転生死にキャラは神ストーリーを認めない ~恋愛RPGの曇らせ要素に転生した俺は全力で運命に抗う~
@Dendai_Akihiro
一章
第1話 死にキャラ、己の悲運を知る
「………なんだこれ」
鏡の前で、俺は絶句する。
え? なにこれ、何このモブ顔。さも「名無しですよー」と言わんばかりの覇気のなさ。逆にこわい……。
「落ち着こうか、神薙シンラ。大丈夫だ、きっと夢に違いない」
そう思い頬をつねってみるが……痛い。現実だったらしい。
存在しないはずの記憶。いや、思い出してはいけないのかもしれない記憶を思い出し、動揺のあまり顔に手を当てる。
俺の名前は神薙シンラ。現在15歳、受験も終わって高校入学を控えている。
両親はすでに他界しており、親戚の家に住んでいる。
そして、その家には二人の従姉妹がいる。
姉の名前は神薙マリア。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。まさに完璧超人であり、誰からも好かれるような人物だ。
そして妹の名前は神薙イヨ。
こちらは姉とは正反対である。勉強は出来ない、運動神経もない。何をやってもダメだが、愛くるしい笑顔で周りを和ませる癒し系美少女。しかし潜在能力は姉以上で、時々すごいことをしでかして帰ってくる。できない子ではなくやらない子だ。
さて、そんな二人に挟まれているのが俺というわけなのだが……。
「俺、ゲームの雑に死ぬモブじゃねぇかああああ!!」
認められない現実に、次は頭を抱えた。
恋愛RPG『ラドクロスバース』。現代日本をモチーフとした魔法世界を舞台に、学園に入学した主人公達が様々な事件に巻き込まれながら世界を救うゲームである。
笑いあり、涙ありのストーリーは数々のゲーマーから賞賛を受けており、ゲーム大賞にも輝いた名作。前世の俺もやりこみ要素を完全制覇するまでやりこんだ……………という記憶が今朝生えてきた。頭を打ったでも衝撃的な事件が目の前で起きたでもなく、鏡の前で歯を磨いていたら急に、だ。
その記憶の中にはもちろん(?)神薙シンラについての記憶もある。
俺は作品の序盤、主人公が入学してすぐ死ぬ予定だ。それもラスボスの手先の悪事にたまたま巻き込まれてしまうという形で。
ゲーム内では「うわぁああ!」としかセリフを貰えず、プレイヤーからは「あっ、なんか死んだ」としか思われない可哀想な人物なのである。(ちなみに、なぜ俺がそんな細かいことを覚えていたのかというと神薙シンラという存在がネットミームになっているらしいからだ。『キャラの曇らせ要素のために殺される』の事を『シンラスプラッタ』というらしい)
「いや、そんな理由で死んでたまるか!俺の人生の価値って何!?」
このままでは死亡エンドまっしぐらだ。目の前にある死のリスクを許容できるほど俺は甘くない。
…………。
「よし、運命を変えるか」
俺が生き残るにはこのフラグを完全にへし折らなくてはならない。運命変えちゃう系主人公になろう。
幸いなことに攻略wikiを暗記するほどやり込んだため、ある程度ならわかる。
主人公はどこの学校に行くのか、ヒロイン達はどんな名前で何人登場するのか。それを引き起こすための条件とそのイベント内容まですべて把握済みだ。
これから起こりうる未来がわかっている以上かなり有利に立ち回れるはず。唯一と言っていいアドバンテージだ。
俺はそう考え、三つの計画を立てた。
1.そもそも主人公と関わらない。
これが最も安牌な方法。ストーリーに関わらなければフラグは立たない。このモブ顔と覇気のなさを生かしてレッツ陰キャロード!
2.殺されないように強くなる。
殺す前に殺す修羅ルート。友情、努力、勝利を手にして主人公に成り代わる。主人公は与えられる役職ではなく自らがなるものなのだ。
3.敵側に取り入り、ゴマをすりまくる。
主人公の敵になってしぶとく生き残る悪役ルート。同時にマリアとイヨの曇り顔も見ることができて一石二鳥。でも最終的に制裁される可能性が大いにある。
この三つが俺の考えた作戦だ。我ながら完璧な計画だと思う。
一つ目は頑張ればいける……が失敗したら死ぬ。
二つ目も難しいと思うが、やるしかない。問題は方法が全く分からないことだ。どうやって鍛えればいいんだ? 武道とかやったことないし。
三つ目は……まぁ、最後の賭けだろうね。這いつくばって靴を舐めたらいけるか……という感じだ。
腕を組み、うーんと考え込む。
どれもこれもリスクがある。これらのリスクを最小限にする予定をたてるとするなら……
「できるだけ主人公に関わらないように行動し、強くなって敵側につく。これがベストか……」
生き残るにはこれが一番だ。俺の死亡フラグは主人公の周りにいることから始まる。逆を言えば、主人公に関わらなければ死ぬ要素は皆無と言っていい。
まず初めにできることは……
「強くなることだ。それ以外ない」
とは言ってもこれもなかなか難しい。
普通、強くなると言えば体を鍛えることなのだろうが、ラドクロスバースの世界では少し違う。
このゲームのコンセプトは「誰とでも繋がれるRPG」。それはゲーム性にも反映されていて、どんなキャラと親密度を深めるかで成長率が変わってくるのだ。(まぁ、死にモブである俺はそもそも知りあうイベントすら存在しないのだが)
つまり、誰かと親密にならない限り成長しないということ。
「手っ取り早いのはマリアとイヨの親密度を深めることだよなぁ。でも、ストーリー的にシンラと関わるパスになる可能性が高い……」
ベッドに寝転びながら思案していると、部屋の扉がコンコンっとノックされた。
「お兄ちゃんー。起きてるー」
「ああ、起きてる起きてる」
俺がそう言うと、ガチャリとドアが開きイヨが部屋に入ってきた。
くりくりっとした目と独特の曲線を描いたくせ毛が印象的だ。カワイイ。
「なんだ、まだパジャマかよ。早く着替えろっていつも言ってるだろ?」
「えへへ、ごめんなさい。今日は朝ごはん一緒に食べようと思って起こしに来たの!」
「ああ、そういうことだったのか。わざわざありがとな」
俺が礼を言うと、ニコッと微笑むイヨ。
うーん、俺がアンデッド族だったら癒されて成仏していたぞ。
「お兄ちゃん、顔色が悪いよ……?」
「あーいや、怖い夢を見ていたんだ。突然現れたでっかいトラに踏みつぶされる話」
「そうなの!? かわいそうだね……。私が守ってあげるから安心して!」
「ありがとうイヨ。お前は優しい子だな」
平常心を保つために頭を撫でてやるとイヨは目を細めて嬉しそうにする。
まさか俺の言っていることが、来るかもしれない義兄の最期だとは夢にも思うまい。
「ところでイヨ。もう朝食は出来ているのか?」
「うん! 今お母さんが作ってくれてる!」
「そっか。じゃあ、早く行かないと怒られるかもな」
俺は立ち上がり、部屋を出ていく。
「あっ! 待ってよ~!」
その後を追うようにイヨもついてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます