俺の幼馴染がトラブルメイカーすぎる!
晃斗
第1話 はじまり
「ぼく」が「俺」としての自我を持ち始めたのは何時のことだっただろうか。
一番最初に違和感を感じたのは四歳くらいだったと思う。
いつも通り友達と外を駆け回っていたある時、ふと頭の中に不思議な何かが流れ込んできたんだ。それは「ぼく」じゃない誰かの……地球という星に生きていた男の知識と記憶、感情と経験だった。
日本という平和な国に住んでいる普通の高校生で、クラスの高嶺の花に憧れて付き合いたいと思っていて、数少ないオタクの友人と放課後に遊んで、夏休みや冬休みの課題を終盤に必死でして、ふとした瞬間に将来の事を漠然と考える。そんな普通の男の人生。
でもそんな普通の人生は唐突に終わった。ある日の登校をしていた朝に、歩道に突っ込んできたトラックに潰されたんだ。
そうして次に目覚めた時には女神様が目の前に居た。 なんでも休みもなく世界の運営をしている疲れから、人の魂と紐づけされている人の運命やら何やらが全部書かれている書類にお茶をぶっかけてしまったそうだ。その結果、お茶がぶっかかった書類の人達はなんらかの要因によって突然死してしまった…らしい。
その総数はなんと一万人。数百人程度なら誤魔化せたらしいけど、流石に五桁は無理だったそうだ。 この事が上司にバレてしまい、補填として被害者全員を望む力を持たせて望んだ世界に転生させろと言われたらしい。
で、そんな不幸な人間の中に入ってしまっていた男としては、地球に未練が無い訳ではないけどラノベなどで読んで夢想していた異世界転生という現象に直面していたため、かなり浮かれていた。
そのためごく普通の高校生だった男は、異世界転生という非現実的かつ極めてファンタジーな事態に非常に夢見心地な気分になっていたのだ。だから通常ならしない要求をしてしまった。
……まあ、簡単に言ってしまえば力を望み過ぎてしまったのだ。 あらゆる事象に対する完全耐性。トップクラスの全ての才能。無限の魔力。マルチタスク等ができるスパコン並みの頭脳。某野菜の人じみた身体能力及び動体視力。超人のような五感と未来予知じみた直感。どんな事態でも折れることのない精神。
そんな要求を女神様は認め、男が望んだ剣と魔法のテンプレな異世界に転生させた。
…………と、ここからが大事な…というか「ぼく」の話になる。流れ込んできたのは知識と記憶と感情と経験とは言ったものの、正確にはあともう一つある。それは男の魂だ。というか男の魂の中にそれらがあったってのが正解かな。
本来ならば、年端もいかない幼い子供の肉体にある程度成熟した魂を持つ男が割って入り、その子供の魂を押し潰して成り代わるっていうのが正規の転生手順だったみたいだ。……これだと転生ってより憑依の方が表現として正しくない?
っと、まあそれは置いておこうか。
で、これは男の記憶には無かったから推測になるんだけど…多分女神様は順序を適当にやっちゃったんじゃないかな?
ある程度育った子供に…まあ「ぼく」なんだけども。 その子供に、渡した力を備えた強力な魂を乗り移らせるっていうのが本来の手順だったんだと思う。……でもねぇ…。乗り移らせる予定の子供の方に力をやっちゃってたんだよねぇ…。
まあ、意図…というか理由は分かる。だってあの女神様の男に向ける視線が石ころを見てるみたいな感じの「無」だったもの。石ころ風情大して気に掛けちゃいなかったんだろう。
だから適当にやった結果、乗り移る予定の子供に力を授けちゃった……みたいな感じだと俺は思っている。
ここからが「ぼく」にとって一番のターニングポイントであり、「俺」としての自我が生まれる原因になる話である。
とりあえず大前提を話そう。「ぼく」に宿った力を「ぼく」は充分に使えないのだ。使えても精々、本来のスペックの四割五割までしか使えない。更に言うと男の魂が無いと半分はおろか一切扱えない。 まあ力も男の魂と紐づけされてるんだろう。
………それで…………まあ、うん。結論から言っちゃおうか。男の魂は粉々に砕け散った。 なんでそんな事になったのかってのは正直俺にも分からない。けど推測ならできる。
恐らく男の魂は自らが望んだ力に壊されたんだ。
もっと言うと、男の魂が俺の肉体に入ってきた事によって俺に宿っていた力が本来のスペックを発揮して俺の肉体の中に入ってきた
実際、本当はどうなのかは分からないけど大きく違うって事はないと思ってる。 多分、男の魂は力を使うために必須な鍵を持ってはいるけど力自体は「ぼく」の肉体にあるから、力が宿っている「ぼく」の肉体に入ってきた男の魂が異物として認識されて砕かれたのだと思う。
発揮された力は「あらゆる事象に対する完全耐性」…これだと思ってる。「ぼく」の肉体に憑依しようとした男の魂は、この完全耐性に耐えられなかったのだろう。
そして、結果として砕け散った男の魂の残骸を俺の魂が吸収し、男の知識記憶感情経験を識る事ができ、宿った力の半分程度を行使できるようになった。
表現としては男の人生自体を本として読めて、その経験や知識や記憶、その時に感じた感情をダイレクトに知ることができる…という感じ。
そして力の操作権は得れたものの、男の魂が砕け散った際に、その崩壊に引きずられるように宿っていた力の約半分が消滅した。これに関しての説明は…まあいいか。よく分からないし。
話を戻そうか。 結果として残ったこれらが「ぼく」が「俺」としての自我を確立できた理由となる。
男がもたらした経験や知識、記憶や感情は多感な時期にあった「ぼく」の価値観や精神年齢や思考に影響を与え。
残った半分の力は、男が望んだ力をダウングレードさせた形で俺が使用できるようになった。
あらゆる事象に対するかなりの耐性。あらゆる事をギリギリ一流までは習熟できる程度の才能。人間としてはダントツの魔力。人間の中では最高峰の頭脳。英雄になれる程度の肉体と音速まではギリ捉えられる動体視力。動物に一歩及ばないくらいの五感に全く警戒していなかった致命の攻撃を察知できるぐらいの直感。絶対絶命の窮地でも解決策を考えられるくらいの精神。
ダウングレードしてなお圧倒的ともいえる力の数々。特に「人間の中では最高峰の頭脳」が「ぼく」に多大な影響を及ぼした。
そうして「ぼく」は、やること成すことが上手くいき、子供にしては妙に擦れた考えを持ち、どこかズレた思考をする「俺」となったのだ。
…………と、俺が思う「ぼく」が「俺」になった時の事を考えているのには理由がある。
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―――
「うきゃあー!!?やばいよやばいよぉー!!!」
「こんの馬鹿娘ぇ!!だからあれほど事前準備はしようって言ったのにさぁ!!!」
「だってぇ!今なら報酬金を倍額にするって言われたらやるしかないじゃん!」
そう、なぜなら「深緑の大森林」にて幼馴染のリアを肩に担ぎ、蚊とトンボを混ぜたような見た目をしている魔物である「カトンボ」の大群から逃げている真っ最中に現実逃避をしているからだ…!
「どう考えても口車に乗せられてるじゃねぇか!前似たような事があった時に俺言ったよね!?依頼内容をしっかりと吟味して、その上で徹底的に準備して行こうって言ったよなぁ!?」
「ごめんなさいー!」
「それだけならともかく大蜘蛛に連れ去られて巣の中で糸に巻かれて吊り下げられてるわゴブリンの麻痺罠に引っかかるわ挙げ句の果てにオークに発情薬をぶっかけられるわ……! なんなんだお前!?狙ってやってんのか!?そうなんだよな!?それならそうだと言ってくれ!そうしたら遠慮なく見捨ててやるからよぉ!!」
「違うよ!?全部事故だよ!?」
「全部お前の注意不足だろうが…ッ!」
「ふぇぇ……!」
「「「「「「「「「「「GIGIGIGIGIGI」」」」」」」」」」」
「キチキチキチキチうっせぇぞテメェ!汚ねぇ顎擦りつけて汚ねぇ音鳴らしてんじゃねぇよ!『
魔力を回し呪文を唱え、後ろにいるカトンボ共に向かって風の斬撃を放つ。すると前方に居たカトンボの十数体が切り刻まれ……後ろに控えていた残り数十体のカトンボ共が激昂し、先程以上の勢いで迫ってきた。
「うひゃあぁぁ!!? まずいよアルトー!?」
「分かってる…よっ!」
猛スピードで俺の真後ろまで瞬時に移動してきた虫の噛みつきを直感で察知して前ステップで躱し、回し蹴りで頭をかち割って絶命させる。
「うひぇぁっ!?」
「今度はなんだ!」
「ちょちょちょっと!手に力込めすぎじゃない!?」
「なんだぁ、テメェ…?」
突然だが今の俺達の体勢を思い出してみよう。抱える俺、俵が如く肩に居るリア。
……そう、リアを支えるために脇腹に手をやっているのだ。逃げるために全力疾走している俺が、リアが落ちないように支えるために、支えている手に力を込めているのだ。
「だからもうちょっと緩めてくれると嬉しいなひゃぁ!?」
「無理。我慢しろ」
「そんなぁ…!」
まあ支える力を弱めたら落ちるからね。仕方ないね。
「「「「「「GIGIGIGIGI……!?」」」」」」
「ん?」
「あれ、カトンボ達が散ってったね…?」
「そうだな…。……………………っぶねぇ!?」
何か恐ろしいモノから逃げるかのように去っていくカトンボ共の違和感に首を捻っていると、背筋が凍えるような強烈な殺気を感じ、全力で横に回避する。 そうすると、さっきまで俺が立っていた場所にギロチンと見間違う程に凶悪な顎が突き刺さっていた。
「この魔物は……ヘルカイザーギラファクワガタ!?」
「また面倒な奴が出てきたなぁ…!」
この皇帝クワガタは物理耐性及び魔法耐性がずば抜けて高く、その巨体からは想像できないほど高速で飛び回り、異常に発達した顎で敵を切り裂くA級中位相当の強力な魔物なのである。
「うえぇ…!ホントにヤバいよアルト…! アルトならともかく、精々B級の中位くらいの実力しかない私だと足手まといになっちゃう!」
「それプラス麻痺と発情の状態異常ダブルパンチだもんな」
「うぐぅ…!」
「しかも武器と防具は大蜘蛛の糸でベトベトになって使い物にならないし」
「へぅ…!」
「結論、ギリC級に届くか届かないかってくらいじゃないか? 今のお前」
「ふぐぅっ…!」
髪に結んでいるうさ耳のように見えるリボンをへにょらせて落ち込むリア。……結局はこいつを止められなかった俺にも責任はある、か。
「はぁ…。ちょっと下ろすぞ」
「……うぇ?」
「お前を抱えたままコイツを討伐するのは少し厳しいからな」
「……アルトぉ…。…………いつもごめんねぇ………………」
「謝るにゃまだ早ぇよ」
謝罪なら帰り道にたっぷり聞いてやっからよ…!
「ZIZIZIZIZIZIZIZI」
「ジージー喧しいな。テメェはセミか? あァ? 今ここで逝かせてやんよォ…!」
魔力を回す。意識を切り替える。何百、何千通りと敵の行動を予測する。呪文を唱えて…。
「『
そして……敵は排除するのみ。
「くたばれ、クソ虫」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…………、しんど…………」
俺の周囲には足が全て切断されて体の中央から真っ二つになっている皇帝クワガタと、甲殻がバキバキになって潰れている途中で乱入してきたアークヘヴンヘラクレスオオカブトと、溶けてたり凍ってたり焼け焦げたりしてる数十体のカトンボ達の死骸が散乱している。
……アホほど疲れたな…。はよ宿に戻って寝てぇ。
「大丈夫なのアルト!?」
「おー…少しでも気を抜いたらすぐに寝落ちする程度には元気だぞー……」
「それは元気って言わないよ!」
「つっても今のお前よりかよっぽど戦えるぞ…?まだ状態異常が抜けてねぇくせに無理すんじゃねぇよ……」
「今はアルトの方が無理してると思うけど!」
「俺の場合は気疲れの部類だからまだいける…」
「むぐぅ…」
なに無駄な心配してんだ。そんなことより、お前の発情状態を治したいから早く帰りたいんだが。
「おら行くぞー」
「ちょっ…! ……なんでアルトが背負うの?私もアルトを背負えるんですけど。むしろ私が背負うべきだと思うんですけど」
「あーうるさいうるさい。黙って運ばれろ」
「むむむ…」
そうして無言で歩くこと三十分くらい。ようやく森の外が見えてきた。 やっと外かー…。
「……アルト」
「あん?」
「今日も迷惑かけてごめんね…?……それと、ありがと…」
「…おう」
確かにこいつはあらゆる物事に対して警戒心が足りないし探索中の索敵とかガバガバすぎるし毎回トラップに引っかかるしことあるごとにトラブルに巻き込まれるし何度も同じことを繰り返して学ばないし反省を次に活かす気持ちが極めて薄い
……まあ、曲がりなりにも大切な幼馴染だしな。迷惑はかけられ慣れてるし、これからも付き合ってやらんこともない。うん。
「じゃあお礼としてハグ一時間と膝枕と添い寝をしてあげる。やった後に触り心地の感想を聞くからよろしくねー?」
「やっぱお前との付き合い方を考え直した方が良い気がしてきた」
「なんでぇ!?」
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ストックなんざありゃしねぇ…! 自由な時間が欲しい…!
俺の幼馴染がトラブルメイカーすぎる! 晃斗 @a5dai
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