この異世界は最低最悪なバッドエンドを愛している、なので「俺」が切り裂いてハッピーエンドにしたいと思います。
ドアフキン
序章
〈1〉序章 与えすぎた代償の物語
―――どうしてこんな事になった、異世界にさえ手を出さなければ。
最初に出来た世界、それを神は始まりの世界と呼んだ。
この世界の人間達はとてもタフで、災害に見舞われても戦争で傷を負っても、いつのまにか自らの力で奮起して乗りえてしまう手の掛からない存在となっていた。
それじゃあ、と神達は思い始める。
「我々はもうこの世界を放任しても良いのでは?」
そしてつい最近、新たに出現した世界を異世界と呼んで興味を示した。
神達はとにかく、まだ手助けの必要な世界へ世話を焼きたかった。
次第に、ひとりふたりとその場所へ足を運ぶようになる。
しかしどうだろう、この世界は神を拒むようだ。
というよりは、1人ずつしか入れない。
さらに驚いた事に、異世界そのものが意思を持っていて語りかけてきたのだ。
――求める神は、1人だけ
その言葉が意味するもの、つまり異世界では神の存在は1人だけしか許されない。
そんな奇妙なルールが存在しているのだ。
雲の上の楽園では神達の会合が行われていた、運動場サイズのどでかい丸テーブルを置きその周りにはいくつもの椅子が用意されている。それぞれが好きな椅子を選び、異世界の今後について議論を始めた。
「では、最近注目されている異世界についての話になるわけだが…危険生物の宝庫だな。それに脅かされているからなのか、人間達は心に余裕がないように思える。殺人や強盗などの犯罪行為も日常茶飯事のようだ、その点については、始まりの世界と似てはいるが」
「だが、この世界は不思議な力にも満ちている」
「ああ、それも相まってか倫理観の欠如も甚だしい」
ダンッ!テーブルに拳を叩きつけながら、気性の荒い神が声をあげる。
「じゃあやる事はひとつ!ここは始まりの世界にちなんで、人間も化け物もまとめて一気に自然の脅威にさらす!そうすりゃ心身共に改めるってもんよ!クズの根性も同時に叩き直せて一石二鳥!てなわけでさっそく」
「おい!貴様待たんか!!異議あり!根性論の押し付けなど老害甚だしい愚かな行為よ、そのような勢いで今ぶつかると儚げな異世界が滅んでしまうではないか!この脳筋すっとこどっこいめ!」
力任せな勢いに呆れた女神が、キツイ物言いで諫める。
神は自己主張がとても強い、なので集まってしまうと毎回誰かと誰かが喧嘩しているというのがデフォになる。
「んだとコラ!」
「一理ありますな。ここはいつも通り、人々に正しい道とはなんなのかを諭す。それから導いていくという王道スタイルが一番かと」
「うーむ、では見守れるように異世界専属の神を配置するというのはどうだ?」
「自分だけの世界が持てると言うことか!?優雅な箱庭のようでわくわくするな」
「ほう、それは全神が一度は夢見たものよ、神同士多く集まるとこのように主張が強くぶつかったりで騒がしい。もしそれを実行するのであれば私は一番に立候補しよう、本当にここはやかましくてかなわん」
ゴリゴリ行きたい派、ゆっくり見守る派。
念願の夢等と語り出す者まで現れると中々意見がまとまらず、ついにはワーワーあちらこちらいつも通りの大騒ぎ。これでは埒が明かない。飛び火は面倒なので勘弁、と席を立つ神もチラホラ。それを見かねて最近生まれたばかりの幼い神が挙手をした。
「なんだ、申してみよ」
「あの…優秀な人材が揃う、始まりの世界の住人を異世界へ招き入れるというのはどうでしょう」
「ん?」
「我々神は人間と直接関わる事を避けていますよね…偏った情を持たぬよう。天使は臆病でそんなには使えません、というわけでこちらをご覧下さい」
そう言うと一同の視線を1箇所に集める。
幼い神は皆が囲うテーブルの中心へ人差し指をクルリと回して弧を描く、すると光が集まり巨大なホログラム映像がそこへ出現した。映されたのは始まりの世界で作り上げられた娯楽、ファンタジーRPGのゲーム映像。神々は物珍しそうにそれを見つめた。
「ふむ、議論となっている異世界に酷似しているようだが」
「悪を打ち破り、救う者を勇者というのか」
「つまり我々が彼らを勇者に仕立て働かせる、と」
「勇者を使った異世界の浄化、面白いじゃない」
難色を示す者はあまりおらず、いたとしても他に良い案も浮かばないので満場一致という事になり話し合いはそのまま進行していく。
「まあしかし…あれだ、最終的に誰が異世界に収まるのかという問題がある。なんせたった1人だけなのだから」
どこか落ち着きがない様子で、箱庭ドリームが忘れられないでいる聡い神がポツリと呟く。しかしその瞬間舞い降りた閃き、眠そうな瞼をカッと見開き皆にこう提案した。
「…そうだ!それぞれ連れてきた勇者達を競わせようではないか」
「名案だな、誰の勇者が悪を滅ぼし多くの異世界人から支持を受けるのか…それで文句なしの勝負としよう」
「お祭り騒ぎだなぁ!」
「…おぬしらまるでオモチャを前にし、はしゃぐ子供のようじゃな。アホらしい、私は見物させてもらうとしよう」
自分だけの世界、ありのまま創造する世界。
そんなロマンを抱いている神は多かった。
一方、もうあまり手の掛からない始まりの世界で、このまま悠々自適に暮らしたい派ももちろん存在した。
「この場にいない者達には後日伝えるという事で、では解散」
こうして、始まりの世界から勇者として連行される「異世界拉致」が始まった。
異世界に行くまでの道中は、真っ暗な空間がひたすら続いていた。
まるで宇宙のような虚空が永遠と広がっている、そこに光が浮く様に見えたのは連れて来られた人間達。彼らは行儀良く、一列に並ばされている。
一人一人、隣には担当となる神が付き添っていた。ラーメン屋の大行列にも思えるが、そうではない。
「あそこから異世界に行けるんだよ」
「そうなんだ」
「一人ずつしか入れない」
「効率悪いね」
そんな中で、少年と女神が他とは違う親しい雰囲気で雑談していた。
「どうする?まだ引き返せるよ」
「でも…あっちにはもう帰る場所がないから」
「…すまないね、あまり力になれずだ」
「なんで謝るの?おかげで俺生きてるし、一緒に居てくれたじゃん」
「でも君は結局…私のせいで、苦しんでしまうかもしれない」
「え?」
「その時は償うよ」
「なにを?」
「…そうだ、もし異世界で一番になったら…我々神側から願いを一つ叶えるという事になっている。もう、内容は決めてあるのかい?」
「決めてるよ、リセット…そして俺の世界が終わるきっかけを正しに行く」
「わかった」
「きっと、それで全部元通りだよね」
女神はその問いに、ただ悲しそうに口許で笑った。
「ゲームが終わったら必ず迎えに来る、一番じゃなくてもね…一緒に帰ろう」
「待ってる」
拉致られた者には神の加護に加え、ランダムで特殊能力が異世界から付与された。当たりハズレのあるように思えたが、使い方次第ではどれも強力であった。
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