第2話 北京1日目

 北京に行こうと思い立ったのは、友人がいたから案内してもらおうという魂胆からだった。当時は円高燃油安、おまけに旅行ブームからの需要と供給による値下げもあり、東京北京間往復3万円で行くことができた。


 宿は友人にとってもらった北京の安宿。綺麗なうえに、3泊8千円。


 先に言うが、お土産代、現地滞在費用込みで5万円弱で済ませることができた。


 羽田空港に行き、アシアナ航空のカウンターに行くと、英語か韓国語は話せるか、と聞かれた。正直自信はなかったが、話せる、と私は答えた。


 飛行機に乗ってからそう答えたことを後悔した。説明が全て英語だったからだ。案の定何もわからない。もし何か起きたら、私は何も対処することができないだろうと思った。


 なんとか飛行機は仁川空港へと到着した。これが初めての韓国。入国はしなかったが、乗り換え前の化粧品や韓国料理の物色には心が躍った。


 アシアナ航空のサービスは素晴らしかった。乗り心地の良いシート、美味しい料理、丁寧な接客。航空券は安かったが、日本の航空機に全く引けを取らない。


 北京に降り立つと、空港まで友人が迎えにきてくれた。はじめに驚いたのは電車だった。電車の中で、現地の人は携帯で大きな声で話し始めたのだ。友人は、これが普通だよ、と言った。私はその違いが面白くて仕方がなかった。


 最寄駅の出入り口には物乞いがいた。廊下に頭を突きつけている。けして治安の悪いエリアではない。いわゆる普通の人たちと、そういった人たちが入り混じる、混沌とした場所だった。

 

 到着した頃にはすでに夕方を迎えていた。チェックインを済ませると、我々は北京ダックを食べに行った。


 席に通されると、友人が中国語でいくつか注文をした。それから突然友人が席を立った。

「手を洗わないの?」と友人が不思議そうに言った。友人についていくと、そこには洗面台があり、友人は手を洗い出した。日本にはおしぼりが配られる代わりに、北京では自ら手を洗いにいくのだ、と友人が教えてくれた。


 料理が次々と運ばれてきた。北京ダックの肉の部分を焼いたものに、血を固めてプリンのようにしたもの。一匹丸ごと使ったフルコースらしい。それに小籠包。小籠包といっても、日本の中華料理屋にあるものではなく、どちらかというの肉まんに近いものだった。これが北京式らしい。


 一口食べて、私は唸った。美味しい、って言葉なんて稚拙に思えるほど、心が震えるのを感じた。あまりにも美味しくてふと家族の顔が浮かんだ。この料理を誰か、大切な人に食べてもらいたい、そうとさえ思う味だった。


 これだけ食べて1300円。

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