第19話、私はあなたの味方をするつもりはありません。


「――ルフト様、私はお休みくださいと言ったはずですけど」

「いやぁ……なんか、手当してもらっただけって言うのも、悪いかなと思って……」

「今の一番の怪我人はルフト様なんですよ。クラウス様もシリウス様も元気いっぱいですし」


 畑について野菜を取り出そうとすると、ルフトも同じように手伝うとったので一度は拒否をしたのだが、本人はどうやら手伝いたいらしい。

 多分、身体を動かしただけで痛みが出てくるはずなのだが、と思いながら、話を全く聞いてくれないルフトに深くため息を吐きながら、ルーナは承諾することしかできなかった。

 承諾した時のルフトの顔は犬のように可愛らしい笑顔になっていたなんて、ルーナは言えるはずもなく、それは心の中にしまっておくことにした。

 ルーナの支持の元、ルフトは野菜を取り出しつつ、ふと彼女に視線を向けながら問いかける。


「この野菜はルーナさんが作ったのですか?」

「この村は自給自足が当たり前です。住んでいるのは私と、そしてシリウス様。あとは老人が何人か暮らしているだけの閉鎖的な村です。因みに野菜の作り方はお隣のおばあさんから教わりまして、シリウス様と一緒に作りました」

「はぁ……これは、立派な野菜ですね」

「ありがとうございます。おかげで野菜と、後時々サーシャ……この村を囲っている森の精霊たちが肉や魚を取ってきてくれる事もありますので、それで何とか代用しております」

「因みにこちらの小さな畑は?」

「ああ、それは私が本を参考にして真似して作った薬草園みたいなものです」


 ルーナは畑の隣にある小さな畑の内容を簡単に答える。

 その言葉を聞いて驚いたまま、ルフトはルーナに問いかけた。


「え、これ全て薬草なんですか?独学で?」

「教える人がいませんでしたから独学でやりました。本当、数年目が出なかったときは落ち込みましたけど」


 笑いながらそのように発言するルーナに、何処か尊敬するようなまなざしで何故かルーナを見つめているルフト。

 そのような目を向けられても正直困ってしまったルーナは何も言う事が出来ず、目線をそらす事しかできない。


 小さな薬草園――本当にあれは独学で覚えたものだ。

 誰も全く知識もなく、シリウスですら知識がなかったので古びた本を参考にしながら何度か行い、数年後何とか薬草を作り出す事に成功した時は泣いて喜んだ。

 その後、サーシャは森の精霊なので、簡単に薬草も出せるわ、と言われた時はあの努力は何だったんだろうかと落ち込むまでは。

 今となってはこの小さな薬草園で薬草を育てつつ、同時に手に入らないモノはサーシャに頼んで取ってきてもらったり、作り出してもらったりする事が多い。


 今でも時々この薬草園を見つめると、昔のあの感動と絶望が襲い掛かってくる事を考えつつ、ルーナは畑の野菜を取り続ける。


「ん、こんなものかな……ルフトさん、ではせっかくお手伝いに来てくれたのですから、これを持っていただけませんか?」

「え、は、はい!お任せください!」

「このまま川に向かって野菜を軽く洗って、それからこの入れ物に川の水を入れて持ち運びます。力仕事を頼むかもしれないですか、大丈夫ですか?」

「ええ、どんどん使ってください!」


 生き生きしているルフトにルーナは笑いながら、そのまま川の方に向かって歩き出すので、ルフトも彼女の後を追いかけながら歩き出す。

 使えるものは、使う。

 何度もルーナはルフトに対して怪我人だから、と言う話をしたところで引かなかったのはルフトの方だ。

 何を言っても無駄なのだろうと理解したルーナは諦め、手伝ってもらう事にした――これだけは、クラウスと同じ性格なのだと、ルーナは思った。


「……ルーナさん」

「はい?」


「ルーナさんは、クラウスとはどのような関係になるのか、教えてもらってもよろしいでしょうか?」


「……はい?」


 突然この男は何を言い出すのだろうかと驚いてしまったルーナは目を見開き、動きを止める。

 何故、そのような問いかけをしたのか意味が分からず、ルーナはルフトに視線を向けて、問いかける。


「あの、それはどのような意味でおっしゃっているのか、聞いてもよろしいですか?」

「ふ、深い意味はないのです!ただ、クラウスとルーナさんが出会ったのはまだ日が浅いのに、あのように信頼しあえているのが、すごくうらや……ではなく、びっくりしたので」

「……それは、何て言うか、友達ですから」

「ともだち、ですか?」


 ――きっと、クラウスはそのように思っていないかもしれない。


 そもそもクラウスがルーナの事をどのように思っているのか、彼女自身わからないが、ルーナ自身はこれからもクラウスの味方でいたいと思っている。

 ルーナは再度、ルフトに目を向けて笑った。


「だからこそ、何があっても私はあなたの味方をするつもりはありませんよ、ルフト様」


 きっと、これから何かあったとしても、ルーナは友達を信じていく予定だ。

 フフっと笑いながら答えるルーナの姿に、何処か恐怖を感じてしまったルフトは何も言えず、口を閉ざしたままだった。


 

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