7 夏焼 放課後 図書室
チャイムが鳴った。これで今日の授業も全部終わり。……終わりかぁ。今日は部活がない日だから軽音メンバーでも集まれないし。家に帰れば電子ピアノ弾けるけど、ちょっと気が乗らないんだよな。ほら、やっぱさ、防音室でガンガン音だしたいじゃん。
ま、今日もいつもみたいに図書室に寄ってから家に帰るか。席を立って教室から出ると廊下には下校生に紛れて同じバンドメンバーの小林がいた。窓を背に立っている姿はモデルみたいだった。こいつはドラム担当。女子にすげー人気あるんだ。
俺は小林に駆け寄った。窓の向こうには高い空が広がっている。青い空と白い雲が視界を埋め尽くした。聞こえてくるセミの声に「夏って感じで喧しくていいな」って言ったら、「夏焼みたいだよね」って笑顔で言われたぞ。俺、小林のそういうとこ、嫌いじゃない。
じゃあな、って言って俺は図書室に向かった。読みかけの本があったし、今日の授業内容もまとめておきたかった。家に帰ってやろうとするとさ、どうしても面倒になるんだよな。俺、塾に行ってるわけでもないし。学校で出来ることはここで済ましておきたいんだよね。
図書室のドアを開けたら、田口と鉢合わせた。ほぼ同じくらいの目線の高さだから、俺は驚いて跳びはねてしまった。
「おぉっ!」
「そんなにびっくりしなくてもいいんじゃない?」
田口青葉はそう言って、口元に手を当てて笑った。図書委員の仕事で寄ったのかな。俺はさっきの十五分休みのことを思い出した。
「いやあの、さっきは急に呼び止めて悪かった」
「え? ああ、休み時間の? あんな直球で誘われたの初めてだったから嬉しかったよ。未だに私のこと遠巻きで見てくる人いるから、ひそひそしたりさ」
「そーなの。結構大変なんだね」
「じゃ、私いくね」
田口はそう言って、ひらりと俺の横をすり抜けた。美人って苦労してるんだな。
「おう。気をつけろよ」
俺がそう言うと、田口は思い出したように振り返った。
「そうだ。今度さ、梢ちゃんと山本くんたちとボウリング行こう、って言ってるの。よかったら来ない?」
「……、いいね。詳しいこと決まったら教えてよ」
「うん。そしたらまた明日」
田口の後ろ姿を見送って、俺は図書室に入った。人はまばらだけど、三年生の姿が目に付く。夏前のテストに備えて勉強してるんだろう。俺はミステリコーナーの棚を見てから席に座った。しばらく読み進めてから本を戻し、鞄から教科書を取り出した。
しばし内容を睨んでから、眼鏡をかけた。目の前には呪文の様な文字が並んでいる。俺は古典とか漢文とか、そういう古めかしいものが苦手なんだよね。まぁ、今日は時間もあるし、ゆっくり読んでくとするか。
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