第12話、トワイライトの聖女様
「……そりゃ、『勇者召喚』みたいな事か?」
クラウスの言葉に反応したのは、シリウスだ。
彼の表情はいつもと違い、こわばった表情を見せており、何かあるのだろうかと思いながら思わずシリウスに視線を向ける。
「何か知っているのですか、神父様?」
「ああ……なるほど、最近トワイライトの噂がめっきりなくなったのは、『聖女』を召喚したからか」
「せいじょを、しょうかん?」
全く意味が分からず、今度はクラウスに目を向けてみると、クラウスは説明してくれるのか、ルーナの目を見て答える。
「『勇者召喚』や『聖女召喚』と言うのは別の世界……俺達にとっては異世界と言える所からその人間を召喚する事……うちの王都は『聖女召喚』を行ったんだ」
「聖女を召喚するなら、良い事なのではないですか?」
「それが、そうもいかないんだ、ルーナ」
「え?」
「相手が、本当に聖女のように清らかな心の持ち主だったら、だ」
ため息を吐きながら、何処か疲れた表情を見せているクラウスに、それはどういう意味なのか全く理解が出来ないルーナ。
クラウスの言葉を聞いて、シリウスは妙に納得してしまったのである。
「なるほど……つまり、召喚した聖女サマは能力はあるが、性格が最悪だと?」
「ああ……男には媚を売り、女には興味なく、同時に利用して飽きたら捨てる、そんな性格だ……その中でも気に入った相手達には『魅了』を使う。どうやら召喚された時に身に付いた能力の一種らしく、その聖女様はお気に入りの男たちに魅了し、ハーレムを作っている」
「うわぁ……いるんだそんな人。私は嫌だなぁ……」
男であれば、女を魅了してハーレムを作るように、聖女になった女はその逆を作っているという事になる。
同時に傷ついて倒れているこの男はその魅了された人物の一人だという事がわかった。
一瞬だけ、庇ってしまった事を悔いてしまったルーナだった。
「……一発ぶん殴れば、魅了解けるかな?」
「いや、魅了なんだが解けていると思うぞ」
「え、なんで?」
シリウスがそのように発言したので、その理由は何なのかわからないルーナは首をかしげながらシリウスに視線を向けると、シリウスの発言はルーナとクラウスにとって説得力のある発言だった。
「だってお前……ルーナの事を『天使』って言ったんだぞ。この男はルーナに一瞬だけ目を奪われている……魅了がかかっている相手がそんな事しないだろう?」
ニヤっと笑いながら答えるシリウスにルーナとクラウスは何も言えないまま、気絶している騎士の男、ルフトに目を向けた。
「……確かに、魅了されているなら私の事を『天使』だと言う発言はしないですよね。それか寝ぼけているとか?」
「……まぁ、起きてみないとわからないだろうがな」
そのように発言するシリウスに対し、ルーナはもう一度ルフトに視線を向け、本当に一発ぶん殴ろうかなと拳を握りしめている姿を、クラウスは止める。
何故止めたのかわからなかったルーナだったが、クラウスの右手に少しだけ鞘を抜こうとしている剣を見てしまったので、それ以上何も言えなくなってしまった。
同時に、違和感がある。
シリウスの様子が少しだけおかしいと、ルーナは感づいていた。
「シリウス様」
「んぁ?」
「――何か、苛立つ事がありましたか?」
「――……」
クラウスから『聖女召喚』と言う話を聞いたシリウスの様子がおかしい事には気づいていた。
気づいていたからこそ、ルーナは単刀直入に話を切り出したのだ。
不機嫌そうな顔をルーナ、そしてクラウスに向けた後、深くため息を吐きながら腕の骨を軽く鳴らした。
「……機嫌が悪そうに見えたか?」
「ええ、とても」
「そうか……まぁ、仕方ないかもしれないな」
「それは、どういう意味ですかシリウス様?」
「……」
シリウスに問いかけるルーナに、彼は何も答える事なく彼女に視線を向けている。
何処か苦しそうな瞳をしているようにも見えたので、このまま口に出していいのだろうかと思ってしまうぐらい、いつも以上に様子がおかしい。
ルーナはまっすぐな瞳でシリウスを見ていた後、シリウスは手で頭を抑える。
「……俺が前居た国でもな、『勇者召喚』と言うモノがあったんだ。おかげで色々と狂わされただけの事だ」
「それは……初耳です」
『私も初めて聞いたわ』
「言ってねーからな。ついでにその件は公にされても居ないし、小国だったからな……」
公にされていない、と言う発言にルーナも、そしてクラウス、サーシャも驚いた。
そのようなお恐れた事ならば、公にされるはずなのだが。
何故公にされなかったのか、問いかけようとしたのだが、その発言を遮ったのはシリウスだ。
「すまない。まだ話すつもりはないが……とりあえず、いつか話すからそれまで待っていてくれないか?」
「……」
もしかしたら思い出したくない記憶なのかもしれない。
何処か苦しそうな顔をしているシリウスの顔に、ルーナは何も言えず静かに頷く。
「……で、話は戻るが、その聖女様はどうしてお前に刺客を送るんだ?」
「ああ、それは簡単な事。一つは俺に『魅了』が聞かなかった事」
「もう一つは?」
「――俺が、聖女様の求婚を断ったからだ」
迷惑なんだよな、と吐き捨てるように答えたクラウスの表情は今まで見た事のない、憎しみの抱えているような表情をしていた。
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