第15話
「なんで、先輩は性格を隠すんですか?」
気にしなくてもいいじゃないかというのが、累の基本的な考えだ。
驚くことではあるが、昨今の傾向を鑑みれば、たいしたカミングアウトにはならないと累は思っている。
「うーん。昔、嫌な思いをしたからねぇ」
「私は、今の話をしているんです」
月日はコーヒーのおかわりを作ると、ゴクッと一口飲んだ。
「怖いの」
月日の言に、累は顔を上げて彼を見た。
その表情から、月日がいろいろつらい思いも苦い経験もしてきたのだろうと察した。
言われてみれば、あれだけ騒がれているというのに、一緒にいる友人は大輔だけだし、今もこうして、生徒会室で一人の昼を過ごしている。
もらったものを大事にしている優しさと、息苦しさのようなものが月日から感じ取れた。
きっと現状は、月日が望む高校生活とはかけ離れてしまっているだろう。
「いまさら無理なの。みんながワタシのことを王子様の「十条月日」という目で見て、期待してくるの。それに応えられないと失望されるのがわかってるの」
「勝手に期待して、勝手に失望してって……そんなの、気にすることないじゃないですか」
「それができたら苦労しないわよ。引き時を見失っちゃったのよね」
あーあ、と月日は困ったように伸びをした。
「普通の高校生活、ワタシも送りたいわよー! 恋人と放課後デートしたり、勉強会とかあこがれるわ! 累もそう思わない?」
「……でも先輩、恋愛は、お互いに隠しごとがあったらうまくいきませんよ」
累の言葉に、月日は「そうよねぇ」とあからさまに落ちこんだ。
「自分を出しても大丈夫な相手と恋愛したほうが、先輩が楽だと思いますけど」
月日は累を困ったような複雑な顔で見てくる。
累はレーズンクッキーを発見し、袋を開けて口に含んだ。
「でも、万が一恋人ができて、王子様のワタシを好きだったら……好きな人のために王子様でいる努力をするのはいいでしょ?」
「ごもっともですが、好きな人のために頑張るのと、自分を偽るのとでは違うと思いますよ」
「うっ」
どうやら月日は、累の正論には弱いらしい。
いつもキラキラして隙がない彼の、もろい部分を累は知ってしまったようだ。机に半分突っ伏しながら、月日は口をとがらせている。
累はいったん食べるのをやめ、困り顔の月日を見つめた。
「私は個人的に、そのままの十条先輩が好きですよ」
とたんに、月日の顔が赤くなっていくのが見える。
「えっ!? それって、つまりその」
「面白いですし」
「ああ、そういうことね」
半身を起こしていた月日は、再度机にだらんと伸びた。
「私の前では、偽らなくていいです。十条先輩は、十条先輩ですから」
「うん……ありがとう」
照れているのか、月日は顔を隠すようにして動かなくなった。
そんな月日の姿を、累はやはり面白い人だなと思って観察したのだった。
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