第4章 男子禁制72 不仲な二人と狩りの犠牲者1
翌日から二人の猛特訓が始まった。重たい衣装を纏い、神楽独特の言い回しや所作や動きを練習した。魔族のハンターの高い身体能力からすれば衣装の重さも独特の動きも回転も苦ではなく、団員たちが驚くほど早く上達した。
言い回しも徐々にそれっぽくなっていたが、唯一上手くいかなかったのが二人が息を合わせて動くことだった。
頼光の前に出た時の独特の立ち方やお辞儀はもちろん、大きな扇を使っての優雅な舞い、刀を交えながらの土蜘蛛退治の場面も完全にシンクロさせなければならない。
最も難しいのが二人揃って綺麗にくるくると回り続けることだった。
回転すると腰からぶら下げた飾りが綺麗に広がり華麗で美しいのだが、何度もぶつかりそうになっては舞が中断し終いには言い争いになり険悪なムードになるのを繰り返す。幸いなのはこの間スピリットが現れなかったことだ。
泊まり込み練習から三日が経った日の昼にふいに桃李と怜が鳩ノ巣に戻ってきた。
「今日は練習休みだから家で休めって啓介さんに言われたんだ」
と戻ってきた理由を桃李が説明すると、一緒に戻ってきたプッチが
「本当は喧嘩が絶えずに雰囲気が悪いから、頭を冷やせっていうこと」と小声で説明した。「このままじゃ、舞台は失敗。やらない方がマシだな」
「そうなのね」と紫生は小声で答えると二人に向かって「温泉に入ってゆっくりしたら」と提案した。
「怜に言ってくれ。水風呂で頭を冷やしたほうがいいって」と桃李がいえば
「桃李に双竜の滝に打たれて一から出直せと伝えてくれ」と怜が応じたものだからお互いの胸ぐらを掴み合って一触即発になる始末。
すぐにプッチが間に飛び込んで尻尾で両者の頬をペシッと叩いてソファに着地。
「ずっとこの調子なんだ。化け猫に喧嘩の仲裁させるなよ。何しろ喋るわけにいかないんだ」
プッチの発言はスルーして桃李が聞いた。
「お前、今日講義ないのか? 姉貴と海は?」
「わたしは午前中で授業が終わってさっき戻ったところ。亜羽さんは朝から旅館のお手伝い。海はもうすぐ帰ってくるから待っているところ」
「へえ」
ギスギスした雰囲気を変えるために紫生は大学の話をした。
「ところでね、二人が大学に来ないからモモノフと黒沢会が大騒ぎなの。わたしも色々聞かれて、取り調べとか尋問に近いわね、あれは。困ってるの。だから誰にでもいいから返事を出すなり、連絡するなりしてよ」
「僕は黒沢会には連絡先を教えてないから連絡できないし、仲のいい奴には連絡してるから問題ないはずだ」
「俺はモモノフに二、三人連絡先を教えてるかもしれないから、もし連絡来たら適当に返事するよ」
そのときリビングに玄世が入ってきて三人は驚いた。
「玄世様!」とプッチ以外は居住まいを正した。
「勝手に入っていいといわれたから入ったよ。急いでいたから渡り廊下から来た」
「もちろんです。俺と怜はたったいま戻ったところだったんです」
「それはちょうどよかった」
「何しに来た?」とプッチが耳を搔きながら聞くと
「姫野さんが退院したぞ」と玄世が答えた。
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