第4章 男子禁制86 二人の告白
「僕……死者の書にメールを出したんだ」
「何でそんなことしたの! 駄目よ、遊びでもそんなことしちゃ」
「だって。お父さんとお母さんに会いたかったから……」
海はうつむいて涙声になった。
「紫生ちゃんたちのやりとりを聞いてメールを出したのね。お父さんとお母さんに会いたいから。そうよね? 海」亜羽が聞いた。
「うん」
「どうやったの?」
「そこのタブレットを使って。お姉ちゃんたちの話を聞いたあと、ネットでやり方を調べた。お父さんとお母さんの名前を書いてメールを出したんだ」
確かに小学生でもちょっとタブレットやパソコンが使えてメールアドレスさえ持っていれば、やり方自体は簡単だった。普段からタブレットやパソコンで遊んでいる海なら不可能ではない。
「海。前にも呪いの手紙を出して、鬼が来てリサが殺されたって泣いたでしょ? 今度は死者の書にメールを出したの? あのとき、もうそういうことはしないって約束したのに」
「ごめんなさい」
海がしくしく泣き始めると見かねた礼子が海のそばによって頭をそっと撫でだ。
「お母さんとお父さんに会えるんじゃないかと思って、藁をもすがる思いでやったのよ。紫生ちゃん、もう怒らないで。もう出さないわよね」
礼子に聞かれると海はうなづいた。
「どっちにしても、海はお父さんとお母さんの名前を書いて出したんだから、リサが蘇ったのとは無関係よ。心配ないわ」と紫生がいうと海はぱっと表情を明るくした。
「本当?」
「ええ。でもね、海。残念だけど死んだ人は生き返らないのよ。分かった?」
紫生がそういうと海は不満そうに何かいいたそうだったがぐっと堪えて小さく頷いた。
「でもまあ、大怪我でなくてよかったじゃない。ねえ、海」
亜羽がそういった。
「うん。天使が助けてくれて一緒に空を飛んで帰ったんだ」と海は答えた。
「天使?」紫生はまた驚いた。
「そうだよ。天使が来たんだ。洗礼者ヨハネにそっくりな天使だよ」
どんどん話が荒唐無稽になっていくので、紫生は亜羽とダイニングに移動した。
「転んだ弾みで幻覚でも見たのかしら」
紫生が心配そうにいうとあとから入ってきた礼子が
「爺に見せてもらった洗礼者ヨハネの絵が記憶に残っていたから混乱したのかもよ」といった。
「そうね。それならあるかも。暫く気をつけて様子を見ていましょうよ」と亜羽がいったので紫生も納得した。
桃李と怜が一緒に帰宅したのはそれから少ししてからだった。怜はその日も桃沢家で晩御飯を食べることになっていたのだ。夕飯後、早めに海を寝かせた紫生が貴賓室にいると怜が入ってきた。
「海の様子はどうだい?」
「もうぐっすり。いまのところ問題なさそう」
「それはよった」
「海にはリサは死んだって言ったけど、本当はどこかで生きているんじゃないかと思って怖いの。変よね」
「リサは死んだよ」
「そうよね」
「そういう意味じゃないんだ」
「どういうこと?」
「僕のせいだ。リサが死んだのは僕のせいだ。僕が殺したんだよ」
紫生は一瞬黙ったがクスッと笑った。
「冗談ばっかり。だってリサはスピリットに襲われて死んだのよね」
「そのとおりだ。けどスピリットが現れたのは僕のせいだ」
「でも怜は呪いの手紙をリサに見せただけで、リサを囮に使ったわけじゃないってあの時いったわよね。姫野さんを囮に使おうとして失敗した後だったから。姫野さんとリサみたいにつながりのある人間を囮に使ってはならないのが狩りのルールだからっていったわよね」
「それはそのとおりだよ。けど僕はやっぱり、あの結果を予測していたんだよ。いや、ハッキリいって期待していたんだ。僕が何もしなくてもあの手紙を見せればリサが勝手に自分の鬼を呼ぶってね。だからこそ、掟を破ったとして報いを受けたんだ」
由良によってブレードを止められた怜がスピリットに襲われ瀕死の重傷を負った姿がまた蘇った。
「僕があの手紙を見せなければせめてリサの両親は死ななくて済んだ。きみたちの最後の身寄りだったのに。本当に済まない」
ソファに座ったまま下を向いた怜の肩がわずかに震えている。紫生は隣に座った。
「そうじゃないかと思っていたの」
「え?」怜は顔を上げた。
「怜はわたしたちを助けようとしてくれたんじゃないかって。海があんなにリサに怯えている理由は分かってるでしょ? 夏川家で酷い虐待を受けていたって」
そう話しながらも紫生の脳裏に夏川家での苦しい記憶が浮かび上がってきた。
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