第56話 これでよし
アレックスが、父親であるヒュージの罪を告白して、追放して……
そして、ランベルト家がなくなり、一週間が経った。
「よう、アリーシャじゃないか。どうしたんだ?」
アレックスの様子を見るために街の教会へ行くと、元気そうな笑顔に迎えられた。
実家がなくなったとは思えないくらい明るい顔をしている。
「アレックスの様子が気になったのですが……」
「なんだ、俺の心配をしてくれたのか?」
「当たり前です。まさか、父親を追放するだけではなくて、家を潰してしまうなんて」
あの日……
ヒュージは罪を犯したため、当主にふさわしくない。
しかし、ランベルト家に目を向けることなく、逃げてきた自分もまた、当主にふさわしくない。
アレックスは、最後にそういう方向に話をまとめた。
そして、そのままランベルト家を潰してしまった。
貴族に戻れるはずだったのに、その機会を自分で潰して……
そして、今まで通り、教会を家とすることに。
アレックスの人生はアレックスのものだ。
彼がそう決めたのだから、それに対して文句をつけるつもりはないし、不満をぶつけるつもりもない。
ただ……
「事前に相談していただけなかったのは、怒っているのですよ?」
「あー……悪い。確かに、相談はすべきだったな」
「なぜ、あんなことを?」
「いやさ。みんなにあれこれしてもらっておいてなんだけど、俺、貴族に戻りたいわけじゃないんだよ」
「そうなのですか?」
驚いて……
でも、ほどなくして納得した。
そういえば、アレックスはその出自のせいで貴族を快く思っていない。
その貴族になれると言われても、乗り気にはならないだろう。
「あのクソオヤジの言いなりにはなりたくなかった、それだけなんだよな」
「なるほど」
「貴族なんて、始めからどうでもよかったんだ」
アレックスらしいといえば、とてもらしい。
「でも、家を取り潰したのはやりすぎでは?」
ヒュージの子供はアレックスだけ。
他にランベルト家を継ぐ者はいない。
だとしても、家を潰さなくてもよかったのではないか、と思う。
ランベルト家の当主が腐っていたとしても、それでも、色々な役割があったはずだ。
それがなくなると、多少なりとも混乱が起きる。
それに、ランベルト家に仕えていた人も行き場を失ってしまう。
「多少はな。でも、あんな家に頼らない方がマシだろ。色々と腐りきっていたからな。無理に再生しようとしないで、一度、潰した方が早いさ。下手に残しておくと、どこかのバカが適当な後継者を連れ出して、また騒動が起きるかもしれないからな」
「そう言われると……」
「ランベルト家に雇われていた人達も、半分以上が腐っていたからな。クソオヤジと一緒で、甘い汁をすすることしか考えてない連中がほとんどだ。そんな連中を気にすることはないさ」
「そうだったのですか……」
「あんな家、なくなった方が世の中のためってわけだ」
アレックスは晴れやかな顔でそう言った。
その顔は、とてもさわやかで、清々しくて……
不思議な魅力があり、ついつい見惚れてしまう。
「どうしたんだ、アリーシャ?」
「アレックスに見惚れていました」
「そっか、みほれ……はっ!?」
アレックスが慌てた。
それはもう、おもしろいくらいに慌てた。
「おまっ、なにを……!?」
「今のアレックスは、とてもかっこいいと思いました」
「ふ、ふざけんな! か、からかっているのか!?」
「そんなことはしませんよ。本心ですよ?」
「んなっ……?!」
アレックスは顔を赤くして、口をパクパクと開け閉めした。
どうして、そんなに慌てているのだろう?
彼ほどの美形なら、こういう台詞は女性から言われ慣れていると思うのだけど。
しばらくの間、アレックスは慌てて、うろたえて……
ややあって、落ち着きを取り戻した。
「はぁあああああ……」
そして、なぜか深いため息。
とても疲れているようだけど、どうしたのだろう?
「素知らぬ顔をして人の心をかき乱すというか、ちょくちょく天然で大胆な行動をとるし……そうだよな。アリーシャは、そういうヤツだったよな」
「むう?」
なにやら、悪口を言われているような気がする。
考えすぎだろうか?
「まあ、気にするな。俺の問題だ」
「なら、気にしないことにします」
「割り切りがいいな、おい」
「本当は気になりますが、アレックスは絶対に話さないぞ、という目をしていますので」
「……正解だ。なんでわかるんだよ?」
「アレックスのことなら、なんでもわかりますよ」
友達なので。
「また、お前はそういう……まあ、今のも別の意味なんだろうけどさ……」
「?」
なぜか、再びアレックスは顔を赤くしていた。
「まあ……」
気持ちを切り替えるように、アレックスは咳払いをした。
それから、笑顔をこちらに向けてくる。
「なにはともあれ、今回の件は助かったよ。本当にありがとう」
「どういたしまして」
これにて一件落着……かな?
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