第71話

「………」


「……ん」


 1度の瞬きの後に両の手を握っては緩める。これを3秒間隔で繰り返し精神と肉体をゆっくりと調整していく大助。


「…問題ないな」


 何気なく周囲に目を向ける大助。


「…おお」


 そこには、まさしくダンジョンと呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。白く舗装された壁に白い床。壁には大助が一度も見たことがない絵画が飾られており、おどろおどろしい形をしたランタンが周囲を怪しく照らしていた。


「…なるほど、ここがダンジョンか」


 少しだけ残念そうな声でそう呟く大助。彼は期待していたのだ。リスボーン直後の大事件というやつを。


(まあこれはこれで悪くはないか。さあ、楽しむとしよう)


 大助がポケットからスマートフォンを取り出す。画面には簡易的なマップと現在の階層が表示されていた。


 ・※※※ダンジョン 99階層


「99階層!? マジかよ…!?」


 これには流石の大助も驚きだ。


(マップには100階層までの表示がある。間違いなく大規模なダンジョンだ)


「そしてここはボス戦前の最後のエリアってわけだ。…ワクワクしてきたぜ」


(さて、どうするかな?)


 大助が様々なシミュレーションを脳内で繰り返しつつ足を進める。不思議な絵画とスマートフォンを交互に見ていると、マップ画面に情報が次々と書き込まれていく事に彼は気が付いた。


「オートマッピングか。いいね。そういうの嫌いじゃないよ」


 早速マップを完成させるべく移動を始めようとする大助。


 ___そして、その背中に向けて怪しい声が掛けられる。


「あらら、こんな所に人間が…くひひひ」

 

「…ん?」


 大助がゆっくりと背後を振り向く。そこには人間の掌程度の大きさの生物が、空を飛びながら彼を手招きしていた。


「人間さ~ん…‘こっちに来て‘」


「むぅ…?」


 ビリビリとした感覚が大助の体内に流れる。この感覚を大助は知っていた。


(狐女と話していたときの感じに似てるな。洗脳関係の魔法か…?)


 大助が立ち止まり、ジッと小さい少女を観察する。


(妖精と言いたいところだが…何処か禍々しい感じがする羽だな。それにあの取り繕った笑顔。悪意100%じゃねえか)


「あら、聞こえなかったのかな?‘こっちに来ると良い事があるよ~‘」


(面白そうだな……)


 大助が作り物の笑顔を浮かべつつ妖精に近づいていく。


「そうそう。そのままそのまま~。私の後に付いてきてね~」


「…分かった」


「くひゃひゃひゃ…ちょろいちょろ~い♪」


(どこに連れていく気だこいつ?)


 大助がウキウキ気分で妖精について行くと、そこには巨大な宝箱が置いてあった。


「ほらほら~凄い宝箱でしょ?私からのプレゼント。あなたにあげる」


「…いいのか?」

 

「もちろん!じっくりと味わうといいわよ~…きゃはははは!」


「なら遠慮なく頂くとしようかな…!」

 

 大助が呑気に宝箱に手を掛ける。そして箱を開けた次の瞬間、大助は「そいつ」に食べられていた。それも当然。この巨大な宝箱は宝箱などではなく、ミミックと呼ばれる凶悪なモンスターだったのだ。

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