第4章 男子禁制84 生き返ったリサ
同じ頃、海は鳩ノ巣渓谷に向かう国道沿いに隠れるようにひっそりとある脇道に入ると、急なつづら折れの坂を一人でとことこと下り始めた。おやつの時間を少し過ぎていてお腹が空いていたので自然と速足になる。
高い杉の木に囲まれた坂道は、シーンと静まりかえり、鳩ノ巣の胎内へと深く深く降りていく。最初の折り返しを曲がると、もう国道のある外の世界とは完全に遮断された別世界だ。
海は途中で拾った長くて細い枯れ枝をズルズルと引きずりながら、一人でごっこ遊びでぶつぶつ呟きながら坂を下っていった。
すると頭上からガサっという音が降ってきたので振り返って耳を澄ました。プッチが迎えに来たのかもしれない。
「プッチ?」
呼びかけたが応答はない。それにプッチなら下から上がってくるはずだ。
気のせいか。海はまた坂を下り始めた。するとポキンっと誰かが枝を踏む音が聞こえた。
もしかしたらお姉ちゃんだろうか。亜羽と一緒に出掛けるといっていたが夕方に帰ってくるはずだ。
そう思って今来た道を振り返り、しばらく坂の上の折り返し地点に誰かが現れるのを待ったが、誰も降りては来ない。
何だか急に怖くなり急いで坂を降りようとしたその時、杉林の向こうの石畳を誰かがタッタッタと駆け下りてくるような音がして、ピタッと止まった。
誰かが立ち止まって息を殺している気配がする。
やっぱり誰かいる。
海は立ち止まって、杉林の向こうに向かって「誰?」と声を掛けたが返事はない。急いで坂を駆け下りようとした時、またタタタタっと足音がして、杉林の間を動く人影が見えた。
お姉ちゃんだ。僕を驚かせようとしているんだな。
「お姉ちゃんでしょ? 怖がらせるのは止めて」
そう声を掛けるとタッタッタと足音は動き出し、つづら折れの坂の折り返し地点にその姿を現した。
「おね……」
そこまでいって海は凍り付いた。坂の上に立ってこちらを見ているのは夏川リサだった。死んだ当時のまま、高校の制服を着ている。海の頭の中は真っ白になった。
どういうこと?
リサは一直線に坂道を駆け下り、こちらに向かって来る。
う、うわぁー! っと海は叫び声を上げ、持っていた枝を放り出し坂道を猛然と駆け下りて逃げ出した。それでもリサの足音が後ろから追ってくる。
つづら折れの坂を曲がる時に視界の端で上を見るとリサの姿がもうすぐそこまで来ていた。恐怖で全身の血が凍る気がしたが、必死で坂を駆け下りた。
また後ろを見ようとしたとき、石畳の段差に爪先が引っ掛かって勢いよく宙を飛び、次の瞬間石畳に身体を激しく打ちつけ、強い衝撃が全身に加わった。
必死で起きようと上体を起こしながら、後ろを振り返るとすぐ目の前に自分を覗き込むリサの顔があった。
その瞬間「出して出して! ここから出して!」と必死に叫んだ夜の記憶が蘇った。
殺される。海の意識はそのまま遠のいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます