第2話食料問題。

   第二話 食料問題。


 

 ガイアとコニーが居なくなってから半年が過ぎた。


 母さんの精神状態は少し安定してきた。

 

 前に比べて変わった事といえば、父ガイアがコニーの職業を隠していたせいで、村の人からは嫌がらせをうけ、オレは毎日、同い年くらいのやつらから石を投げられている。


 別にガイアを恨んでいる訳ではない。オレがガイアの立場ならきっと同じことをしているだろう。


 「ローグ、今帰ったわよ」

 「あ、お帰り母さん。」

 「いやー、足を踏み外しちゃって川に落ちちゃったよ、ホントおっちょこちょいなお母さんでごめんね。」


 まただ、、


 母さんはオレに心配をかけないようにと川に落ちたと言っているが、たぶん村のやつらがイジメているんだろうな。


 憎い……村のやつらが憎い……


 あ、そうだ!オレには前世の記憶がある!この記憶を上手に使えば、きっと今の状態を脱却できるはずだ!そうと決まれば行動あるのみ。



「――はぁ……はぁ、疲れた。」


 三時間ほど村をみて分かった事といえば、この村はインフラが整っていない、まぁ転生もののアニメには結構ありがちなパターンだな。


 一つ、水の問題。

 村の近くには川があるが、川の水を飲んだら食中毒を起こし、死んでしまう可能性がある。だから村のみんなは徒歩一時間かけて山の水を汲みに行ってる。


 二つ、食糧問題。

 この村が貧しいせいか、村全体に充分な食料がいきわたっていない。そのせいでほとんどの子供たちはやせ細って元気が全くない。


 半年前に二人が居なくなってからも、オレたちがなんとか食べて行けるのは、きっとガイアが何か起こった時の為に貯めていた貯金のお陰だろう。


 ボサボサ頭とバカにしていたが、家族の事をちゃんと考えていたんだな。


 だが、二人が居なくなってもう半年もたっている。ガイアの貯金はいつ無くなってもおかしくないはずだ。


 そうなってくると、まず最初に手を加えるのは食糧問題。この村には魚を食べる習慣が全くない、オレが魚をいっぱい取れば、きっと村のみんなから感謝され、オレたちへの嫌がらせが無くなるはずだ。


 一度、川を見に行き、魚をとる計画でも考えるとするか。


 鼻歌を奏でながら川に向かったローグ、それを面白く思わなかった一人の少年が石を投げつけてきた。


 「えいっ!!」

 「嘘つき家族!村から出ていけ!」

 

 あー、またやってるなぁ。


 ローグはいつもの事だと思い、その少年を相手にしないでその場を去った。


 「お! 良い感じじゃん!」

 

 川の水は飲めないだけで、汚い訳ではない。

 川幅は大体五メートルくらい、網さえあれば追い込み漁ができるはずだ!そう思い、家の近くにあるゴミ捨て場に縄を探しに行ったが、残念ながら縄はみつからなかった。


 不貞腐れながら家に帰ると、ガイアの部屋にロープがある事を思い出したローグは、急いでガイアの部屋に行き、お目当てのロープを手に取り。


 「み、見つけた〜!!」


 嬉しそうな表情で、ロープの束を抱きしめるその姿をみたフランは「ふふふっ 何に使うか分からないけど、大事に使うのよ。」とオレに微笑みながらいった。


 母さんが笑ったのは半年ぶりだ、この笑顔はオレが守らないと!母親を笑顔にする事を心に誓った。


 ガイアの部屋で手に入れたロープを、一度ほどき、細くなったロープに結び目を入れる作業。


 この作業は地味だが、母親の為だと思えば不思議と手が止まることはなかった。


 そして作業開始から三日が経過した頃。


 「やっとできた〜!!」


 思っていた以上の出来に満足気なローグ、フランに事情を説明し、魚取りを手伝ってもらう事になった。


 「ローグ、この木に結べば良いの?」

 「そうだよ母さん、あとはオレが合図をしたら引っ張ってくれ」


 ローグは木の棒を使い、縄へ魚を追い込み始めた。


 「母さん! 今だ引っ張って!」

 「え! あ、分かったわ!」


 『ジャボボボボーン』


 ローグが作った縄には、大量の魚が掛かっていた。


 「やった〜! 大成功だ!」


 ローグの嬉しそうな姿を見てフランもおのずと笑顔になった。


 大量に取れた魚と共に家に帰る二人。


 「よいしょっと!」

 

 フランは魚の入った重い縄を床に置き、戸惑った表情でこっちを見てくる。


 「で、この魚をどうするの?」

 

 そういえば母さんに、魚が食べれる事を伝えてなかった、一から説明するのも面倒だし、作って食べさせれば問題ないか。


 「まぁ、椅子に座って見ててよ」

 「あらそう、ローグがここまで真剣になるなんて珍しいわね」


 ローグは慣れない手つきで、魚の内臓を指で取り塩焼きにしてみせた。


 「母さん見て!出来たよ!」

 「こ、これは何かしら?」


 戸惑ってるフランをよそ目に、ローグは焼き魚を口にした。


 「え!! 何やってんの!」


 母さんはびっくりした表情でオレの事を見ている。


 それもそのはずだ、この村には魚を食べる習慣がない、村の人間からしたらオレは変人みたいなもんだよな。

 

 ってかこの魚めちゃくちゃ美味しいな!


 ローグは作った焼き魚をペロリと完食した。


 「美味しいから母さんも食べてみてよ。」

 

 母さんは戸惑ってる表情でオレの事をみているが、魚が食べれる事が伝われば食料問題は解決するはずだ。


 「母さん、オレを信じて食べてみて」


 フランは恐る恐る焼き魚を口にする。


 「お、美味しい〜」

 

 母さんが喜んでくれた、その事は食料問題を解決するよりオレにとっては嬉しいことだ。


 魚が食べれるという事を村中の人に伝え、今では村の主食になっている。


 最初の頃はみんな疑っていたが、魚を食べても安全と知った途端、母さんへのイジメもなくなってオレに石を投げてくる人はいなくなった。



 そしてこの村で、魚を食べ出して半年が経った頃。


 「た、ただいま」


 ガイアが一年ぶりに家に帰ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る