脇役魔術師に転生したのでヤンデレ悪役令嬢(最推し)の為に勤しんだら、推しの愛は私に向きました

柏陽シャル

第1話 転生は脇役

 今日はリリアナに会う日だな…あの子が好きなお菓子を持っていかなくては。


「お嬢様、今日は実験しなくてもよろしいのですか?」

「今日はリリアナ達来る日だからね。実験はしないよ」

「分かりました。ではこれで」


 メイドが扉を閉める。研究の日付は教えているのに確認しに来るとは…本当に律儀な者だ。


 そういえば、メイド長に顔色が悪いと言われたっけか…まあ確かにここ最近頭痛が続いているが、大した事ではないだろうと放って置いていたがまずかったか?


「グッ!…頭が…急に………」


 やはり、三日徹夜はまずかったか。


 酷い頭痛と共に知らない記憶が入ってくる。

 なんだこの記憶は…。幻覚か?


 私はその後少し冷静になり、椅子に座る。


「…何で忘れてたんだ」


 私は入ってきた記憶が『自分』のものであることに気付いた。


 その記憶は私の前世、島瀬由依しませゆいのものだった。前世の私は研究員で機械や最先端の技術を解剖する細かい作業をしていた。

 そして今の私はセレア・アルセリア、あるゲームの脇役魔術師だ。


 あるゲームとは前世でやり込みすぎた恋愛ゲーム『恋せし乙女の薔薇』というものだ。


 そして私が転生したセレアは悪役令嬢の兄である攻略対象のリオンの友だ。


 しかし、ストーリーでセレアは出て来ない…何故ならストーリー前で事故に会い亡くなっているからだ。


 まさか転生したら死ぬキャラなんてこれも一つの運かな。まあただ感謝はしなきゃね。


 なんせ、セレアは私の最推しである悪役令嬢のリリアナと仲が良いんだから!


 ひとまずリリアナと会うまで時間があるし、この記憶が残ってる前に紙に書き残しておこう。


 突然、記憶が無くなったら困るからな。


 まず、このゲームは王子や次期騎士団長と公爵、次期宰相などと恋愛をするもので、ヒロインを巡って攻略対象がヒロインに薔薇を渡す話だ。


 その薔薇は普通に生えているものとは違う一家に一輪ある特別な薔薇でそれは婚約者に渡すものとされておりヒロインに惚れた人達はその薔薇をヒロインに渡す。簡単に言えばこんな感じか。


 そしてヒロインの恋路を邪魔するのは悪役令嬢のリリアナ。


 幼い頃は恋路を邪魔したりしない子だったはず…ストーリー前で死ぬセレアが関係してたり?いいやそんなはずはないか。


 にしても、私は死んだのか。車の交通事故、セレアの死因と一緒だな。全然嬉しくないけど。


 そういやセレアは実力もある魔術師だったな、そんなセレアが交通事故で簡単に死ぬとは思えない。何かあったのだろうか。


 ストーリーでは明かされないし、ひとまずセレアは私だ。死なないように行動しながら今を生きよう。


「お嬢様、メリーです。セントラ伯爵御一行がお見えになっております」

「分かった」


 メイド長のメリーが呼びに来る。もう時間か、このノートは隠しとこ。

 ノートを棚にしまい鍵をする。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「セレア様〜!」

「リリアナ!」


 こちらに走ってくるリリアナを抱きしめる。リリアナは今、十歳だ。私は十三歳、三歳差でリオンも私と同い年だ。


「ごめんセレア」

「なんで謝るのさ、リオンは悪い事してないだろう」


 リオンは私を見て謝る。リリアナがやんちゃだからだろうけど、まだ小さいんだ。

 我が儘は今のうちに叶えてあげないと。

 ストーリーが始まる二年前には、リリアナは第一王子の婚約者として妃教育が始まるはずだ。


「申し訳無いね。いつも」

「気にしないでください。応接室に案内しますよ」

「あら、さすが当主ね。リオンも見習ってくれないと」

「母上!」


リオンの父のセントラ伯爵と母のカーミラ夫人が息子を誂う。これが親子か…。


 私には親が居ない、というより居たけど亡くなってしまったと言うほうが正しいのだろう。

 私が四歳の時に母が不治の病にかかり亡くなり、父は愛する人がなくなった反動で自殺をした。私はその後は乳母に育てられ爵位を継いだ。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「リリアナ、こっちに座りな」

「…セレア様の隣が良い」


むぅと頬を膨らませながら、頑なに席を立とうとしないリリアナ。私の最推しがとっても可愛いです!


「そうだ!あの魔道具アーティファクトとても便利よ」

「あぁ、陛下も欲しいと言っていた」


 二人が言っているのは、手紙を箱に入れるだけで即時に相手に手紙を渡せる魔道具アーティファクトだ。


 普通は鳩や人を使って手紙を届けるのだがこの魔道具アーティファクトがあれば、一瞬で届けれるため軍事に使えると王族が欲しがっている。


「複製して伯爵宅に送っておきます。陛下にお渡しください」

「いつもありがとうね」

「そうだ、セレア君はもう少しで学園に行くんだったな」

「リオンも同じ所に行くから宜しくね」


 私が通う予定の学園は、オーエル学園。ゲームの舞台だ。そしてこの学園に行く途中でセレアは交通事故にあう。


「学園に入ったらセレア様と会えない?」

「寮に行く気は無いから会えるよ」

「ほんと⁉」


 リリアナの顔が嫌そうな顔から一転してキラキラした目でこちらを見る。

 小さいリリアナは素直で可愛いな。


「でもリリアナ?貴方は来週から王子の婚約者候補になるのだから会うのは難しいわよ」

「うぅ」


リリアナは不満げな顔をしながら差し入れのクッキーを口に運ぶ。


 確か、王子はリリアナと同年代だったか。リリアナが入ってきた時に王子及び攻略対象たちとヒロインも入学する。

 ここで珍しいのはリオンは年上の攻略対象だという事だ。年上の攻略対象はリオンだけ、そのせいかゲームの人気ランキングでは一位が普通だったな。


「リオンは生徒会参加するの?」

「俺?うーん…会長は嫌だけど副ならやろうかなぁ」


 学園でリリアナをサポートするなら生徒会長になった方が楽だ。ゲーム本編ではリオンが生徒会長だったが、今はなる気が無いらしい。

 ならば私がその座を貰おう。


 学園までの猶予は二週間。その間にセレアが死ぬ理由を考察して対策しなくては…後は学園に行っても楽になるように勉強もしなくちゃな。


 なんでか私はスペックはいいからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る