雷神様の生贄にされましたが、家電を使いたい放題なので問題ありません。
星雷はやと
第一話 土下座村人と生贄
「どうか!! 我らをお救いくだせい!!」
「……え……えっと……?」
県境の山中、大自然に囲まれた村。私は今、村人全員から綺麗に土下座をされている。一体全体これはどういうことだろう。現状が分からず首を傾げた。
私の名前は鈴木美知留。しがない家電販売員である。
決して物語に出てくる様な、勇者や聖女ではない。何か願いを乞われても如何する事も出来ないのだ。今日は会社からの指示により、地方の山中の村に家電を実演販売しに来ただけである。
大型バンを相棒に自然豊かな森や山谷を越え、村に着くと住民達に取り囲まれて土下座をされた次第だ。青空の下、鳶の鳴き声が響く。
「お願いしますだぁぁぁ!!」
「あ、あの……?」
言葉を重ね、地面に額を擦りつける村人達。 具体的に私に何を求めているのか分からない。説明をしてもらえないと、現状を変える事が出来ないからだ。
「はい!! 何でしょうが!??」
「その……『救う』というのは如何いう事なのですか?」
村長らしき、白い髭を蓄えた老人が顔を上げた。
地方は挨拶の仕方が独特であると、以前テレビで観たことがある。この状況は村特有の挨拶なのかもしれない。村の住民は腰が低く謙虚な人達なのだろう。きっとこの大自然が人の心を、清く保ってくれているのだ。良い人達の様だから、彼に必要な家電を提供出来ることは大変嬉しい。
それにしても些か、この状況は恥ずかしい。『救う』という言葉も方言の可能性もある。一般的な意味とは異なる意味をもつのかもしれない。私はそっと訊ねた。
「生け贄になってくだせい!!」
「帰ります」
前言撤回である。真っ黒だ。腹の中が真っ黒である。自分の顔から表情が消えるのを感じる。私は踵を返すと、来た道を戻ろうとした。すると目の前に居た村長が腕にしがみ付いてきた。
「お!お待ちぐだせぇ!!我らをおたすげぐだされ!!」
「断固拒否します! 自分達の事に他人を巻き込まないでください!!」
何故、見ず知らずの人達を救う為に、生け贄にされなければならないのだ。この令和の時代において時代遅れもいいところである。
助けて欲しいのは私の方だ。身近に起こる怪奇現象のおかげで、婚期を逃している。会社でも肩身が狭い思いをしているのだ。人を助けている余裕はない。
「分かりやした……これわぁ仕方ねえ……」
「分かっていただけて……むぐっ!?」
私の言葉が届いたようで、腕にしがみ付いていた村長が離れる。理解が得られて良かった。そう胸を撫で下ろした。
すると、背後から布を口に当てられた。
「すまねぇ……すまねぇ……」
「……うぅ……」
薄暗くなる視界の中。村長を筆頭に村人たちが、手を合わせて謝る姿を最後に視界が暗転した。
〇
『ふぇ……ぐすっ……』
良く晴れた日。公園に遊びに行くと、中央で金色の髪をした子がしゃがんでいた。
『どうしたの?どこかいたいの?』
『……うぅ……まいごになっちゃって……』
私はその子に近付くと声をかけた。すると迷子だと言い、金色の瞳からぼろぼろと涙を流す男の子。
『いっしょにさがしてあげる。ほら、ないてないでいこう?』
『……ほんとう?ありがとう』
私は男の子に手を差し出した。
男の子が顔を上げ、私の手を掴んだ。
その瞬間、目の前が真っ白になった。
〇
「……っ!!」
私は勢い良く布団から飛び起きた。
「はぁ……はぁ……」
どくどくと、全身が脈打つように鼓動が早い。
「はぁぁ……え? 此処はどこだろう?」
呼吸が落ち着いてきたところで、周囲を確認すると知らない和風の部屋だった。い草の香りが心地いい。確か私は村人によって眠らされて……。
「姫様、失礼致します」
「……え?」
可愛いらしい声が響く。障子が開き、着物を身に纏った三匹の鰻が現れた。
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