25 冬川 教室 怒る
「夏焼は~、早退させました。みんなも体調に気をつけるように。もうすぐ夏のテストだからね」
クラス担任の藤間先生が地理の授業前にそう説明した。さっき保健委員が夏焼の鞄掴んで出て行ったから「あぁ、あいつ帰るんだな」って思ったけど。
僕はノートにペンを走らせながら隣の席を盗み見た。いつもだったら隣でニコニコしながら教科書開いてノートにくだらないラクガキを書いて僕に見せてきたりするのに……。いや、たまには静かに授業が聞けていいじゃないか。僕はそう思って、午後を過ごすことにした。
休み時間になって教室移動をしようとロッカーに荷物を取りに向かうと、クラスのギャル代表、高岡さんが女子とペチャクチャ喋ってる。ちょっとどいてほしいんだけど。そう思いながら近くに立って居なくなるのを待った。山本くんも席を立ったから、一緒に移動したいな。ちょっと待ってくれないかな。
高岡は僕の存在に気づいていないのか、ずっと喋っている。学食で見かけた咲子って子もいた。ちょっと俯いてる。
「やっぱさ~、あいつヤバイって。学校じゃヘラヘラしてるけど、こないだもヤクザっぽい人と街にいるの見た人いるんだってぇ。咲子、あんな危ない奴やめときなよぉ」
「えぇ? それって、本当なのかな……?」
高岡は、手で咲子の肩に軽く触れた。咲子は困った顔で返事を濁している。高岡はさらに続けた。どうしても咲子に夏焼のことを諦めてほしいみたいだ。トモダチを思ってのことなのか、意地悪なのか僕には分からなかった。
「今日だって朝っぱらから保健室に行ってさ、絶対風邪じゃなくて酒とクスリだよ。朝までやりまくっててサボってたんでしょ。だって言うじゃん、バカは風邪引かないって」
キャハハハ、って高岡が笑い声をあげた。手までバシバシ叩いている。なんだって、嫌な感じだな。全く……。
「あることないこと言うなよ。あいつ何も悪いことしてないし、それ全部嘘だから。今言ったこと全部取り消せよ!」
誰かが言った。うん、僕も同意。激しく同意するよ。
え? なんで女子二人とも僕を見てるの? 高岡は呆気にとられて真顔だったし、咲子は涙目だった。僕と同じくロッカーに荷物を取りに来たのか、山本くんと雅也まで驚いた顔をしている。え? 今の誰が言ったの? 雅也じゃなくて?
まさか僕? 心の声、全部出てた!?
僕が不思議そうな顔をしていたのが癪に障ったのか、高岡が顔を真っ赤にして僕に突っかかってくる。
「なんだよおまえ、超キモいんだけど!! バカをバカって言って何が悪いんだよ!」
「夏焼はバカかもしれないけど、ありもしないことを面白おかしく言うなっていったんだ」
あぁ、反論してしまった……。人は一度見せた顔を引っ込めることがなかなかできないのだよ。高岡さんもきっとそうなんだろうな。
なぁなぁ、ムキになるなよ。僕はあいつが夜の街にいた理由をちょっと知っているだけだよ。悪い遊びなんてしてないしヤクザの知り合いもいないよ。それを言いたいんだけど、めちゃくちゃコワイ顔で睨んでくる。女子こわい。
「意味わかんないんだけど! あんたこそバカのくせに! もういいよ、咲子行こう!」
高岡はそう言って、咲子の腕を引っ張って行ってしまった。咲子は僕へ振り返り、唇を震わせた。きっと、僕と同じ事を思ったのかな。
山本くんが僕のところにやって来た。「女の子って、怒るとコワイね」ってため息をつく。雅也が僕を見て笑顔を浮かべた。「冬川やるじゃん」って僕の肩に手を回す。やるじゃん、じゃないよ。女子の復讐は怖いよぉ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます