26 冬川 笑ってしまう 

 僕の想像通り、翌日から一部の女子からの風当たりが強くなった。高岡派閥の男もだ。僕が教室に入ると足を掛けようとしてくる男子や、通りすがりで「キモ男」と囁いてケラケラ笑う女子。


 僕は知っているんだ。この行動は、夏のテスト対策に追われているストレスのハケ口に過ぎないって。そのきっかけになったのが昨日の僕の発言で、男子も女子も、久々にイジれるオモチャを手に入れて壊れない程度に遊んでいるだけなんだ。

 それに、なんてったって僕はいじめられ経験者だ。だからこんなの痛くもカユくもない。


 咲子って子は高岡のグループを抜けたみたいだ。一人でいる時間が多くなった気がするけど、田口さんが声を掛けていた。女子の世界も色々あるんだなぁ。


「おはよー!!」

 廊下から一日ぶりの大声が聞こえてくる。喧しい足音も。なんだよ、もう風邪治ったのかよ……。

 教室に飛び込んできた夏焼に「ウザ」って顔を向けると、夏焼は嬉しそうに笑った。日焼けの赤は残ってるけど、めちゃくちゃ元気だった。大股で席にやってくる。


「冬川~! 俺のために怒ってくれたんだってな! 雅也から聞いたぞ! 俺は嬉しい!」

 あ、それで今、微イジメ発生してるから教室でデカイ声で言わないで……。ほら、今絶対に高岡さんが舌打ちした。


「うっさい。治るの早すぎるんだよ。もうちょっと静かに過ごしたかったのに」

「え??? 何? 聞こえない」

 夏焼は満面の笑みで僕の顔を覗き込んだ。それを見て、僕もフっと笑ってしまった。こいつの全力笑顔には、たぶん人を緩ませる成分がある。


 たぶん。

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