第2話 デートイベ

「……えっと大地、何処にしようか?」


 京子が迷うのも無理もない、此処には20店舗以上の蕎麦屋があるのだから……。


(って、多すぎだろ!)


「蕎麦の聖地か此処は……」


 思わず、思ったことを速攻口に出してしまう俺。


「あながち間違いじゃないけどね」


 それが可笑しかったのか、クスリと笑う京子。


(あ、良かった機嫌なおった……)


 それはさておき、さてどうしたものか……。


(なにしろ店が沢山あり過ぎて、迷うんだよなあ……) 


「さて、どの店にしようかな?」


 俺は京子に気を使い、京子の顔をチラ見する。


「うーん、そこはね、何を物差しにして考えるかなんだよね……」

「……ですよね」

 

 もうこの会話の時点で、俺の京子が選ぶであろうお店は予想出来てしまっていた。


 「え? なんで予想出来るかって?」そりゃまあ、京子とは幼馴染だしね。


 それに、俺は小説書いている身だからある程度作るキャラ事の思考を考えるんだよね。


 つまり物書きあるあるだけど、キャラ設計の逆パターンである程度思考が分る。


(そう、京子はズバリ歴史オタクなんだよ! そこが最重要のポイント!) 


 俺もモンスターオタクだから分るが、好きな物に対しての知識は勿論のことその愛着っぷりはね……。


 でも、先読みのし過ぎで空回りはしたくないので、俺は会話という名の確認作業に入る。


「えっとね、美味しいお酒と……」

「却下! 次っ!」


「あの説明ちゃんと全部聞こうぜ?」

「次!」


(く、頭の回転が速いというか、気が短いというか……。まあ、いい) 


「あ、ハイ……。石臼挽きのそばと京風の味の……」

「キープして次っ!」


(ですよね……) 


 嬉しそうにはにかむ京子の顔色を見て、俺は自分の予想が当たっていることに気が付く。


 ポイントは京風の味……。


(こいつは京都の物が好き、即ち歴史を感じる物が好きなんだよな) 


「えっと次はだな、落ち着いた隠れ家のような……」

「あ、そこ、大地が好きそうな場所だね!」


「あ、分かります?」

「えっ! だって大地、道中に鬼太郎茶屋のインスタ情報ガン見してたじゃん!」


(あちゃ、バレてましたか……) 


「私ね、大地はモンスターとか大好きだから、ここいらのこの田舎の風景を楽しませたくて連れて来たんだよね!」

「えっ!」


 楽しそうに笑い俺の目を見つめる、京子のその言葉に思わず驚きと感嘆が混ざった声を出してしまう俺。


(そ、そうだったのか……。なんかスッゲー嬉しいし、京子のそんなさり気なく気が利くとこ俺は……俺は……)


 この京子の嬉しい一言で、俺の選ぶ店はもう決まっていた。


「……次は創業50年以上の老舗のお店」

「えっ!」


 京子の声が一段と弾むのが俺には分る。


(うん、ここでいいな) 


「多分、この中で一番古くて歴史を感じれるお店。何でも新王様もここで蕎麦を食されたらしいよ?」

「あ、じゃあ、私ここがいいけど、でも大地は?」 


「お、俺もここがいいかな……」


 俺は少し照れながら、京子に答える。


(京子に喜んでもらえるなら、俺は食事の場所なんてぶっちゃけ何処でもいいんだ……) 


 それに、さっきの京子の嬉しい一言で俺はもうお腹いっぱいだ。

 

 という事で、俺達は創業50年以上の老舗のお店に入る事に……。


「いっただきまーす!」


 俺達はいただきますの掛け声と共に蕎麦を元気にすする。


「うん! うまいうまい!」

「あっ! 程よいコシがあって、蕎麦の甘みがあって美味しい!」


 俺達はあまりの蕎麦の上手さに、しばらく無言で食していく。


「……ああ、満足……」


 すっかり満足した俺は、畳の上にだらしなくゴロリと寝そべる。


(あ、寝そべって気づいたんだけど、新品の畳だったんだろうか?) 


 い草の独特ないい香りが俺の鼻孔をくすぐる……。


 何だかリラックスしてきたので、俺は外の綺麗な景色を見つめ、余韻に浸る……。


 沢山の昔ながらの木づくりの蕎麦屋が見える、緑あふれる木々に囲まれた場所。


 ちょっとしたパワースポットっぽいそれらの場所は、様々な妖怪がやっほしてきそうな感じだ。


(ああ……たまには田舎の景色を見つめながら、こうやってマッタリするのも悪くないよな……)


「ね? 流石、親王様が昔、美味しいって言って食しただけあるよね……」


 京子もいつの間にか俺の隣に寝そべり、俺をジッと見つめている……。


「ち、近っ!」


 近くで見ると、京子の白いワンピースと、それにそのちょっとだけふくよかなぽっちが何だかとても魅力的に見えて……。


 俺はまるでゆでダコのように赤面し、慌てて飛び起きる!


 心臓の鼓動がめっちゃ速くなっているのがわかり、焦りまくる俺。


(し、しかしこうやってお互いの体を並べると分るんだけど、京子は俺の中肉中背に比べすらっとしてるな……。最も身長は170前後とほぼ一緒ですが……まあ、俺の方が少しばかり高い! ドャア!)


「あのね、私ね、大地が此処でいいって言ってくれた事に凄く感謝してるんだ」 

「えっ!」


「だって、大地は本当は別に行きたかった場所あったでしょ?」

「えっ! いや?」


(まあ、確かにあったけど今は色々満足しているので「正直此処で良かったな」と俺は思ってますが……)


「ふふ……私、大地のそんなとこが好きかな?」

「……えっ」


(そんなとこって、一体何処なんだよ?)


「次、いこっ!」

「ちょっ……まっ……」


(う、うおおおいっ! 色々準備が整ってない……) 


 再び京子は俺のマスクを……(略)。


 この後、色んな場所を散策し、蕎麦饅屋やら鬼太郎茶屋などで色んな食べ物を食した。


 俺的には鬼太郎茶屋の妖怪クリームあんみつがお気に入りで、器に入っている目玉の親父クッキーを見た時には感激の二文字だった。


 もち、写メっている!


 ちな、京子は、ガワもっちり、中はつぶあんたっぷりの草饅頭がお気に入りだった模様。


(名前のとおり和菓子好きなんだよなコイツ……)


 そんなこんなで、そこそこいい時間になり、日が傾きだしたので、最後の店を決める事に。


「えっと、確かここだったよね?」

「おう! 店の看板に陶芸体験って書いてるし、間違いねえな!」


 色んなコースがあったが、俺達は手短に終わる【20分のらくやきコース】をチョイス。


「えっと、これどうするんだ?」

「んとね、白い素焼きを選んで、次に鉛筆で下書きして、更に筆で色付けして、ラスト焼いて20分後に完成だって!」


「なるほど」


(問題は、どの素焼きにするかだが……) 


「あ! 大地のも、私とお揃いにしといたから!」


 京子は満面の笑みを浮かべながら、手のひら大の長方計サイズの白皿を俺に見せる。


「お、俺に選択権はないのか……」

「思い出作りだから……ね?」


(……まあ、仕方ないか)


「じゃ、お互いコレをプレゼントするという事で……」

「は、はあっ? 聞いてねえぞ……」


(なんだその、照れくさい甘々イベントは!)


「ほら、思い出作り!」

「ああ、ハイハイ……」


 あっさり折れる俺でした……。


「じゃ、出来上がるまでお互いのお楽しみという事で……」

「ん、了解!」


(仕方ねえ! こうなったら気合入れて力作作ってやんよ!)


 俺は心の中でスッゲー気合を入れる。

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