どっかが違う
@rabbit090
第1話
良い思いと悪い思いを交錯させながら、私はあなたの顔を見つめている。
大好きだった、けど、今はもう嫌いだ。
「良かったね。」
友人にはそう言われるけれど、良くはない。だって良いことなんて一つもない。
私は、彼と別れたことによって、一つ大事なものを失ってしまったのだから。
「この世に、絶対なんて無いのだ。」
私は、一人になった瞬間にその言葉をそっと呟いてしまう。
私は、ずっと孤独だった。けれど、彼と出会ったことによって、大事なことを手に入れたような気持ちになれていた。
けど、違った。
それは無くなることが、できる類のものだった。無くならない、訳が無かったのに私は、ずっと信じていた。
「じゃあ、行ってくる。」
だから私は彼との関係を解消して、実家に戻った。
傷ついている訳でもなかった。傷つくのはもう、終わっていた。今の私にあるのはただ、何もないという空白だけだった。
「よろしくお願いします。」
そして、私は彼と別れて一人になってしまったから、働きに出ることにした。
彼は、私にずっと家の中にいてもいいよ、といってくれていたから、その言葉の通りに前に勤めていた仕事はすっぱりとやめてしまっていた。
けど、家の中でじっとしている日々を過ごすうちに、心が壊れていくように感じていた。
こんなことをしてはいけないと思っていたし、私はすぐさま逃げるように近くのお店に販売のアルバイトをしようと、申し込んだ。
そして、会社員として働いていた時に受付をやっていたので、すぐさま採用された。
今日が、一日目。
三人で店を回しているから、大した人数ではない。
怖いものなど何もない。
私は、どこか強くなったような気持ちになっていた。
「俳優の西岡さんが結婚をしたという事です。」
私はここ最近、この手のニュースを見るとぼんやりとした気持ちになってしまう。
自分に関係があるわけなどないのに、つい他人の色恋に関心が向かってしまう。
なぜなら、きっと私は知りたのだ。
分からないから、知りたい。
彼はなぜ、私ではない人間を選んだのだろうか。
そして、私はその事実に何故疑問を抱いてはいないのか、分からない。
分からないから私は。
「おめでとうございます。」
テレビの中でインタビューに答えている俳優が、笑顔で新妻のことについて語っている。
カップの中のコーヒーが揺れている。
私は、愕然とした気持ちを抑えられない。
そして、そのまま静かに、テレビを消した。
やっぱり、要らないのだ、きっと、そんな風に思っていたから。
どっかが違う @rabbit090
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