添削沼

滝口アルファ

添削沼

私は、

俳句を目にすると、

ついつい添削例を考えてしまうのが

癖になっている。

我ながら、実に面倒なスペックである。

早速、その一例を紹介しよう。


2023年11月19日放送のNHK俳句では、

ゲストの作家・山崎ナオコーラさんが、

俳句を披露されていた。


鰯雲葉っぱと共に降ってこい


この俳句は、

母と子のイラストのようなものを見て作られたものだ。

「葉っぱ」は、この回の題が「落葉」なので、

茶色い落葉だろうか。それとも紅葉だろうか。

とにかく、いい句だ。

このままで十分いいんじゃないか。

選者のように、

微笑みながらこの句を褒めていればいいんじゃないか。

と、思ったときには、

私の脳は、ほぼ条件反射のように添削を始めていて、

次のような添削例を紡ぎ出していた。


子を抱けば葉と共に降れ鱗雲


鰯雲(いわしぐも)も鱗雲(うろこぐも)も

同じ秋の雲の異称なのだが、

後者のほうが、

まるで

鱗がきらきらと降ってくるイメージが強く、

詩的で美しいのではないか。

そして、やはりこの句においては、

「子」という言葉は、

絶対に外せないと思ったわけである。

ついでに、もう少しアレンジしてみよう。



A 君待てば葉と共に降れ鱗雲

B 見つめ合う葉と共に降れ鱗雲

C 君去れば葉と共に降れ鱗雲


どれが一番いいのか、私にも分からないが、

いずれにせよ、

こうすると、たちまち、

恋または失恋の俳句に変貌を遂げるのである。


むろん、

この俳句の原作者の

山崎ナオコーラさんからしてみれば、

余計なお世話の一言に尽きるだろう。

私だって、

こんな添削スペックよりも

傑作が作れるスペックが欲しかったのだ。

しかし、

これが私という人間の本性であるならば

それはそれで認めるしかないのかもしれない。


やれやれ…。

この添削沼から抜け出せそうにない。

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