第22話 また咲けばいい。
「じゃあまた、どこかで。」
あの日。
姉の誕生日を祝ってからもう10年が経とうとしていた。
僕らはもう24歳。
あのあと僕は叔父さんの家に居候させてもらいながらそこの学校に行っていた。
だから遼と同じように転校した。
そして桜と同じ大学に行き、今はパティシエを目指して頑張っている。
桜と同じ道を歩み、同じ景色を見てきたからか、少し分かったような気がした。姉の事が。
2年前に母親は交通事故で亡くなった。
だから僕の親権は本当は父親なんだけど、縁を切って叔父さんの子供になった。
そう。今は矢倉颯じゃなくて、水本颯。
戸籍が変わっただけなのに、親子と言う関係になったからか叔父さんとの距離は格段と近くなったように思える。
パティシエを目指したのはケーキというものが僕にとって彼や彼女との思い出であり、別れの象徴であるから。
大切なものなんだ。
そんなものを次は自分が作りたいと思った。
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今日は桜が成仏した日。
僕はケーキ屋のバイトというか修行があるから、お参りは行けないけど。
週末に行くつもりだ。
今頃、何してるんだろう。とふと思う。
生まれ変わり、とかあるのかな。
だいたい生まれ変わりには4年かかると言われている。
輪廻転生ってやつだ。
生まれ変わりがあるならばって話だけど。
それがほんとならあいつ、今6歳くらいか.........。
可愛いな。見てみたい。
ぼーっとしていると小さい男の子が来店してきた。
「いらっしゃいませー」
「この、6号ホール1つ下さい!」
ショーケースを指さして言っている。
目が輝いていて、可愛い。
「誰かの誕生日かな?上のチョコになんて書いて欲しい?」
「さくら、6歳の誕生日おめでとう、で!」
桜...
6歳..
まさか。
頭をかすめるのは姉のこと。
しかも今日は命日だし。
会計を済まし、他の店員にあの少年の相手をしてもらい僕はケーキのプレートを工房で作った。
「こんにちは。君の名前はなんて言うの?」
「そうた!5歳なんだ!」
「そうたかぁ。いい名前だね。今日はお姉ちゃんの誕生日なの?」
「うん!そうなの。この花もお姉ちゃんの好きなやつ!」
「これは..なんて花?」
「すいーとぴーだよ!」
「スイートピーってこんな綺麗なんだね。」
「そうなの!とっても綺麗なんだ!」
レジの近くで少年が話しているのが聞こえた。
無垢なその声。
可愛らしくて、愛おしくて。
少年の姉は本当に桜の生まれ変わりかもしれない。そんな希望が生まれてきた。
しかも弟の名前、そうたって。
颯太、って書くのかもしれない。
生まれ変わり、あるのかもな。
無性に2人には幸せになって欲しいと思った。
もしそれが生まれ変わった桜じゃないとしても。
プレートを書き終え、幼い少年にしゃがみながら渡す。
「わーい!ケーキできた!お兄ちゃん凄い!」
嬉しくて恥ずかしいから俯いてしまう。
「ありがとな少年。」
頭の上に手を乗せてガシガシした。
そうたは満面の笑みでこちらを向いた。
「じゃあねーバイバイお兄ちゃん!」
店を去っていく少年をみながら、僕はただ見つめていた。
だけど一つだけ伝えたくて。
「ちょっと待って!少年」
「なぁに?お兄ちゃん?」
「お姉ちゃんと沢山楽しむんだぞ。一日一日を大切にな。任せたぞ、そうた。」
そうして、そうたは少し首を傾げながら、
「分かったぁ!」
と答えた。
この瞬間、僕の心にのこったモヤモヤが少し薄まった気がした。
「あっお兄ちゃん頭に花びらがのってるよ!」
「えっ?」
そして上をむくと桜の花びらが落ちてきた。
そして店の前にある桜も満開に咲き誇っていたのに気づいた。
そうだ、パティシエになれたら店の名前はcherryblossomにしよう。
そして墓参りにはスイートピーを持っていこう。
完
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投稿遅れました!すみません!
次の話はあとがきです!ぜひ読んでください。
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