 私は腕を必死に動かす。結婚前ってこんなもんなですか?

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