15.高官一家救出 part2

 反乱艦から出撃したEFM部隊は、急速接近してくる三つの熱源に向かっていた。


「たった三機とは舐められたもんだな!」

「隊長! 敵機の熱紋が照合出来ません! 不明機体アンノウンです!」

「何?! アベレージじゃないのか?!」


 その刹那、戦艦の主砲と見紛うほどのプラズマが反乱部隊に飛来した。その内の一機が回避出来ずに直撃を食らい爆散する。


「一機食われた!」

「とんでもない威力です!」

「散開!」


 反乱部隊は一網打尽にされるのを避ける為、教本通りに二機一分隊ツーマンセルの態勢で散開した。


「やっぱり威力が高すぎるな。調整しないと」

「最初の一機は私たちがもらったわよ」


 コンソールを操作するヴィリをよそに、クララが一機目撃破をエリーゼに誇示する。


「ふん! こっちは隊長機を撃墜してやるんだから!」


 エリーゼの言葉に従ってアルベルトは敵機の詳細識別を開始する。


「……見つけた。二時の方向、巨大コンテナの近くだ」

「もーらいっ!」


 エリーゼが加速をかける。敵方もメンズーアの接近に気づき、応戦の構えを取った。


「何だあの機体?!」

「鳥のような……。それに、赤いぞ?!」


 メンズーア・アインはエリーゼの要望で深紅に塗装されていた。赤色が好きな彼女のわがままを本人に代わってアルベルトが整備員に頼み込んだのである。軌道をスラスターによって青く描きながら接近してくる機体に隊長機とその随伴機は思わず見惚れてしまい、反応に一瞬の遅れが生じてしまった。


「まずは僚機からだ」


 アルベルトは躊躇無く引き金を引いた。プラズマはシールドすら貫通し、敵機のコックピット部分を的確に撃ち抜いた。


「うわあああっ!」

「曹長!」


 随伴機の破片をシールドで防御しながら隊長機のパイロットは深紅のメンズーアの行方を探す。


「どこ行った?!」

「──後ろよ!」


 猛スピードを生かして視界から外れ、エリーゼはデブリの間を縫って隊長機の背後を取っていた。サーベルを発動して突撃してくるメンズーア・アインに間一髪で気づいた隊長機のパイロットは、一か八かでサーベルを起動した。


「──っ!」


 サーベルがつばぜり合う。バチバチと音を立てながら二機はその場を回転する。


「サーベルのパワーが負けてる……?!」

「反射神経は良いようね。……でも残念でしたぁ!」


 エリーゼは脚部の隠し刃を起動し、コックピット部分を一閃した。

 爆発を背にした深紅の機体を見て、反乱艦のブリッジにいた乗組員たちは息を飲んだ。


「終わりだ……」

「弱音を吐くな! 我々は敵を撃破する以外に道は無いのだぞ!」

「大佐! 敵がレーザー照準中継器を!」

「何?!」


 薄紫に塗られたルーファスとヒオリのメンズーア・ドライは、コルノ・グランデの為に中継器の破壊に向かっていた。


「見つけた。ヒオリ、ドラウプニルのテストだ」


 ルーファスの言葉にヒオリは頷き、目を閉じて集中力を研ぎ澄ませた。

 肩部に搭載されているナイフ状の端子ビットが収納器から離れ、アンテナが張り巡らされたような装置に向かって飛んでいく。

 ヒオリはドラウプニルのビットが中継器めがけてプラズマを発射する様子を強くイメージする。ヒオリの脳波を受信したビットは、中継器にその銃口を向けプラズマを発射した。

 攻撃は見事に成功した。一個目の中継器は爆発し、デブリの仲間入りを果たす。


「おお……! コンピューターシミュレーションよりも高い精度だ。次は敵機を狙ってくれ!」

「博士、あまり興奮なさらないよう」


 テーブルに乗り出そうとしている博士を見て、リズベットが顔をしかめる。


「ドライ、そのまま中継器の破壊を優先して。アインとツヴァイが敵機を引き付けている今のうちに救出部隊を送り込みたいの。安全を期すために敵の攻撃手段は可能な限り潰して」

「了解です」


 ルーファスが通信を終えた瞬間、デブリの陰から敵のアベレージが二機飛び出した。


「これ以上中継器はやらせるか!」


 マシンガンの斉射を避けながらルーファスはヒオリに指示する。


「あの二機をドラウプニルで撃墜するんだ!」


 合計六つのビットが敵アベレージに飛んでいく。見たことの無い兵器に敵機のパイロット二人は動揺しつつも、落ち着いて撃ち落とそうと腕部バルカンを起動させた。


「すばしこい! 追いつけないぞ!」

「これで……終わり」


 ヒオリが念じるとビットがプラズマを発射した。連続で発射される六つの光は二機のアベレージの武装を奪い、脚を千切り、腕を吹き飛ばして最終的にジェネレーターを貫いた。


「すごいぞ! 理論値を大幅に越えた成果だ! 早く次の標的を狙うのだ!」


 華麗に二機の敵を倒したヒオリにイザイア博士は興奮気味に指示を飛ばすが、ヒオリは頭を抱えて呻く。


「ぐ……」

「ヒオリ?」

「どうした少尉」

「ヒオリの様子がおかしい。ドラウプニルとの接続が影響しているのかと」

「そうか。ではすぐにビットを回収して下がれ。これより部隊を送る」

「中佐! まだデータが足りない! もっとデータが──」

「困りますな博士。我々は自治政府の高官とその家族の救出に来ているのです。不安要素はなるべく避けたい。ご理解いただけるかな?」

「むむ……」


 オットーの言葉にイザイアは納得いかないように顔をしかめたが、反論する事なく椅子に座り込んだ。


「大尉、間も無く戦闘挺を出発させる。準備は?」「出来てるよ」


 アリュは通信機越しに陽気な口調で答えた。部下たちを背に伸びをしながら快活に言った。


「さーて、いつも通り油断せずにやるか!」




「EFM部隊の被害甚大! 対空火器、プラズマ砲の損傷大! このままでは我が艦は無防備になります!」

「こっちには人質が居るのに……!」

「公安局だぞ、きっと皆殺しにするつもりなんだ!」

「……」


 部下たちが戦々恐々としている中、ルバノフは言い知れぬ違和感を覚えていた。敵艦は確かに高性能だが、それにしては攻撃が熾烈ではない。言ってしまうと。まるでこちらをいたぶる事が目的であるかのように最初の攻撃以外は執拗に搭載火器群を狙ってミサイルを放っているのである。


(……艦の搭載火器ばかり狙っている……?)


 そこでルバノフはある可能性に行き着いた。思い付いた事が確かであれば、敵の目的は艦を宇宙の藻屑にする事では無い──。

 ルバノフはダメージコントロール班に通信を繋いだ。


「ダメージコントロール班! 艦の被害状況を詳細に報告しろ!」

「対空火器の八十パーセントが使用不能。プラズマ砲は前部連装砲が使用不可。後部連装砲が旋回不能です!」

「それ以外は?! 居住区画や兵員準備室への被害は?!」

「…………。──ありません! 最初の攻撃で損傷した区画以外に被害を受けた区画はありません!」

「やはり……!」


 ルバノフは通信を切って目を剥いた。


「ブリッジより全乗組員へ! 武装して敵上陸挺の着艦に備えろ!」

「大佐?!」

「敵は人質を確保する為に陸戦部隊を送ってくるはずだ! 対空火器ばかり狙って攻撃していたのは、悠々と上陸挺を送り込む為だったのだ!」


 部下たちが驚愕の表情を浮かべる中、オペレーターの一人が大声で叫んだ。


「敵艦から数隻の上陸挺が発艦しました!」

「迎撃は?!」

「出来ません! 撃ち落とせる火器は全て……!」

「……そもそもこんな堂々と『救出作戦』を行う事自体が間違いなのだ」


 アリュたち陸戦部隊を満載した上陸挺が敵艦に向かう様子をモニターで見ながらオットーはひとりごちた。

「先輩?」

「救出作戦とは少数精鋭がやるものだろうが。こんな風にミサイルを撃ちまくる救出作戦なんて聞いた事無いぞ。まるでB級映画だ」

「でも、敢えて低威力のミサイルで搭載火器を潰すという先輩のアイデアはなかなかのものだと思いますよ?」

「相手が旧式かつ、EFMの格納に特化した艦だからこそ出来た事だ。もっと武装が多かったらミサイルが足りなかった」


 オットーはそう言いながらEFM部隊に通信回線を開いた。


「大尉の部隊が敵艦に着艦する援護してくれ」

「了解!」


 更に敵を一機倒していたアルベルトとエリーゼは光学映像でアリュたちが乗る上陸挺を確認した。


「あっ、EFMが一機!」

「アルベルト!」

「分かってる!」


 アルベルトは一瞬で上陸挺に近づく敵機を捉えると、正確無比な射撃でコックピット部分を貫いた。


「うおお! スリル満点だな!」


 窓越しに大爆発を見ながらアリュが笑う。


「隊長、笑ってる場合じゃありませんよ。もし彼らのサポートが十全でなければ我々は宇宙を漂う事になるんですよ」

「仲間は信じるものだぜ? でなきゃこんな稼業やってられないぞ」


 苦言を呈するエトナ副隊長にアリュは楽観的に言った。

 一方、敵艦内ではルバノフの方針に異を唱える部下が出始めていた。


「大佐! もはや人質に価値はありません! 敵がやって来る前に始末してこの宙域を離脱しましょう!」

「あの人質は我々の手札だ! 未開拓領域への切符なのだぞ!」

「取引相手は来なかったではありませんか! 人質を欲しがっていた相手は!」

「どちらにせよ人質に手を出すことは許さん!」


 ルバノフがそう叫んだ瞬間、艦が揺れた。


「何だ?!」

「敵上陸挺が後部デッキに侵入しました!」


 アリュ率いる陸戦部隊は脆弱なバリケードを突破し艦内に突入していた。


「二班に分かれるぞ。俺は人質を、エトナはルバノフを押さえるんだ。自治政府はルバノフを軍事法廷で裁きたいらしい」

「どうせ死刑にするのに?」

「いつものプロパガンダさ。政府は反逆者に打ち勝ったってな」

「なるほど」

「そんな嫌そうな顔をするなって。政治家ってのは皆こうだろ?」

「隊長の言う通りですな」

 

 アリュとエトナが話しているうちにデッキ内は制圧されていた。指示を待つ隊員たちにアリュは叫ぶ。


「俺たちの目的は人質とルバノフだ! この二つが確保されたら艦を脱出する! 艦内の図面は頭に入れてるな? 行くぞ!」

「敵の数は?!」

「約五十人! 二手に分かれて制圧を開始しました!」

「五十人か、それならまだやりきれる! ──おい! 状況は?!」


 ルバノフは防衛隊の指揮官に通信を繋いだ。


「大佐ですか?! 連中、とんでもない強さです! 我々ではとても太刀打ち出来ません!」

「何だと?!」

「明らかに練度が違います! もう十人は──」


 指揮官の言葉が途切れ、代わりに通信機が床に転がる音が聞こえた。


「おい、どうした!」

「い、今、指揮官がやられました! もうこの陣地は維持出来ません! 後退します!」


 数の面ではルバノフの部下たちの方が圧倒的に多かったが、アリュたちはその練度と強力な火器によってその穴を埋めていた。


「営倉まであと少しだ!」


 隊員の一人がルバノフの部下たちが築いたバリケードにグレネードを投げ込んだ。バリケードの一部が破損し、姿を晒したルバノフの部下たちは流れ作業のように始末されていった。

 近接戦闘用のサブマシンガンを装備した第38独立特務作戦群の隊員たちは、隙を一時も見逃さず、確実に敵を倒していく。食堂を抜けたアリュたちは、自動タレットが設置された営倉に繋がる廊下に出ていた。タレットはアリュたちを確認すると、目の前にルバノフの部下が二人いたにも関わらず射撃を開始した。


「おいおい、味方識別くらいちゃんと設定しろって」


 背中を撃たれ斃れたルバノフの部下にアリュはアドバイスでもするように言った。


「しかしあれは強力だな。ぶっ壊さないと先に進めん」


 物陰に隠れてタレットの連射をしのいでいたアリュは、そう呟くとEMPグレネードを取り出し、隊員たちにハンドサインで準備するよう伝えた。

 隊員たちが頷いたのを見たアリュは、タレットの足元にグレネードを投擲した。

 グレネードが炸裂し、タレットが一時的に機能不全を起こす。アリュはすかさず飛び出し、タレットの背後に回ってスイッチを切った。


「もう良いぞ!」


 隊長の号令に沿い隊員たちは営倉に向かう。警備の兵士をいとも簡単に射殺すると、営倉の入口にC4を取り付ける。

 起爆装置のボタンを押すと、ロックされていた入口の扉が吹き飛んだ。迎え撃とうと扉の前にいたルバノフの部下たちは爆発の影響で床に倒れ、なす術も無く無力化された。

 人質となっていたラタリア自治政府高官とその家族は、牢の隅に固まっていた。


「き、君たちは……」

「救出部隊です。今すぐこの艦から脱出していただきます」


 アリュの言葉を聞いた高官一家は安堵の溜め息を漏らした。


「お前たちで上陸挺まで護衛しろ。俺はエトナの援護に行く。まあ、今頃はルバノフを捕らえているかもしれないが……」


 部下に指示を出しながらアリュはエトナに通信回線を開く。


「エトナ、今どこだ?」

「ブリッジの目の前です。連中、ドロイドまで持ち出して徹底抗戦するつもりのようです。逆にこっちが劣勢を強いられています。二人やられた……」

「そうか。すぐに行く」

(こりゃ時間が掛かるぞ……)


 アリュは心の中でそう呟きながら副隊長の所へ駆け出すのだった。





 

 


 


 

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