カノジョに愛想を尽かしたので、クラスで目立たない地味な女子と浮気始めました

ヨルノソラ/朝陽千早

プロローグ

 その日。

 俺はカノジョではない女の子と一夜を共にした。


(……これは、まずいな)


 やることやって頭が冷えたのか、俺は現況を俯瞰的に見つめていた。


 カノジョがいるのに、別の女の子と一線を超えてしまった。


 立派な裏切り行為。人としてダメなことをしている。ギルティだ。


(ああ、なにしてんだ俺……)


 でも、言い分がないわけじゃない。

 常日頃、カノジョから物のように扱われ、暴言を吐かれ、俺は心身ともに疲弊していたのだ。


 そんな時、クラスメイトの山野楓やまのかえでが声をかけてきた。


『……カノジョさんのことで悩んでるんですか?』


 俺の心中を見透かしたような発言。

 気がつくと、俺は胸の内を彼女に吐露していた。


 多分、カノジョとの歪んだ関係を誰かに聞いて欲しかったんだと思う。


 俺の話を全て聞き届けると、山野は小さく首を下ろして。


『実は私も、彼氏に酷い扱いを受けてるんです。塩見くんに、私と似た物を感じてつい声をかけてしまいました』


 聞けば、山野の彼氏は自己中心的な考えの持ち主で、乱暴を振るわれることもあるそうだ。


 お互いに恋人に苦しめられている物同士。

 不思議と惹かれ合うものがあり、距離が一気に縮まった。


 そして、気がついたら……今に至る感じである。


塩見しおみくん」


 甘い声が耳元で囁かれ、俺は首ごと山野の方に向ける。


「私、浮気はまずいと思うんです」


「同感だ。浮気は良くない」


「私、今更冷静になりました。塩見くんとはただお話がしたかっただけなんです。こんなことをするつもりはありませんでした」


「その割にはだいぶ激し……いや、なんでもないです」


 ジッと鋭く睨まれ、俺は慌てて口を噤む。


 山野はベッドから起き上がると、居住まいを正した。俺も、上体を起こす。


「塩見くん。今日のことは私たちだけの秘密にしましょう」


「うん。まぁ、誰かに言うような内容じゃないけど」


「約束ですよ?」


「うん、約束」


 小指を差し出され、俺はそれに応えた。


「明日からは普通のクラスメイトですからね」


「了解。でもたまには愚痴は聞いてよ。他に吐き出せるアテがないからさ」


「はい。その時は私の愚痴も聞いてください。私も、愚痴を言える相手がいないので」


「愚痴、だけだからな。今日みたいなことにはホントもうならないようにしよう」


「もちろんです。今日の二の舞になることだけは避けましょう」


「絶対……絶対避けよう!」


 お互いに共通認識を持ち、固く決意するのだった。

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