40 冬川 秋のはじまりに
夏休みが終わる頃には札幌の夏も終わる。肌を焼くほどの熱は地球の反対側に消えた。日が暮れると途端に肌寒くなるし、隣の席の男はどことなく萎らしく見える。
そういえばブレザー着てるとはいえ、日焼けの跡もすっかり無くなってるなぁ。夏を全力で生きる男の季節が終わったからか、家族のゴタゴタがあったからかはわからない。とにかくだ。あの暑苦しさとウザったさが無きゃ無いで最初はちょっと物足りなかったんだけど、これが本来の夏焼って感じがしてきたな。春から夏にかけては、アレ絶対に無理して明るく振る舞ってた気がするんだ。
そんな奴にウザイだの暑苦しいだの思っていた僕は鬼なのか……? と一瞬思ったけど、まぁ、事実だし。
「何考えてんだ?」
「はっ!」
顔を上げると夏焼が見下ろしている。いつのまにか隣に立っていた。不思議そうな顔をしていた。
「声がでかくない……」
「は?」
「イヤ、なんでもないよ。秋のテストについてちょっと……」
「ふーん。じゃあさ、また冬川の家でテスト対策しようぜ! てか次、教室移動だぞ」
「あぁ、そうか。行こ」
僕は夏焼に促されて席を立った。見上げると、夏焼はニカっと笑った。とにかく、叔父さんの家でも楽しくやれているようで安心したよ。いや、トモダチとして良かったと思っているだけだよ。
昼は山本くんたちと学校内の屋外広場で弁当を食べた。夏焼は木々の葉がひらりと落ちるごとに遠い目をしていた。そしてチビチビと卵焼きをつつく。雅也に「夏焼ってこの時期いつもああなの?」と耳打ちしたら、雅也は呆れた顔で頷いた。
「あいつな、夏が終わったのがすっげぇさみしいのかしらねぇけど、九月になると急におセンチ野郎になっちまうんだよ。ひととおり浸ったら気が済んでいつもの暑苦しい奴に戻るから安心しろ」
「なんだ、相変わらずちょっとバカで僕は安心したよ」
すると、夏焼がビシっと指を指してくる。
「そこ! 全部聞こえてんぞ! 俺が季節の移り変わりに身を竦めて四季を感じ取ろうとしているのに! 風情のかけらもない奴だな!冬川は!」
「うるさいなぁ、国語苦手なくせに回りくどい言い方しなくていいから」
僕がそう言いながら校舎をふと見ると、通りすがりの田口青葉と咲子ちゃんと目が合った。二人ともにっこりした顔で夏焼の方を見たから「多分僕も同じ気持ち」って思った。
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