第7話 秘密の訓練施設と先生方

 翌日の朝、予定通り焔とスカルは時の山に入り、今は荷物を置いてきて準備運動を始めている。ちなみにスカルは人化して修行に参加だ。

 各々素振りなどをしていると、小屋の反対の方向から心月が歩いてくる。


心月「焔、スカル、今日はちょっと面白い場所に案内するよ」


焔「面白い場所、ですか?」


心月「そう。それじゃ、武器を持ってついてきて」


 2人が心月さんについていくと、やがて低い崖の下にたどりついた。


心月「ついたよ」


焔「ついたって、何もありませんけど……」


心月「まぁまぁ、見てて」


 心月さんが岩壁に手を3秒ほどつけるとピン、という電子音が響き、次の瞬間ゴゴゴゴと低い音を唸らせながら地面が小さく揺れる。すると、ただの岩壁だったはずの場所の一部が下へ沈んでいき、やがて隠された入り口があらわになった。


焔「おぉ……!」


スカル「すごいな!秘密基地か?」


心月「まぁそんな感じかな?この山の秘密の訓練施設【ファントムベース】だよ。じゃ、中に入ろうか。"みんな"はもう来ているだろうしね。実は結構遅刻してるんだよねぇ……」


焔、スカル「?」


 2人が頭に疑問符を浮かべながら、心月の後ろをついていく。入り口を入ってすぐに重厚な鉄の扉があり、ボタンを押して扉を開け、中に入る。どうやらエレベーターのようだ。全員が乗ったあとに扉を閉めると、下から魔法陣が浮かび上がり上へと昇る。次の瞬間、パシュッ!と音が鳴るとすぐに入り口が開き、外が違う景色になっていた。


焔「これ、転移魔法ですか?」


心月「うん、これを作った人が普通のエレベーターじゃつまんないって言ってこういう動作の仕方にしたらしいよ」


焔「な、なるほど……?」


スカル「変な奴だな、ソイツ」


???「おいおい、誰が変な奴だって?」


 会話しながら進んでいた焔たちの前から人が2人現れる。1人は黒髪のポニーテールでマントのようなケープを羽織った少女、焔の仲間の1人である怜だ。もう1人は、金髪のショートヘアーでカジュアルな服装の上に白衣を羽織った女性である。


???「やぁ、遅かったじゃないか。少年たち」


心月「遅れてごめんね……その【少年たち】には僕は入っていないよね?神奈」


神奈「はははっ、それは自分の頭の上に手を当てて考えてみなよ」


怜「や、焔。えっと、その白髪のガキンチョは……」


スカル「ガキンチョいうな!俺だ!スカルだ!」


怜「え?……結局ガキンチョじゃん」


スカル「だから誰がガキンチョだ!」


焔「怜ー、お前分かってて言ってるだろ」


怜「あ、バレた?」


心月「...とりあえず、各々の紹介やら話やらは後にしよう」


神奈「そうだね。じゃ、ついてきて。こっちだよ」


 神奈さんを先頭に歩いていくと、開けた空間に出る。そこには海斗たちいつものメンバーやそれぞれの師匠と思しき大人たちが集まっていた。


???「やっと来たのかい。まったく、待ちくたびれちまったよ」


???「心月がこんなに遅れるなんて珍しいね。なにかあったのかい?」


???「ん~、ふわぁぁぁ……それにしても遅すぎだよ~。もしかして弟子くんたちのせいかな~?」


心月「あはは、ごめんね、守花、悟、真遊。それと……フロスト」


 心月が【フロスト】と名を呼ぶと、空間の上部にスクリーンが投影され、雪の結晶を模った髪飾りをつけた白髪の少女が現れた。


フロスト「予定時刻から30分遅刻、以後気をつけてください。ミヅキ」


心月「あはは……みんな本当にごめんね。僕は黒柳心月。焔とスカルの師匠をしているよ。ほら、2人も自己紹介して」


焔「あ、あぁはい。今回は遅れてしまって申し訳ない。俺は霊松焔です」


スカル「スカルだ!今は人間の姿だが元々はスケルトンだ!よろしく頼むぜ!あ、遅刻してごめんな」


心月「じゃ、守花、神奈、悟、真遊、フロスト、自己紹介を頼めるかな?」


 心月が呼びかけると、まず初めに和服に身を包んだ若干赤みがかった黒髪の女性が話し始めた。


守花「はいよ、私は【鬼崎 守花(きざき しゅか)】だ。海斗の師匠をやってる。よろしく頼むさね。確か焔は鏡平の息子なんだって?」


焔「あぁ、はい。父さんのことを知っているんですか?」


守花「あぁ、あいつに鍛治を教えたのは私さ。もしあんたも鍛治を学びたいなら、私のとこにきな。たっぷりしごいてやるさね」


海斗「先生の指導はキツイぞ〜、教え方は優しいけど」


 海斗が横槍を入れ、守花から頭にチョップを受けたところで、神奈が話し始めた。


神奈「じゃ、次は私だね。私は【黒崎 神奈(くろさき かな)】怜と俊の師匠をしているよ。発明がすごく得意だから、何か作って欲しいものがあったらうちのバカ弟子じゃなくて私に頼んでねー」


怜「へー?私に技量が負けているのに、よくそんなことが言えますねー神奈さーん?」


神奈「なーに嘘を言っているのかなー?怜ー?確かに前の勝負は私が負けたけど、あれは怜の100%運勝ちだったでしょー?」


怜「機械の動作に運は無いと私は思うんですけどねー?」


神奈「運勝ちした人がよく言うねー?」


怜・神奈「んー?」


スカル「いつもこんな感じなのか?こいつら」


俊「あー、うん……今この2人が言っているのは『お互いにピッチングマシーンを作って、どっちが多くの動く的を倒せるか?』っていう勝負の話なんだけど……ときどきこういった勝負をして競っているんだよねこの2人……」


海斗「なんか大変そうだね俊……」


俊「はい……2人とも片付け苦手なんでほっとくと作業部屋が散らかりまくるんで……その片付けとかもいつもやってるっす……」


愛奈「……親?」


俊「そうかもしれないっすね。ほら2人とも、こんなとこで言い争いはやめてくださいっすよ」


怜・神奈「じゃ殴り合いならいい?」


俊「そういうことじゃねえ!」


海斗「大変そうだね俊は……」


 茶番を繰り広げる師弟たちを横目に、作業着(ツナギ)を着た深緑色の髪の男性が話し始めた。


悟「え、えーっと、じゃあ僕の番だね。僕は【草場 悟(くさば さとる)】風花と真莉の師匠をやらせてもらってるよ。よろしくね」


 それに続けて、隣にいるライトベージュの髪の女性がのほほんとした表情で話し始める。


真遊「私は【天羽 真遊(あもう まゆう)】愛奈の師匠をしているよ〜、よろしくね〜」


風花「余談ですが、悟先生と真遊さんは付き合ってるんですよ」


焔「あ、そうなの?」


心月「僕も知らなかったな」


スカル「心月センセーも知らなかったのかよ」


守花「私も知らなかったよ」


神奈「あ、私も」


怜「みんな知らないのかよ情報のネットワーク大丈夫?この山」


悟「まぁ、特に言う必要も無いからいいかなって」


真遊「そーそ〜」


フロスト「マユウ、次は私が名乗ってもよろしいでしょうか」


 後ろからフロストが自己紹介をしてもいいか真遊に聞いてきた。


真遊「いいよ〜。ごめんねーフロストちゃん〜」


フロスト「いえ、大丈夫です。私は【フロスト】このファントムベースを管理しているAIです。よろしくお願いします」


焔「よろしく。ところで、このファントムベースってどんな施設なんだ?」


 焔の質問にフロストが落ち着いた口調で話し始める。


フロスト「ファントムベースは仮想戦闘訓練施設です。データベースにある敵を実体化させ、実際に戦うことができます。また、他にも実践的な実地訓練として仮想ダンジョンモードや、自身の実力をデータ的に見ることができる測定モードなどを利用することができます」


スカル「おぉ!すげーな!」


フロスト「それぞれのモードについての説明は利用するときに改めてご説明いたします。試しに何か行いますか?」


 フロストが聞くと、焔はうーん、と少し考えたのちにみんなの方を向き、提案し始める。


焔「せっかくだし、全員で測定モードで今の自分の力を測ってみないか?」


海斗「いいね。今の自分の力は知っておきたい」


怜「楽しそうだし私も賛成で」


風花「私もそれでいいと思います」


愛奈「……私はなんでもいい。みんなと同じのをやる」


俊「俺はやりたいっす」


真莉「私もやりたーい!」


焔「んじゃ、全員でやるか。先生方はどうします?」


心月「僕たちはやらなくてもいいかな。こっちはこっちでやりたいこともあるから」


焔「分かりました。んじゃフロスト、測定を頼む」


フロスト「承知しました。では、誰から行いますか?」


 その言葉に全員が自分以外のメンバーのことを見るが、すぐに焔のほうに視線を向ける。


焔「え、俺?」


怜「そりゃ言い出しっぺだし」


海斗「こういうのは原案者が最初にやるべきだと思うな」


焔「まぁそりゃそうか……よし、フロスト、まずは俺から頼む」


フロスト「分かりました。では、この円盤に乗ってください」


 すると突然、焔の足元にマンホールほどの大きさの少し分厚い円盤が出現した。焔がそれに乗ると、円盤が白い光を発し始める。


フロスト「では、測定を開始します」


―――――――――――――――――――――


※作者の小言

心月さんたち時の山に住む住人たちのルールとして、住民が4人以上集まるとき、遅刻した場合、遅刻した分の時間に見合うだけのお菓子やらなんやらを他の参加者に渡すというルールになっています。

やむを得ない事情の場合は免除されますが、今回は心月さんがほかの先生方にそれぞれお菓子を贈り、合計3000円のお菓子を先生方4人に贈ることで許されました。

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