死にたい私が余命半年の女の子に出会うお話。
ここあ とおん
ねえ、あなたのお名前は?
「ねえ、ちょっといい?」
私はポニーテールでピンクのパジャマを来た背の高い女の子に話しかけられる。
私はその子とは話したこともないし見たこともないので緊張してただこくんと頷くだけだった。
「お名前、なんていうの?」
その子は私の目線に合わせるようにしゃがむ。まっすぐに透き通った瞳は私の緊張をほぐしてくれた気がした。
「……」
でもやっぱり私は人と話すのがなんか怖くて下を向いたままだった。
「ちなみに私はね、冨永
その人はなんだろう……朝日みたいな人だった。その人の声を聞くと暖かくなる。
また私はこくんと頷く。
「
「あ、ごめんお母さんが呼んでる。またね」
そして彼女は立ってお母さんだという人の所へ向かった。
……冨永
でも、あんな明るい人とは喋れない。多分関わることないんだろうな。
そして私は気を紛らわそうとスマホを開いてひたすら文字を打つ。
その瞬間、私のお母さんが病室に入って来た。
「おはようあす。あ、また小説書いてるの?」
私は母の方へ目線を移してこくんと頷く。
私は小説を書くのが好きだった。物語の奥で登場人物たちを動かすのが自分の第2の人生みたいで。
そして私は私が嫌いだった。
だから小説を書くのは一種の現実逃避だった。こんな私を上書きするための。
「あ、そうだ。あすが読みたいって言ってた本買って来たよ」
そう言ってお母さんは病室の机にその本置いた。
ありがとう……。
そう言いたいけど、言葉にできない。これも私が私を嫌う理由の1つだな。
「ねえ、あす。学校のことなんだけど……」
私の文字を打つ指が時間が止まったかのようにピタッと止まる。
学校……?
「あすはさ、もう一度学校に行きたいて思う?」
私は考える暇もなくすぐ首を横に振る。学校なんて私にとって処刑場だから。
「あ……そうだよね。ごめんね思い出させちゃって」
そう言うとお母さんは買ってきた花を置いて静かに病室を出ていった。
私が今、書いている小説は明るい性格の主人公が人気者すぎてクラスメイトからいじめられるお話。しかしその子はいじめられても明るい性格で乗り越える。
まさにこれが理想の私だったな。私もこんなふうに強ければここに入院することもなかっただろう。
でもこの子には余命半年という病気を持っている。
トントントン……
と部屋をノックする音が聞えた。誰だろう。お母さんは1日に1回しか来ないし。
「失礼しまーす」
と言いながらその子はゆっくりと病室のドアを開ける。
「あ!いた!さっきの子!」
見覚えある顔と聞き覚えある声。もしかして背が高くてポニーテールのあの子。冨永……。
「……
「お!名前覚えてくれたんだありがと!」
彼女は大きな声で私の元へ歩く。
「私なんかあなたのことが気になってさ、探してたんだ」
彼女はベッドの横にある机に座る。
「気になったって……?」
「不思議な子だな〜って思ったの。あ、名前あすっていうんだ」
彼女はベッドに貼ってある私の名前を見る。
「ずっとベッドにいて暇じゃないの?」
「……ううん。暇じゃない」
「え?じゃあさっきまで何してたの?」
小説を書いてた。なんて恥ずかしくて言えない。でも私は思った。私が書いてる小説の主人公に彼女は似ている。
「お話……」
「え?」
「お話を……作ってた」
「お話?」
彼女は「どういうこと?」と言いながら私がいるベッドに座る。
「これ。私は小説を書くのが好きなんだ」
「へえ〜。私は読むのなら好きだよ。国語なんて大嫌いだし」
彼女はスマホの画面を覗き込みながら言う。
「ねえ、初めから読んでいい?」
「うん」
私は彼女にスマホを渡して彼女は真剣な表情でそれを読む。
どうしよう……。私、他の人に自分の作品見せたことないから恥ずかしい……。
「……うん。いいね、面白い!」
「……え?ホント?」
「うん。なんか続きが気になるもっと読んでみたいって思ったよ!」
私は急に花が開花したみたいにパッと嬉しくなる。
「ありがとう……!」
「なんかこの主人公、私に似てるね」
「え?ああ……確かにちょっと似てるかもね」
この物語の主人公は明るくて元気で美人。そして……。
「私ね、この話の主人公みたいに余命半年なんだ」
「……え?」
あんな明るい人なのに?なんで?
「私、生まれつき身体が弱くて病気だったんだけど。お医者さんに余命言われたときはやっぱそうなんだって感じだったな」
なんでだろう。なんでこの人は自分の死を他人事みたいにはなしてるの?
「
「そりゃあもちろん会いたい人に会えなくなるってのは淋しいし怖いよ。でもどうせ怖がっても死ぬんなら怖がってる時間が無駄じゃん?」
確かにそうかもしれない。
「だから私は残された時間。いつも通り過ごすことにしたの!今日だってあなたに会えて嬉しい!」
この人は偉いな。少ない時間を生きようとしてるのに私は……。
「ねえ、
「ん?」
「また、小説の続きができたら見てもらってもいい?」
そう言うと彼女は優しく笑う。
「うん!」
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