37 冬川 教えて 心臓くん
掴んだ胸の近くで、こいつの心臓が動いているのがわかる。なぁ、心臓君、どうしたらきみのご主人は泣き止む? え? 大型犬だと思って頭でも撫でておけ?
そうなの?
僕はもう片方の手で、なんとなくこいつの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。さらさらした茶髪が乱れる。よく見たら、染めてるみたいで地毛は黒なのか……。
「俺、犬か」
と夏焼がようやく口を開いた。鼻を啜って少し笑った。
「そう。おまえはムーたんの下僕だ。明日朝、散歩に行くんだ」
僕がそう言うと、夏焼は「うん、行く」って返事した。犬の存在って偉大だと僕は思った。そしてふと思った。
「……、僕はやっぱ人前で泣くの無理だな。家でムーたん言ってるの見られた方がマシ」
「うっせ」
夏焼はそう言って、腕で目元を拭った。
そして少し照れ笑いをしたあと、ようやく僕の手を解放した。照れ隠しなのか知らないけど「ムーたん♪ヨシヨシ」って僕のマネをしだし、可笑しくなってケラケラ笑い出した。いいよ、泣くより笑ってくれるんなら。
それを見ているうちに、同時に僕のなかの「いたい」も薄れていった気がした。扇風機がカタカタ首を振って笑ってた。
翌朝は僕と夏焼とでムーたんの散歩へ行った。夏の朝は涼しくて気持ちがよかった。夜勤明けで帰ってきた親父と、出張から戻った母さんと顔を合わせた夏焼は少し緊張していたけど、この日はみんなで中島公園の河川敷へ向かい、花火を見た。
ムーたんを抱きかかえた夏焼は子供みたいに緩んだ顔で花火を見上げていた。結局この日も夏焼は僕の家に泊まった。
その夜は僕の部屋で並んで寝た。
布団を被ると、あいつは何も喋らずにすぐに寝息をたてて。
僕もそれを聞いているうちに、気がついたら寝ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます