TS転生したので幼馴染系ヒロインムーブする【本編完結】

エカチェリーナ3世

本編

すれ違い

 小野寺菫。


 才色兼備、容姿端麗、そう辞書で引けば彼女の名が載っているのではないだろうか。


 美しいと形容されるものすなわち彼女である。そう言っても過言ではない美貌を持ちながら誰にでも分け隔てなく優しい彼女は、それはもうモテまくる。当たり前だ、むしろ彼女を好きにならない男子はかなりの特殊性癖の持ち主と言えるだろう。



 そんな彼女は今、すぐ隣で僕のベッドに寝転がってゲームをしている。



 ?????? 



 クラスの男子に見られればSAN値が削れた彼らに殴り殺されそうな光景だ。奇声を上げながら飛びかかってくる姿が容易に想像できる。


 僕にとっては見慣れた光景だが、たまにふと我に返って混乱することがある。


 漫画を読んでる振りをしながらチラリと彼女を横目に見た。ドルフィンパンツとノースリーブシャツから覗く四肢が眩しい。



 さも当然のように部屋着で来る彼女に頭が痛くなった。



 なぜこんな状況になっているのかと言うと、端的に言えば僕たちが幼馴染だからだ。もうかれこれ幼稚園からの付き合いになる。



「ねぇ、この部屋寒くない? 冷房つけすぎ」



 そう言って僕の布団に潜る彼女。そういうことをされると夜落ち着いて寝れなくなるから困る。幼馴染だからか、男の部屋に居るというのに全く警戒していないその姿に今まで散々悩まされてきた。僕は特殊性癖ではないので普通にクリティカルヒットするのだ。


 彼女の様子からわかるように僕は完全に異性として見られていない。まるで男同士の友達かのような距離感で接してくる彼女にいつも脳がバグる。


 今は高一の夏休み中だ。女子からも人気な彼女は普段の土日は大体予定が入っているので、こういう長期休暇中にがっつり入り浸りに来る。



「ね、今日泊まって行っていい?」


「絶対ダメ」


「ひどい」



 それだけは絶対に阻止しないといけない。何か、ふとした拍子に間違いが起きてしまいそうで怖いのだ。いや起きる(確信)



 僕はこの関係が大好きだった。同性にすらいない、これだけ仲のいい友達。趣味も合うし、同じ部屋にいても無言が気まずくないこの距離感は非常に心地いい。



 だからこの気持ちを、彼女に悟られるわけにはいかないのだ。







 ──────────────────────────────







 なんでだよぉ……



 布団を被りながらその隙間から彼の様子を伺う。相変わらず無心で漫画を読んでおり全くこちらに関心を示さない。




 彼に目をつけたのは幼稚園の頃だった。周りにハブられておもちゃを取り上げられてる彼を見て、この子にしようと思ったのだ。


 女の子として生を受けたボクがまず考えたのは「最初から理想のパートナーを作ってしまおう」というものだった。


 逆光源氏計画である。


 我ながら最低の考えだが、誰かに養ってもらって、だらだらと今生を過ごしたかった。端的に言えば前世での艱難辛苦に、もう人生というものに疲れていたのだ。


 従順で、酷いことをせず、養ってくれる優しい人。


 そんな人をこの人生で探していくくらいなら、最初から作ってしまおうという名案迷案をボクは思いついた。そして取り敢えずどんな人がいいかを考えてみた。


 ボクの恋愛対象は女の子だが、女の子同士で生きていくのは、今ではだいぶ世間で認められてるとはいえ、厳しい目を向けられることもあるだろうし、たくさん大変な目に遭うかもしれない。心の弱いボクに耐えられるだろうか。


 なら、男にヤられるのは本当に嫌だが、経済力のある男性に養ってもらうのが一番楽な気がする。頑張って調教しては最低限にしてもらえるようにすればいい。養ってもらう対価と思えば、ほんのちょっと、本当にちょっとだけなら我慢できそうな気もする。


 そうして、調教しやすそうな気が弱い男子を探すことにした(最低)。


 幼稚園の頃の性格なんていつの間にか変わっているものだろうが、性格を調整するなら小さい頃から手をつけないと難しいだろう。取り敢えず幼稚園の頃から仲良くなっておきたかった。


 そして見つけたのが彼、島田蓮である。いつもおどおどとしており、周りのクソガキどもにいじめられている男の子。おもちゃを手にしたらすぐに奪い取られ、外に遊びに行ってもみんなに無視されて一人で遊んでいるその姿にすぐにピンときた。


 イイ♡(ヒソカ並感)


 しばらく観察して理想に近いとわかったらすぐさま声を掛けた。


 最初は少し警戒されたが辛抱強く話しかけることで少しずつ彼と心の距離を近づけていった。そこで様々なドラマがあったものだが、それは一旦割愛しよう。


 そうして何だかんだ毎日遊ぶ仲になり、こうして高校になっても気兼ねなく遊ぶような親友とも呼べる存在になったのだが……


 ただの仲がいいオタク友達になってしまった。


 いや、計画は概ね上手くいっているのだ。この関係も限りなく理想に近いと言える。こういう、お互いに気遣いもない距離の近い友達というのはボクが望んだ関係でもある。


 しかし、どうもこちらを全く異性として意識していないようなのだ。あいつちん○んついてないんか?


 ボクを男友達か何かとして見てる節がある彼との間には恋愛のれの字もない。



 こうして際どい格好で通ってるうちに、野獣と化した彼に襲われるはずだったのに。そうしてくんずほぐれつの関係になって養ってもらう計画が……



 いつか絶対振り向かせてやるっ!! 



 そうして顔をうずめた彼の布団は、少しだけ汗臭かった。





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