言葉シュガー
三葉
プロローグ
病院の一角にある、大きな桜の樹が見える角部屋。そして、その中にある小テーブル。そこには今も、毎日必ず「角砂糖」が一個置かれている。
ここは、僕にとって非常に大切な場所だ。十年前から、彼女と過ごしている場所なのだ。彼女――僕にとって「大切」な人、「忘れたくない」人、何より「初恋」の人のことだ。
彼女は十年前に、肺の癌で死んだ。まだ社会人にもなれずに、若くしてのことだった。彼女は僕の同級生で、僕は彼女に大学一年の冬、「病院で」知り合った。何故かといえば、当時僕は彼女と同じく、癌を患っていたからだ。けれども残念なことに、彼女は死に、僕は生きた。
「テーブルの上の角砂糖」それを見るたび、僕は彼女を思い出す。ともに闘病し、ともに生き、ともに笑った日々も一緒に。まるで映画のエンドロールみたいに、すらすらとそれらは再生される。こんなことを言うと、いくらかの僕の友人などからは、悲しいことだとも言われる。けれどもそれは、決して悲しいことではないのだ。もはや、悲しんではいけないのである。彼女が言った「最後の言葉」を守り抜くためにも。
それでも時々、ほんの少しの悲しさが、湧き上がってくることもある。彼女が見せた様々な表情が、今も僕の脳裏にこびりついているからだ。
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