ショート・ショート
阿藤猛
猫のタマ
家の飼い猫のタマは私に懐かない。
元は家のお父さんが死にそうになっているタマを拾ってきて飼い猫にした。
ザーザー降りの雨の中、タマはダンボール箱の中で息も絶え絶えだったらしい。お父さんはそんなタマを胸に抱えて家に帰ってくると、ストーブの前で温めて、温かいミルクを与えた。そんなことが私がまだ小学生の頃にあった。
へんに忠猫なところがあるタマは、お父さんの前では可愛い声を出して、私やお母さんの前では変な声を出して鳴く。雌であるタマは同じ女の私達を警戒しているのだろうか?
そんなタマが夜中に私の部屋のドアを引っ掻いた。
またか。
そう思い、タマの寝床があるリビングまで降り、皿に、ドライフードをからからと少し出してやった。
タマは完全に私を下に見ているらしい。お父さんに抱っこされる自分が彼にとって一番だと思うのだろう。
その晩、タマが夢に出てきた。
夢の中でもお父さんに抱かれていた。
私は泣いてしまった。お父さんに、私よりタマがいいんだね、などと叫んでしまっている。どこかで夢の中の幼い私を俯瞰している自分に気づいた。
お父さんは困ったように笑い、タマの毛並みのいい身体を撫でた。
夢の中の私の涙は止まらない。
目玉がぼろぼろと落ちてきそうなほど涙がどろどろと出てくる。
目玉どころか、身体までぼろぼろと崩れ落ちている私を、中空で見ていると、目が覚めた。私は眠っていたのだ。今までのは夢だ。わかっていたけどね。
タマがめずらしく私の布団の中で丸くなっていた。
これを期待して部屋のドアをいつも開けているのだから、私も素直ではない。
タマは私が起きるのと同時にベッドから出ると、カーペットが敷かれている床に、ほとんど姿のままのドライフードを吐き出した。
何故か私ももらいゲロしそうになった。
何故かも何も朝に弱いのだ。
《終》
ショート・ショート 阿藤猛 @takeshiato
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