第04話、少女は簡単に獲物の解体作業をする。
「……ルーナは強いな、別の意味で」
「なんですかそれ、貶してますか私の事」
勇ましい――と思った方が良いのだろうかと、返り血を浴びている彼女に視線を向けながら驚いているクラウスの姿があったなど、誰も知らない。
クラウスがこの閉鎖的な村に来てから既に数週間――ぶっちゃけ帰ってくれないかななんて思ってしまったルーナだったが、今のルーナはそんな事どうでも良い。
右手にナイフ、左手にナイフを持った彼女の姿を見たクラウスは驚いた顔をしながらルーナに視線を向けている。
確かに驚くのは無理もないのかもしれないと、ルーナは思う。
彼女の周りは、狩ってきたイノシシや野ウサギの解体作業を行っていたのである。しかも慣れた手つきだ。
クラウスの周りにそんな女性たちなど居なかった。特に、ルーナのような年齢の存在は。
クラウスはこれでも一応貴族なのだが、彼の周りには黄色い声を上げるもの、色仕掛けをしてくるモノたちが多かったのだが、ルーナは違う。
平然と、簡単に、獲物を狩り、それを解体している。
「……慣れているな」
「まぁ、肉が手に居られるのは、ぼ……私か、神父様以外いないので」
「あの神父もか?」
「ええ、神父様もです。私は、神父様に獲物の狩り方、解体の仕方も教わりました」
そのように言いながら、ルーナは手を止める。
「――人の殺し方も一応教わってますよ、クラウス様」
ルーナは手を止めた後、クラウスの視線を向ける。
まっすぐな瞳で、揺るぎのない瞳をしていたクラウスは何も言えなかった。
同時に、こんな小さな手で人の殺し方を教えるあの神父は一体何者なのだろうかと思いつつ、口をする事もしなかった。
丁寧に、簡単に獲物の解体をしているルーナを見つめながら、疑問を言う。
「人を……殺したことはあるのか?」
「一年前に初めて殺しました。この村に来た盗賊です……戦闘が出来るのが私と神父様しかいません。この村に居るのは殆どが老人たちで戦えない者達です。
「……」
ルーナの言葉に、クラウスは何も言わない。
しかし、一つだけ疑問が残るのが、彼女の親代わりと言われる神父だ。
クラウスにとってあの神父の第一人称は、飲んだくれで神父らしくない恰好をしていると言うだけの存在だ。強い、と言う言葉がわからない。
「ルーナ、神父は強いのか?」
「そうですね、多分強いと思いますし……容赦をしない相手です。クラウス様と戦ったらどっちが強いか、それはわかりませんが」
「そうか」
「はい、そうです」
――そのように見えないな、何てクラウスは言えるはずがなかった。
解体を全て終えたルーナは軽く背伸びをした後、ナイフを布で拭き、自分の服装を見てため息を吐く。
「ああ、この服洗わないとダメだなぁ……クラウス様、これからどこに行きます?」
「いや、何処にもいく予定はないが」
「私、これから川で水浴びをして、洗濯ものをしてきます。クラウス様の洗濯ものがあったら、一緒に洗ってきちゃいますが」
「それならルーナに会う前に軽く洗濯ものはしてきたから大丈夫だ」
「そうですか……じゃあ、私はこれで失礼します」
解体を終えた獲物たちをひとまとめにした後、川の方向に視線を向けて歩き出す。
その後ろ姿は既に慣れた感じの様子――長年行ってきた行動なのだろうと、クラウスは彼女の後姿を見て思った。
川の方向に向かっていく彼女の姿を見送った後、これからどのように過ごすか考えながら、クラウスはふと思い出す。
「……もう、数週間この村に居るのか」
ふと、そのように呟いてしまった。
毎日のように血濡れた戦場に行ったり、最近では変な事に巻き込まれ、命すらも狙われているようになってしまったクラウスは手違いで深い傷を負ってしまった。
そして出会ったのは、ルーナと言う少女だ。
彼女は最後まで自分の手当をしてくれた、まるで教会で言われていた『聖女』のような存在。
しかし、先ほどの解体作業の姿を見て、彼女は明らかに『聖女』ではないと思うクラウスだった。
勇ましく、綺麗な目をした少女。
「……やはり、欲しいな」
奥底で隠し持っていたクラウスの『欲望』徐々に出始めている。
それまでの人生で、クラウスは『欲』がないと思っていた。
しかし、この村に来て初めて、クラウスは『欲』と言うモノを手に入れたのである。
しかも、『モノ』ではなく、『人』だ。
だが、クラウスにとって、あの少女、ルーナは規則外である存在だった。
彼が見ていた女性とは全く違う存在。
だからこそ、それが面白いと感じてしまう自分が居る。
クラウスはフっと笑いながら、この後どうするか考えていた時、殺気を感じたので思わず身構えてしまう。
「よう、騎士様」
そこに居たのは、くたびれた格好をしながら笑っているルーナの育ての親の神父が姿を見せたのである。
笑っている様子が見られているが、クラウスは警戒を怠らない。
明らかに神父が見せたのは、強い『殺気』だ。
「……神父」
「どうも、騎士様。いやぁ、ちょっと聞いても大丈夫かい?」
「……何をだ」
警戒を解いてはならない。
目の前の神父は、自分を今、『敵』とみなしている。
そんな神父が静かに口を開くと同時に、笑顔が消えた。
「あんたは、ルーナを傷つける存在か、『血濡れの狂騎士』殿」
鋭い瞳で、神父はクラウスを睨みつけていたのだった。
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