第67話

「…ジー」


「……」


 珍しくスマートフォンではなく本を片手にのんびりとしていた大助。そしてその姿をひたすら見つめているクラリア。今現在、金本家では無言の戦いが繰り広げられていた。


(…なんでこいつ俺に密着してやがるんだ?)


 5分前、突然現れたクラリアに背中をホールドされて以降、ずっとこの状態が続いているのだ。


「…ジー…ジー…ジジジー」


(…めんどくせえ。これはつまりあれか?構って欲しいとかそういう事か?)


 わざと擬音を口にし気を引こうとするその行動からおおよその行動理由を推察する大助。


(無視して読書ってのも面白そうではあるが、ちと後が怖いよな)


 読みかけていた心理学関連の本をテーブルに置き、ようやく大助がクラリアとの対話に踏み切る。

 

「なあクラリアよ。いい加減離れて欲しいんだが…?」


「…ダメ。マスターは私に構う義務がある」


「おおん?そんな記憶は俺には存在しないんだが……」


「…昨日、ラビとクロから自慢話を延々と聞かされた」


「あ~。つまりどういうことだ?」


「…一人のけ者にされたクラリアちゃんは激オコモードということ」


(意味分からねえ…)


 大助は早々に思考を放棄する事に決めた。


(こういう時はどうすればいいんだ?)


(…そういえば、さっきまで読んでた本にこんな事が書かれてたな。「相手がブチ切れているときは場所を変えてうやむやにしろ!」とかいう文言だったか。こいつを使うか)


 大助のイカレた脳が複数のプランを即座に立案。その中から実用的かつ面白そうな答えを口にする。

 

「分かった。そんじゃ今から行くか?山菜取りによおぉお!?」


「…行く」


 ガッチリとした握手を交わし大助とクラリアが山へと向かった。人間関係はその場のノリと勢いで意外とどうにかなるものだ。



「さてと、そんじゃどうするか」


「…ん」


 大助とクラリアが同じポーズで腕組を始める。前者は思考を始める前のクセとして。後者はただ真似をしているだけだ。


(常識の範囲内で取れるだけ取っていきたいよな)


 大助とクラリアが山中へと足を踏み入れる。


「…マスター。この草は食べられる」


「お…?」


 クラリアの体から伸びる謎の触手がテキパキと山菜を採取していく。


「…この草はウワバミソウという名前。…天ぷらとかにして食べるとめっちゃ美味しい」


「流石は草の専門家!頼りになるなぁ!?」


「…んふふ」


 クラリアを褒めまくる大助。彼としてもクラリアにやる気を出して貰わなければ困るのだ。


(山菜はフリーマーケットで売れるからな。ここで少しでもコインを稼いでおかないと)


 新アイテムの開発やガチャ代金などで早くも大助の貯蔵していたコインは尽きかけていたのだ。


「おお!?ウワバミソウって意外と高く売れるんだな!?」


 アプリで値段の相場を調べていた大助が驚愕の声を上げる。意外と山菜の値段は高いのだ。


「高級食材じゃねえかよ…そんじゃ全部採取…するのはダメだな」

 

「…ダメなの?」


「ああ。全部取るのは山のマナー違反ってやつだ。取るのは自分が食べきれる分だけにしておけよ」


「…分かった」


 黙々と採取を始めるクラリアと大助。大助の理論で考えた場合、クラリアはこの山の全ての動植物を食べつくしても足りないのだが、そんな無粋な突っ込みはしない。大助が食用可能な量に合わせて密かに採取量を調整していく。


(うへへへへ!テンション上がって来たぜ!!)


「…この草とこの草も食べられる」


「いいねいいね~!」


 ノビルや山椒、タラの葉を黙々と採取していく大助。そして次の山菜を採取しようと手を伸ばす。だがその手を突然クラリアに制止された。


「…マスター。これはダメ。毒を持ってる」


「え…?でもこれタラだろ?確かどの部分も食べられたはずだが」


「…これはウルシ。食べられるけど、体質によっては毒にもなる」


「えっ!?そうなのか…」


 念の為にスマートフォンで詳細を調べる大助。クラリアの発言に間違いはなかった。

 

(マジだ…食べられるけど体質によっては肌がかぶれる可能性があるのか)


(しっかし本当にタラにそっくりだな。俺には全然見分けがつかねえぞ…)


「…マスター。どうしたの?」


 突然スマートフォンを取り出した大助を不思議そうに見つめるクラリア。それはクラリアの発言を100%は信用していない事の表れでもあるのだが、そんな事はおくびにも出さずにすっとぼける大助。


「いや、クラリアは凄いな~と思ってな」


「…ん。もっと褒めてもいい」


「お前は天才だぜぇぇ!?マジで頼りにしてるからなぁぁぁ!?」


「…んっふふふふ」


 それからひたすらにクラリアを褒めまくり多種多様な山菜を採取した大助とクラリア。文句なしの成果と言ってもいいだろう。


(今夜の夕飯は山菜そばだな)


 まさにパーフェクトコミュニケーション。互いの「信用」を深めた大助とクラリアは上機嫌に家へと帰還した。

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