家族以上、知人未満な僕と君。

月白 雪加_TsukisiroSekka

第1話 始業式

1ー始まり

「元気にしてた?」

「……君は……誰だ?」


また、この夢。

小さい頃、よく河川敷で会っていたお姉さん。

誰だったか結局分からないけど、忘れられないでいる。

しまいには、夢にまで出てくる。あんな前のことなのに、何で……。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「颯ー起きなさいー!朝よ〜」


いや起きてるし……

朝からほんとうるさいなぁ。

もそもそと布団の中で体を動かし、眠気に別れを告げる。もっと寝てたいけど、渋々体を起こした。

目覚まし時計の隣のカレンダーにふと目に留まる。今日は3月22日...

そうだ、修了式だ。

よしっ!よしっ!

嬉しい。嬉しすぎる。

だってやっとこの一年が終わるのだから。


そう僕は根っからの陰キャで、友達も少ない。だから学校は行かなくていいなら行きたくないのだ。

友人の1人や2人くらい居ないと本当に楽しいことがない、学校ってのは。

やっぱり変わらなくちゃと思って無理に明るめのキャラを演じたこともあったが、無駄だった。

性格を変えてもこうなんだから、遺伝子的にもう、陰キャの純系なんだろう。

そう解釈しておこう。



何気なく学校へ行き、何気なく校長と担任の最後の挨拶を聞いていたら修了式は終わっていた。


まだ帰りたくないよぉー、このクラスほんとに大好きだったんだよねー、という僕には無縁の会話を遮りながらひとりフラフラと帰っていた。

寂しい

ーという気持ちが無いわけではない。

だがしょうがないのだ。

なぜなら根っからの陰キャだから。友達がいないから。

それよりも僕には直面している問題があるのだ。

中2はどうしよう、ということだ。

やはり、友人と呼べる人が欲しい。

だからこそまたおバカキャラで頑張ってみるか……?

いや絶対もろが出る。

まずまずこの世界は陽キャがいちばんみたいな考え方が僕には合わないのだ。

どうしたらいいものか……

こんなことを考えてるだけ時間の無駄だろう。そうですよ、陽キャの皆さんには一生理解できないでしょうよ、僕の考えてることが。


だがしかし。

始業式の自己紹介の時間になってもキャラが思いついていない。

しょうがなく、初日だけは素の状態で行くことにした。

ま、純系の陰キャだから、怖がっても、取り繕っても変わらないだろ。

みんな僕には興味なんか無いんだ。

はじめの自己紹介なんか、ちゃんと聞いてでるヤツなんてろくにいないだろうし。


「次は矢倉〜(やくら)簡単に自己紹介よろしくな。みんなも、ラストだからしっかり聞いてくれよー。」

担任の佐々木が僕に向けて言葉を放った。

ややプレッシャーのかかるからやめて欲しい。

「こんにちは。矢倉颯(やくらはやて)です。趣味は読書です。どうぞ一年間よろしくお願いします。」

と冷徹に言葉を放った。

よしっ。言い切った!

当然、この自己紹介には何の笑いも起きず、無難に終わった。

面白みも何も無いが、まともな返しが出来ただろう。

僕は、ちょっと安心して、椅子に腰かけた。


周りを見る。


幸い、僕の周りはたぶん陰キャばかりのようだ。

僕の隣なんか、人が自己紹介をしているというのに、堂々と本を読んでいる。

松野遼(まつのりょう)とかいう奴だったかな。

他人に興味がないのだろうか。

まぁ、僕には関係ないけど。

なんなら同類は好都合だ。


なんやかんやでやり過ごせた中2の始業式。今年は平凡な一年になりそうだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━少し気が重かった始業式も無事終わり、僕は1人で帰る。そういや今日は、母さんは仕事で帰って来ないんだっけ。


僕の母は、狂気を感じるほどに過保護で、たまに(いやいつも)イラッとするし、怖いし、めんどくさい。

いつもははやく帰らないとうるさいから、しょうがなく寄り道せず、真面目に帰っていた。

だが、今日はその必要はない。

こんな貴重なチャンスを逃すわけにはいかないだろう。

そうして今日は寄り道をすることに決定した。


「う~ん、どこ行こっかなぁー」

そう言いながらも心の中では、行くあてを既に決めていた。

いつもと違うことをするのは、スリルがあって楽しい。

一日中こわばっていた僕の顔が、少しゆるんだ。

空が果てしなく澄んで見える。

いつもより足取りが軽い僕は、さっきから行く気満々の場所   

"あそこ"

ーそう、夢の中ででてきたあの河川敷に方向転換した。


小6の春以来だろうか。

夢にはしょっちゅう出てくるけど、行くのはとにかく久しぶりだ。

だが昔の僕はここで何をしていたわけでもない。

ただ、時計の下で、腰を下ろして空を眺めていた。でもそれがやけに落ち着くんだ。

小学生のころから陰キャ真っ盛りだったんだよな。遊ぶ相手もいないからしょうがなくひとりでぼーっとしていた。


またあのお姉さんに逢えるかもしれない。


そんな期待も込めていた。

でも僕のことなんかとっくに忘れているんだろうな。

過去の思い出に浸りながら、僕は今日も時計下にすわりこんだ。

そして上を向いて、目を閉じた。

あぁ、空の青さが心を清浄してくれる。

深呼吸をしてから目を開ける。

雲の流れがゆっくりで、心が癒される。

鼻から感じる春風も、どこか甘い感じがして、いい。

いとをかしだな。

いい意味で、久しぶりに無になれた僕は、この瞬間を最大限味わった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

作者のひとりごと。

皆様初めまして。月白雪加です!

今日からスタートの作品、略して僕君(ぼくきみ)は他サイトで私が投稿していたもののリメイクです!拙い文ですが読んでいただけると嬉しいです!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る