第28話「熱血姫騎士と愉快な仲間たち」

『みんな! このダンジョンをクリアして私たちの名を上げるわよ!』


『『『はい!』』』


 ダンジョンの入り口でパーティは結束を確かめていた。やはりリーダーは元姫騎士のようだ、それなりに仲間の絆は固いようなので、そこにひびを入れるトラップにかかってくれると楽しそうだ。何より見た目が良いのでオークやオーガのようなデミたちには人気が出そうだ。多少温めにして複数回挑戦させるようにしてもいいかもしれない。


「魔王様、なんかコイツらが映ったら同接が跳ね上がったんですが、私より数字を持っているようで気に食わないです」


 カレンの方には不評のようだ。誰も彼もが諸手を挙げて歓迎するわけではないということか、上手くはいかないものだな。


「ブレイン、リスナーの男女比を出せるか?」


「はい、すぐに」


 答えが返ってきてすぐに俺の前に現在視聴している魔族のデータが表示された。主にオークやゴブリンなどが多い、しかも見ているのはほとんど男だった。アンデッドなどはあまり興味が無いらしく見ている数が圧倒的に少ない。こうしてデータで見ると誰が見ているのかよく分かるな。


 問題はこの配信業を男女関係無く閲覧してくれるようなものにしたいと考えていることだ。今の路線では全体的に見られる配信にはならないだろう。


 まあいいか、とりあえず人数が十分増えてから内容を熟慮しても問題あるまい、とにかく数を稼がないと広告費が入らないからな。内容が教育的であるかどうかなんてのは後から考えればいいことだ、もっとも、魔族に人間的な教育は必要無いのだがな。


「ご苦労、ブレインは危険が無いか監視しておいてくれ。俺はトラップの発動タイミングと内容を調整する。カレンはそのまま実況を続けろ」


「「はい」」


 二人から返事が返ってきたので再び人間達の映像に移す。


『魔王がなんぼのもんじゃい! いてもうたるぞ!』


 タンク役であろう筋肉質で大きな盾を持ったヤツが見得を切る。姫騎士の仲間だというのに随分と柄が悪いな……


『ここ……お宝ザクザク……フヒヒ……』


 魔法使いはこの調子だし、呼ぶパーティはアルマに一任しているが、大丈夫だろうか?


『よっしゃあ! 魔物どもを消し飛ばしてやる!』


 血気盛んな女騎士までいるし……この中では一応元とは言え姫騎士をやっていたと言うだけあって一番人格がまともそうだ。他の連中は見た目はともかく、考え方が魔族みたいな連中だな。


 大丈夫かコイツら? 頼むから配信事故だけは起こさないでくれよ……


 俺の不安を他所に、パーティはダンジョンのドアを押し開けた。入り口に簡単な案内を人間にも読めるように書いてあったのだが、誰一人目もくれずダンジョンに入った。罠かもしれないと疑うのも分かるが読んだ上で判断してくれないかな、わざわざ有益な情報を与えてやったのに無駄じゃないか。


『入るぞ、どんな魔物がいるか分からない、皆警戒を怠るな』


『よっしゃあ! 魔物がいたら殺せるな!』


『お金になりそうな魔物だといいな……』


 先が思いやられる発言だ。あと、このダンジョンに魔物はほとんどいないぞ。魔物なんて入れて殺させるのは多少は心が痛むからな。いくら魔族と違って本能のままに動くとはいえ、生き物を捨て駒にするのは多少抵抗がある。ボスはしょうがないにしても道中に用意して無駄に死なせるのは本意ではない。


 そうして突入したパーティを待ち受けていたものは……パズルだった。比較的簡単なものであり、ただパターンを発見したらその通りにコマを動かしていくだけで、時間をかければ解ける内容だ。


『おっと! 姫騎士たちが早速苦戦しているようです!』


 カレンの実況に俺は驚いて映像を拡大する。ルールはきちんと人間の分かる言葉で目立つところに書いているのに全員がそれを必死に読んでいる。いや、少なくとも姫騎士になれるなら文字は読めて当然だと思うのだが……


『これ、誰か分かる?』


『おやおや、ここで人間達が立ち止まった! なんといきなりの苦戦です! 子供でも解けるパズルが解けないマヌケ揃いなのでしょうか?』


 カレンは楽しげにしているが、俺は気が気ではない。こんなところで退場されたらお話にならないぞ。広告は事前に流したが、内容がここで終わったら見ている連中がキレること請負の内容になるじゃないか、本当にそれは勘弁してくれ。


 三つの棒に順番通りリングを刺していくだけのパズルにどんだけビビってんだよ。こんなもん魔族が初等学校で解くような問題だぞ? しかも相手はそれなりに身分の高いはずの元姫騎士が居るはずだ、居るはずなのに何で全員そろってポンコツなんだよ!


 俺がカリカリイライラしているが、同じ映像を見ているブレインはカツカツとかかとを鳴らしながらイラついていた。アイツは頭が良いからこんなもの見せられたらさぞやイライラするだろうな、可哀想に。


『ここはこれで!』


『おお! さすがリーダー!』


「流石じゃない……まだそこから進まないのか……このマヌケどもめ」


 ブレインがキレそうな顔を隠そうともしていない。その上同接が……あれ? 案外減っていないな、むしろ増えている? 人間が失敗するのが本当に魔族は好きなんだな。俺は魔族の幼児がキャッキャ言いながら絵本を読んでいるのを見せられているような気分だぞ。そういうのは自分の子供だから微笑ましいので、あって赤の他人の子供の映像を延々見せられてもイライラしかしないだろう。


『あー……なんか退屈ですね、このパーティは私のトーク力を試しているんでしょうか? いいでしょう! コイツらがお遊びをしているようなので私の爆笑トークをしばしの間楽しんでください』


 カレンはカレンでイラついているようだ。そしてそのトークは……まあ……うん、感性は人それぞれだし、少なくとも映像に映っているパズルよりは面白かったとだけ言っておこう。


 そうしてしばし待ったところでようやくリーダーがパズルを解いたようで、ドアがゴゴゴと開いた。それは大変結構なことなのだが、始めの部屋のドアが開いただけでコイツらはまるでダンジョンを攻略したかのような顔をしている。お前らはまだ入り口から一歩進んだだけだぞと行ってやりたくなる。


『そこで私は言ったわけですが……ああ、ようやく連中も進んだようなので実況を再開しますね。私のトークはまた今度あたらいい話をお披露目するので期待しながらお待ちください!」


 俺はカレンのトークとこのポンコツパーティの行軍、どちらがマシかで頭を抱える羽目になった。


 俺はとりあえず進んでくれたのでなんとか我慢出来たのだが、ブレインのやつはイライラして地面を蹴りつけていたので床の石にひびが入っていた。強くて賢い冒険者よりよほどムカついていることは明らかなので先が思いやられるなと思った。

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