第2話 闘技場のルーキー
裏闘技場と呼ばれる場所がある。命懸けの場所だ。
裏闘技場は表の闘技場とは違い死ぬまで戦う。その分稼ぎが良い。
妻を幸せにしてやりたい。子供も高級学校まで通わせてやりたい。
俺にできるのは、ここで荒稼ぎして引き頃で引いて余生を楽しむ事だ。
死ぬ気は無い。死にたくない一心で俺は勝ち続けてきた。
そして、この試合で俺は最後にする。勝って俺は余生を楽しもう。
新しく産まれる子供も居る。顔を見るまで死ねないな。
「あなた……」
妻のリーゼが私に口づけをする。
「大丈夫だ。四人で今日は少し豪華なパーティーをしよう。予約もしている」
「そうね。無事に戻ってきて。またあなたの好きなサラダを作ってあげるし、新しい子供もご両親に言ってないよ」
「わかっている。戻ってくるよ、必ず」
俺はそう約束し愛機に乗り込む。魔法をものともしない重厚な特殊装甲。軽量化と出力を上げて機動力も確保している。そして、愛刀『リュウセイ』さえあればこの世に敵は居ない。
最後の戦い。少し買収して新人にしてもらった。
すまないが、私と、私の妻の為に死んでくれ。
「ふぅ……『マリーナ・ランス』。行くぞ!!」
開始と同時に即座に距離を詰めての一撃必殺の打ち下ろし。新人は反応出来ていない。
せめて楽に死なせる。大きく振りかざし、しっかりと座席へ向けて振り下ろした。
「なっ!?」
死んだ。そう思い込んだ瞬間。新人が加速して俺に突っ込んできた。振った上段の剣の弱点を即座に見抜いた上で突っ込んで攻撃の間合いの更に内側へ……
「やるな!?だが……」
ガン!!
コックピットも重厚な装甲で守られている。そう簡単には通さない。冷静に突き放してもう1度リュウセイを振ればこいつは死ぬ。
「離れろぉ!!」
突き放そうと手で振り払おうとするが中々離れない。そして、この身動きのし辛さ……
「まさか脚まで絡みついているのか!?」
その状態で的確にコックピットへ打ち付けてくる。
このままでは危ない。流石に厚みがあったとしても何度も切られればいつかはコックピットへ到達してしまう。
「グッ!?クソ!?離れろ!!畜生!?」
何度目かにコックピットに凹みが生じた。その次に振り下ろされたナイフによってコックピットに光が差し込んできた。
見える景色に、鋭利な刃物が見えた。
「………や、やめ」
そして、それは自分へ突き刺さった。
死んだというのに少しの間は意識はまだはっきりしているらしい……
ああ……すまない。約束が守れなかったなリーゼ。
妻を頼むぞ………ザ■■
二度目に振り下ろされたナイフで、本当の絶命が訪れた。
それでも尚ナイフは振り下ろされる。
死体はどんどん滅茶苦茶になり、振り下ろされる度に肉片がコックピットの穴から飛び出て地面へ落ちる。
見せ付けるように何度も何度も何度も振り下ろされる。
夫の死体が次々と潰されていく。
原型がわからなくなりはじめ、地面に無数の潰れた臓器と血液が水たまりのようになってようやくナイフは折れた。
終わった。誰もがそう思った。
残虐的だったが、あの不敗伝説を打ち倒したルーキー。大番狂わせに観客は熱を持っていた。
司会が口を開けて勝利を高らかに言い、その熱を開放させようとしたその時だった。
ゴオオォン!!
振り下ろされる。ナイフを失っても尚、コックピットを叩き付けた。
言葉を失い、静かになった闘技場に響き渡る。
ゴオオォン!!ゴオオォン!!!ゴオオォン!!!!
自らの手が変形してしまっても尚振り下ろす。
魂すらも砕かんとする狂気じみたものに人は恐怖を覚えた。
そこそこ見てきたはずの残虐的な戦闘後の行為。記憶と常識の考えを上回る勢いでヤツは人々に刻み付けた。
死の恐怖を知らない奴にすら覚えさせる程に……
そして、手が止まり本当の静寂が訪れた。
動かない二機。突然動かなくなった化け物。
何かを求めているのか?
血か?供物か?臓器か?人か?恐怖か?闘争か?
わからない……だが、終わったとなればやる事は一つ。
自らがあのようにならないための拍手。
誰もが死にたくない一心で拍手する。化け物の気を良くする為に一心に褒め称える。
ヤツは……あの怪物は
殺戮の
人は、人知を超えた存在に出会った時にどうなるのだろうか?
この闘技場では、人はこうした。
褒め称えた
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