第23話

 チェックポイント・ケニービル。

 交信から10分後、予定通りジエン中尉が護衛する車列はケニービルに到着した。ここはもともとは昔の混乱期に廃墟となったケニービルという町だった。州政府が進める幹線道路整備事業の活動拠点として再建された町だ。州政府が進める幹線道路整備事業の活動拠点、無線中継局、電信局としての役割を負っている。もっとも、今のところは、ここに住んでいるのはさらに西の方へ向かって幹線道路を整備している作業員と無線中継局と電信局の職員、彼らにサービスを提供する業者くらいだ。

 ケニービルは防壁もない町だが200人からの人数がいる道路整備作業員もそれ以外の女性も含めたサービス要員も全て民兵としての訓練を受けており、自衛が可能な程度には武装している。加えて、州兵1個小隊が町の西側に陣地と検問所(チェックポイント)を構築し、守備隊として駐屯している。こんな所にちょっかいを掛けるような匪賊はさすがにいなかった。 だが、ケニービルから西に離れた道路整備作業の最前線では嫌がらせめいた銃撃を受けることもあり、そのたび作業を中断して安全を確保をしなければならず、予定よりも進捗は遅れ気味だった。

 このあたりはブリーフィングで旅団のS2(情報担当官)から注意情報としてジエン中尉に提示された情報だ。だが守備隊のレゼンデ中尉から聞いた話に依ればそれ以上にきな臭い動きもあるようだ。ケニービルには手が出せないからだろう。道路整備作業の前路啓開パトロールに出た分隊が武装集団と小競り合いを演じ双方に死傷者が出たりしているのだ。

 ジエン中尉は念のためケニービルの町と守備隊の陣地の間に装甲車で即席の防壁を作り、そのかげに州政府の装甲トラックを停めた。州政府のお偉いさん達はケニービルのダイナーという建前の作業員食堂で休んでもらっている。

「中尉殿!」

 装甲車から降りて固まった体を解そうと軽いストレッチをやっていたジエン中尉に小隊軍曹が声を掛けてきた。

「オキーフ? どうした?」

「ダイナーから出前が届いてます。予定通り代わりの食料を引き渡していいですね?」

「ああ、頼む」

 中隊本部から頼んでおいた食事だ。といってもハムとチーズを挟んだ丸パンと代用コーヒーくらいだが、ここまで焼きたてのパンと溶けたチーズの美味そうな匂いがする。レーションじゃないだけで気分が上がる。

 銃座で見張りに着いている運の悪い何人かを除いて、兵達も車両のかげに座り込んで食事を摂っていた。

 それぞれの部下に食事が行き渡ったのを確認した少尉と下士官が自分たちの分のパンと代用コーヒーを持って集まってきた。

 ジエン中尉は代用コーヒーに口をつけた。相変わらずの大麦コーヒーだが物心ついた頃からこればっかり飲んでいるので違和感はない。南部や海沿いの州ならメキシコやブラジルあたりから入ってきた本物のコーヒーもあるらしいが、この辺りでは中尉の給料でおいそれと買えるような値段ではなかった。

「食べながら聞いてくれ。みんなも判っているとは思うが、念のためだ。この先の話をしておく」

 D中隊から臨時編入された半個小隊の指揮官であるチャムス少尉と集まった下士官がやはりなという顔で頷いた。中尉は話を続けた。

「このケニービルを出たら、ホースランチまで20キロくらいは無人だ。道路も数キロは整備されているがその先は整備途中でさらに先は未整備の悪路と思っていいだろう。道路脇の森も藪もある。軍の装甲車に手を出すようなイカれた匪賊がいるとも思えんが、守備隊のレゼンデ中尉によると、パトロール中に何度か匪賊と思われる武装集団と遭遇し小競り合いになったことがあるそうだ。だから念のため、待ち伏せを警戒しながら進まなきゃならん。ホースランチに着くのは早くても16時位になるだろう」

 無表情を装っているが、誰もが内心うんざりしている事はジエン中尉にも分かっていた。

『まあ、無理もない。俺だって指揮官でなきゃそんな顔してるだろうよ』と心の中で呟きながら話を続けた。

「各車、移動中に兵をガンポートに張り付かせる必要はないが、何かあったらすぐ対応できるようにしておけ」

「イエス・サー」

「チャムス少尉、前路警戒の軽装甲車は特に警戒を怠るな。少しでもおかしいと感じたらすぐに連絡し後退しろ」

「イエス・サー。そうします」

「あと、ここまでは乗車中のヘルメット着用は免除してきたが、ここからは何があるか分からん。全員のヘルメット着用を徹底しろ」


 チェックポイント・ケニービルをでて数キロも進むと、道路整備の最前線があった。ここまで作業員を運んできたトラックが5輛と護衛の分隊が乗ってきた軍のトラック1輛が路側の更地に停められていた。非効率だとは思うが道路工事用の重機が貴重品なので、この辺りになると道路整備は殆どが人力での作業だ。

 斧と鋸で道路の周りの木を切り倒したり大鎌で藪を払う班。ツルハシとシャベルと鋤で切り倒した木の根株を掘り起こす班。路面を掘り起こし古い舗装の残骸を取り除く班。土嚢に土を詰め古い路盤の上に何層にも積み上げて行く班がいる。そこここに伐採され、どうせならと薪にするために切り揃えられた生木や路盤を整備するための砕石が積み上げられていた。

 車列の接近に気付いた歩哨が停まれと合図をしてきた。分隊長の軍曹が自ら待っていたようだ。

「第1装甲車旅団のチャムス少尉だ。レゼンデ中尉殿から聞いていると思うが、州の道路整備使節団だ」

 軽装甲車から身を乗り出し、チャムス少尉が歩哨に告げる。

「149歩兵旅団のヴィゼナー軍曹です。はい、伺ってます。指示に従ってゆっくり進んでください」

 軍曹はそう言って車列の前に出て誘導をはじめた。すぐに整備された道は終わり土嚢を積んでいる最中の箇所にさしかかる。軍曹はその手前で路肩の方に誘導をはじめた。中途半端な状態の土嚢の上を重量のある装甲車や装甲トラックが通ると土嚢が破れたり積んだ土嚢が崩れたりするのだろう。路肩は木の根を掘り起こした後を埋め戻して踏み固めてはあったがこちらも整備途中ででこぼこだった。

 多くの作業員が手を止め、珍しそうに装甲車と装甲トラックが揺れながら工事現場を進んでいくのを見ていた。

 やがて路肩の木や藪が残ったままのエリアにさしかかると軍曹は未整備の路上に戻れと合図をしてきた。後続のM31A装甲車は馬力はあるが重いのでさらに慎重に進んでおり、少し間隔が開いていた。後続が追いつくまでの間に情報収集するべくチャムス少尉は軍曹の横で軽装甲車を停めた。

「軍曹、この先の脅威情報を教えてくれないか。お前のカンとか印象でもかまわん」

 軍曹は一瞬「へえ」という顔をしたがすぐに真顔に戻った。

「パトロール中に武装勢力と遭遇した話は聞かれたかと思います。そいつらからと思われますがたまに嫌がらせのような攻撃というか銃撃があります。その武装勢力ですが、どうも匪賊にしては妙ですね、あくまで自分の印象ですが、匪賊はやたらと撃ちまくる傾向がありますが、私が接触した武装勢力は戦術行動めいた動きをしました。冒険者くずれか脱走兵が混ざっているかもしれません」

「少尉、チャーリー1が何か問題か、問題でなければ進めと言ってます」

 無線手が割り込んだ。

「軍曹、すまんが時間切れだ。貴重な情報をありがとう。留意するよ」

 そう言ってチャムス少尉はドライバーに進むよう合図した。

 通り過ぎる車列にヴィゼナー軍曹は敬礼を送った。各車のドライバー、機銃手が敬礼を返す。

「ご無事で」

 遠ざかる車列に向かって軍曹はそっと呟いた。

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