我が家の猫の話
@KoToPoEM
第1話 我が家の猫
うちの猫は、
我が家の次男のことを、自分よりも「下の存在」と認識している。
我が家の猫。年齢は三歳。
キジトラのハチワレ柄で、性別は雌。
三年前に、旦那が仕事帰りに拾ってきた。
旦那曰く「道端で鳴いていた」
道路でみーみーと、目も開いていない状態の子猫が這いつくばって鳴いている姿を見かけて、思わず抱き上げて連れて帰ってきたらしい。
「親猫の姿は見当たらなかった」
普段から口数が少ない、ぼそぼそと話す旦那が、その大きな手の中に抱いた子猫を、困ったように見つめている。
「何?どうしたの」
玄関で立ち尽くす父親を救ったのは、二階から降りてきた長男だった。「あ、猫?」
階段を飛ぶように降りた長男が、父親の手の中の子猫を覗き込む。
「ちいさいねえ」
無邪気な大きな声に、リビングで漫画を読んでいた次男が顔をのぞかせる。
「みー」
子猫は、その小さな体からは想像できない大きな声で鳴いた。
まさに必死。という態で、旦那の手から逃れるかのように、身をよじらせながら鳴いている。目も開いていない、赤ん坊の猫だ。道路を這っていた、というだけあって、その体は抱いている旦那の掌を、黒く汚すくらいに汚い。
「どうしようか」
ぼそりと旦那が呟く。
「うちで飼うの?」
長男がクリっとした目で私に振り返った。
「今更、元のところに戻して来い。なんて言えないわよねえ」
私は大げさに溜息をつきながら、とりあえず汚れた子猫を綺麗にするために風呂でも沸かさないとな。と考えた。捨て猫にしろ、親猫とはぐれた子猫だろうと、とりあえず、汚れたままで家に入れるわけにはいかない。
それに、本で読んだのだけれど、一度人間のにおいが付いてしまった子猫は、親猫が育てることを忌避してしまうことが、あるのだそうだ。
子猫を飼う。あるいは誰か引き取り手を探すにしても、とりあえずはまずは入浴させてからだろう。
「名前どうしよう」
長男がうきうきした口調で旦那に尋ねている。
「みー」
子猫が大声で鳴いた。
「みーみー鳴いてるから、ミーコでいいんじゃない」
背伸びして旦那の手の中を覗いていた次男が、そう言った。。
なんとも安直な名付けだが、旦那が拾ってきた子猫の名前は、その時にミーコに決定した。
そうしてミーコは、我が家の飼い猫になったのだ。
そんなミーコは今、リビングのソファに寝そべり、うつ伏せになってタブレットと睨めっこしている、次男の背中の上で香箱座りをしている。次男はミーコに気付いているのかいないのか、タブレットを指でなぞりながら、今日の宿題に挑戦している。
「重くないの?」
私が思わず尋ねると、次男は首だけで私に振り返り「べつに」と短く答えた。
確かに毎日の生活の中でよく見る光景ではあるのだが、宿題を始めてから小一時間、次男は背中にミーコを乗せたままなのだが。
赤ん坊のころから、人間に育てられたからだろうか。ミーコは、テレビで見るようなよその家の猫や、話に聞いたり、本で読むような普通の猫とは、少し異なる特徴を持っているようだ。
具体的には、少し鈍臭い。わかりやすく言えば、運動神経がない。
例えば、椅子に乗る際、床から椅子の座面を見上げる。次に、そのままじっと考える。そして、身をかがめる。そして、そこからすぐには飛び上がらない。じっと椅子の座面を見上げて、身構えている。力を溜めているのか、あるいは覚悟を決めているのかは私にはわからないが、じっと動きを止める時間が流れる。そして飛び上がる。と見せかけて、一旦仕切りなおす。まるで相撲の取組前みたいに、一度構えを解いて、そして椅子を見上げたまま動きを止める。
ちなみに、そこから飛び上がるまでに、二度は同じ動作を繰り返す。
そして、三回に一回は、椅子に飛び上がることに失敗する。
本当に鈍臭い。
そんなミーコは、次男の体によく乗っかっている。寝転がっていれば背中に。胡坐をかいていればその膝の中に。時折は次男の肩に乗っかったまま、家の中を移動していることもある。
旦那や、長男、況や私には、そんなことはしたことがない。
多分、ミーコは次男を自分の下僕かなんかだと思っているのだろうな。
香箱座りを解いて、次男の背中の上に横たわったミーコを見ながら、私はぼんやり、そんなことを考えた。
あなたの名付け親、次男なんだけどなあ。
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