第4章 男子禁制82 土蜘蛛退治3
しかし二人が回るとフィット&フレアのシルエットのガウンジャケットの裾が綺麗に広がり、舞も綺麗にシンクロしているので観客は異変に気付かない。
「魔族の狩りは美しくなければならない」初めて桃李と怜の狩りを見たときにプッチがいった言葉を思い出した。「魔族の狩りを見た者は、その美しさに魅入られてしまうのさ」と。
まさにそのとおりだった。
冥界で玄世の狩りを見たとき、その光景が紫生の魂に刻まれた。というよりも、その光景が刻まれることにより、魂の存在を感じたのを覚えている。
今舞台で踊る二人の舞もまた美しく怪しくそして危険だ。何も知らない観客たちは食い入るように見ている。これ以上舞えばこの美しさに取り憑かれてしまうのではないかと不安になる。
イソギンチャクが向きを変えて戻ってきて二人をかすめた。が、鬼の皮を剥いで作られたレザーと魔力のかかったハーブを食べた蚕から採ったシルクで刺繍がされたガウンは簡単に火を通しはしない。
舞台袖からそれを見ていた啓介は大太鼓の松原に「そのまま演奏を続けてくれ」と指示を出し松原は無言で頷いた。
「どうしたらいいのプッチ」紫生が聞いた。
「うーん。防御が出来ても攻撃ができないんじゃあな。いつまでも回っていたらいい加減観客も気付くだろう」
そのとき土蜘蛛が「おのれ、魔族めぇ」と腹の底から声を出しイソギンチャクを奏楽隊の方に吐き出した。
それは矢のようにまっすぐ実里の方に向かっていった。
咄嗟に怜が危ない! とブレ―ドを飛ばしたので実里の目の前でイソギンチャクは引き裂かれて床に落下し、床がジュワ―ッと音を立てて溶けた。実里はギョッとした表情をしながらも笛を吹き続けた。
ブレードはブーメランのように怜の手元に戻ってきた。その時初めて会場がざわつき始めた。
「今の何?」という声が紫生たちの後ろからも聞こえ始めた。
すると土蜘蛛は鬼から胡蝶の面に早変わりし「怜、わたしよ」とリサの声を出した。怜が動揺し、桃李が「罠だ!」と叫んだその瞬間、怜は土蜘蛛に捕えられ舞が止まりそうになった。
観客を含めた会場ごと、あっとなった瞬間、舞台上に水のように真っ白い霧が流れ込んできた。
霧はどんどん深まり舞台を覆い隠した。そして霧の中が稲光のように何度か光ったかと思うと、スッと霧が晴れまた四天王と土蜘蛛が現れ、息の合った妖艶な舞を見せたあと四天王は見事に土蜘蛛の首を切り落とした。
場内から一斉に拍手が起きた。幕が閉じても拍手は続いた。
紫生と亜羽は抱き合って喜んだ。「よかったバレなくて~」
「まさか土壇場で桃李が水の術を使うとは。火事場の馬鹿力とはあのことだ。犬井が泣いて喜ぶぞ」とプッチがいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます