第24話

翌朝、俺たちは教会の庭で、子どもたちに囲まれていた。雲一つない快晴の下、やたらと強い日差しを手で隠しながら喚声や絶叫を聞き流す。

ルイズが太陽に負けないくらい輝いている笑顔で子どもたちに並ぶよう促す。全員が鎮まった後、ルイズは俺たちの説明を始めた。

「今日からこの教会に新しいお客さんが来ました。私の手伝いをしてくれるとのことです。皆さんも失礼のないように」

はーい、と元気な返事が聞こえる。クロナは子どもたちに連れられて、庭や教会を案内されていた。シヴァドは子どもたちに勉強を、アザハは体の動かし方を教えることになった。

「俺は何すればいいんだ?」

トオガにそう聞かれたルイズは、こちらです、と言って建物に入った。廊下の途中にある扉を開けて、小さな通路を歩く。

「トオガ様には、この植物の世話をしてほしいのです」

そこは裏庭だった。蔓を巻き付けた支柱が列を成しているのを見て、トオガは目を輝かせた。

「この蔓と赤い花の形と折れ曲がったさやは、不死鳥豆だな…!?」

「はい。育て始めたのはザーヒル様ですが、今は私が育てています」

こんなにしっかり環境も数も整えて育てている場所は他でもほとんどない、と興奮するトオガに植物を任せ、ルイズは授業を始めるために再び子どもたちを教会の中の大きい部屋に集めた。

その日の授業はルイズが行い、シヴァドはその様子を見ているにとどまった。クロナも緊張した様子で後ろの椅子に座っていたが、すぐに慣れて手を挙げて質問し始めた。質問は活発に飛び交ったが、ルイズは全てに淀みなくすらすらと答えていた。

座学が一通り終わり、子どもたちとシヴァドは再び広い庭に出て魔法の練習をすることになった。今度はルイズが見守り、シヴァドが教える番だった。

「防御魔法は基本ができるようになると使うのが楽しくなる。まあ見てて」

シヴァドは跪いて地面に手をついた。すると、その目の前の土が盛り上がって浮き上がり、空に向かって飛び上がった。立ち上がると同時に土が落ちてきたが、同時にシヴァドは防御魔法で頭上に防壁を作った。土は防壁を滑り落ち、砂埃の一粒も体に触れていなかった。

「魔法の上手い人がこれを使うと、港で怖いお兄さんに襲われるようなことがあっても傷つかなくて済む。普通に過ごしてても役立つから、しっかり身につけよう」

シヴァドは自分の前に子どもたちを並ばせ、立てかけてあった木の板を渡した。

「その板に僕が水の塊を投げるから、魔法で防御してみて。濡れていなかったら大成功だよ」

一番先頭の男の子がそれを聞いてにやにやと笑っている。

シヴァドが水を投げると、火の玉を作って水を掻き消した。恐れを知らないしたり顔でシヴァドを見上げている。

「お兄ちゃん、防御魔法で防御しろなんて言わなかっただろ」

それを聞いたシヴァドはにこにこ笑いながら頷いた。

「確かにそうだね。思い込まないことは大事だ。じゃあ次は防御魔法を使ってくれるかな」

「俺の火で十分だろ!」

男の子の返事に、よし、と言ってシヴァドは木の板を受け取って地面に突き刺した。

「見ててね」

穏やかな口調とは裏腹に、掲げた右手からは水色の光が漏れ出し始めている。集まった魔力が水の塊となる。シヴァドが塊を木の板に投げると、木の板は凄まじい轟音とともに張り裂け、上半分は粉々になった。

「こういう魔法が飛んできた時は、防御魔法だと楽に防ぐことができるんだ」

相変わらずニコニコしているシヴァドに対して、子どもたちは口をぽかんと開けていた。

「じゃあ、もう一回並んでくれるかな。流石にあんなのは撃たないから安心してね」

シヴァドの魔法を見たからかは分からないが、結局全員が防御魔法を成功させてその日の魔法の授業は終わった。

「ちょっと調子に乗ったかもしれない…」

シヴァドはぼそっとそう呟いたが、子どもたちの反応は良かったようだ。

アザハが木剣の振り方を教えているのを見ていると、ルイズがやってきて感謝を述べた。

「本当に助かりました。魔法の専門家の方に教わる機会があるとは…」

「子どもたちがみんなそれなりに魔法を使えて驚きました。あなたが丁寧に教えてきたことがしっかり形になっています」

シヴァドがそう告げると、ルイズは安堵してほっと息を吐いた。

「アザハさんが剣を一通り教え終わったら、私は子どもたちを孤児院まで送ります」

「孤児院と教会は別なんですか?」

「はい」

ルイズが答えづらそうに返事をした。傾き始めた陽の光がシスターの端正な顔に影を落とした。

子どもたちが帰った後の教会で魔法の練習をする約束を取り付ける頃には、アザハの授業も終わっていた。教会の裏庭からトオガを引っ張り出して、俺たちとシスターは別れた。シヴァドはトオガと魔法を練習し、アザハとクロナは先にコテージに戻る。

トオガは草の上で胡坐をかいてシヴァドの様子を眺めながら、手にしていた書類とサンプル瓶を整理していた。シヴァドは剣を抜いて、ぐるぐると円を描くように動かした。剣先から七色の炎が溢れ出し、庭じゅうを輝かせる。

「熱くない?」

「おう。俺は燃やしていいけど、俺の成果だけは燃やしてくれるなよ」

シヴァドは頷いた。黄色い柔和な光だけがトオガの頭上に残り、それ以外はたちまち消え失せた。庭は暗くなり始めていたので、その光が徐々にはっきりと見えるようになった。

「やっぱお前、魔法使うの上手えんだな。魔法の制御も魔力のコントロールも、それだけできる奴には会ったことがねえ」

「練習の成果ってやつだよ。僕は君ほど植物を知らない」

「そうだろ?飯に困ったら食える草を教えてやるよ」

書類を鞄に詰め込み終わったトオガはサンプル瓶にラベルを貼り始めた。弱い粘着力を粘性の高い植物の体液で補っているらしい。

「今日は防御魔法を教えたんだってな。じゃあ次は回復魔法か」

「うん。でも回復魔法には分かりやすい指標がないんだ。さっきの炎の魔法だったら効果が分かりやすいんだけど、まさか傷つけあって回復させ合うなんてしたくないしできないから、どうしようかなと思って」

トオガはそれを聞いてにやりと笑って、サンプル瓶を手に取った。

「俺にひとつ考えがあるんだ」

シヴァドが尋ねようとした瞬間、教会の庭の入り口から二人の男性の声が聞こえた。片方の声が問いかけた。

「この教会にシスタールイズはいらっしゃいますか」

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