第18話、壊れたしまった関係。
「――あの、ルーナさん」
神父のシリウスをクラウスの二人で止め、それから数十分後。
何とかシリウス、そしてクラウスの二人が落ち着いている様子を見つめながら、ルーナは食事の支度をするために古びや教会を出る。
教会を出ると同時に突然声をかけられたので、振り向くとそこには愛想笑いをしているルフトの姿があった。
「……どうかしましたか、ルフト様?」
「えっと……その、ですね……何かをするのでありましたら、私で宜しければお手伝いをしようと思いまして……」
「お気持ちはありがたいのですが、ルフト様も怪我人です。ましてやあの神父……シリウス様の攻撃を受け止めているのですから余計ですよ」
「……あのシリウス様と言う方、一体どのような人なのですか?あのようなでたらめな剣術は初めてでした」
「さぁ、私はシリウス様とは長いですけど、生まれる前の話は聞いた事ないので詳しくは知りません……が、強いのは確かですね。神父みたいな事してますけど」
ルーナはそのように言いながら荷物を軽々ともち、畑の方に向かって歩き出したので、ルフトは彼女の後をついていくようにしながら歩き出す。
運び込まれた時は傷だらけで、鎧を着ていたのだが、今は鎧は脱ぎ捨て、よく見てみると、クラウスと同様に顔が綺麗な男に見える。
「……」
ルーナはそんなルフトに視線を向けたまま、隣を歩いていると、何か申し訳なさそうな顔をしながら、指を動かしているルフトがルーナに声をかける。
「……改めまして、ルーナさん。お礼を言わせてほしいです」
「え?」
「その……ケガの手当をしてくださり、ありがとうございます。おれ……いえ、私は、その、一応敵なのに……」
「そんなの関係ありません。私はケガをした相手は敵だろうが味方だろうか、目の前で死なれるのは嫌なんですよ」
「そう、ですか……」
「ええ、そうです。ただ、それだけの理由で私はルフト様に手当をしました……クラウス様はちょっと、納得していない顔をしておりましたけど」
「……」
ルフトとクラウスの関係は、ルーナにはわからない。
しかし、クラウスにとって、ルフトと言う存在は『敵』と言うモノしか考えられないらしい。
あの時見せた、クラウスの瞳は目の前の男、ルフトを拒絶している目をしていた。
一体二人の間に何があったのか――しかし、聞いてしまったらルーナは二人の間に入ってしまいそうで、怖い。
ルフトの顔を見ながら、ルーナは口を開く。
「……何か、私に言いたいことでも、あるように見えますが」
「え、あ……き、聞きたいこと……クラウスの事、なんだけど……」
「クラウス様?」
「うん……その、大怪我でこの村に来たって話だけど、本当か?」
「ええ、本当です。手当したのは私ですし、まぁ、ケガをした相手を引きずってきたのはクソ神父……シリウス様でしたけど」
「そ、そうか……」
確かにクラウスはこちらに来る時、大怪我を負ってクラウスに連れられ現れた。
結局は数日で動けるようになったのはある意味良い思い出でもあるのだが――そんな事を考えながらルーナは思わず顔をひきつらせる。
「――ケガを負わせたのは、俺……私、なんだ」
苦し紛れのような声で答えるルフトに対し、ルーナは何の感情もわかない。
多分、そうなのだろうと理解はしていたし、ルフトを追っていたのは『命令』で動いていた、と言うのもわかる。
「ケガを負わせたのはルフト様だとしても……ルフト様は、どうしてそんなに苦しい顔をしているのですか?」
ルーナが思いついた考えをルフトに言うと、一瞬驚いた顔をしながら、彼女に向けて静かに笑う。
「ハハっ……そう、そうなんだよ……裏切りモノとして、追いかけていた男だったはずなのに、憎いと、思っていたはずなのに……ここにきて、あなたに会って……どうしてその気持ちがなくなってしまったのか、わからないんだ」
ルフトは苦しそうな顔でそのように言う。
クラウスの発言が間違ってなければ、目の前にいる男は聖女の『魅了』にかかっていたと言う話を聞いている。
しかし、それでもルーナは表情を変えない。
「ルフト様……ルフト様は、クラウス様とどのような関係になりたいの、ですか?」
「どのような関係、か……望むなら、あの頃の関係に戻りたいよ」
「あの、頃ですか?」
「ああ……一緒に剣を交えて、友として隣に立っていた、あの頃に戻れたら……無理だろうな。もう、壊れているから」
ハハっと笑うルフトの表情が暗くてたまらない。
このまま、自分の国に戻ったら、きっとその心の隙間に入られてしまい、また『魅了』にかかる可能性は高い。
それに、クラウスは言っていた。
『……あの時のお前の行動が、俺は『本心』だと思った、だけさ』
魅了されたルフトは、一体クラウスにどのような行動を取り、そして二人の間に亀裂が入ったのか。
そして、そんな関係を簡単に壊してしまう、『トワイライトの聖女』と言う女の存在が、おぞましく感じてしまった。
「出来たら、関わり合いたくないな」
「え?」
ルフトがルーナの呟きに気づく首をかしげていたのだが、ルーナは気にする事なく足を動かし、畑に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます