自白

三日月 青

第1話

誰だって美しいものは好きだろ?

そして

もしそれがまだ未熟であれば、その美しいものを最大限美しくしたいとも思うだろう?

桜が満開になるまで待つように

原石があれば宝石と呼ばれるまで磨くように

それは僕も同じさ

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たかが17年しか生きていない僕がが思ったことだが、売れている小説のほとんんどは容姿が優れている登場人物がいるじゃないんだろうか。

まあ分かる。

読者はその端正な人物を自分の友人や恋人に見立てることが楽しいのだろう。

こんな偉そうに語る僕も彼らの虜にされた一人だ。想像力が豊かな僕がそんな妄想に浸った回数は決して少なくない。

もちろん、

純粋だったり、馬鹿正直だったり、つい応援したくなるような性格を持つキャラクターも読者を清々しい気分にしてくれる。

でもやっぱり、自分の話に華を飾るにはビジュアル的に秀でてる奴を登場させる方がはるかに簡単で効果的だとおもう。


そして僕がこれから話すことにも美少女が出てくる。これは僕にとっての美しい話だ。


みんなも多分そう思ったように、きっと

誰が見ても彼女は美しく映る。

こんな田舎の学校に転入したなら尚更。

噂では元々ここに住む祖父母を持ち、引っ越してきたそうだ。

よそ者だとしても、美しいものは基本好まれる。自己紹介からも別に性格に難があるようには見えなかった。

初めの休み時間に彼女が囲まれるのは自然な流れだ。同時にそう簡単に彼女を受け入れられない人もいるというのも自然な流れ。

田舎学校に美女が転入。ありそうなシチュエーションだ。さて普通は、元いた女王様生徒が嫉妬に狂い壮絶ないじめを繰り広げて、最終的に報いを受けるか、あるいは青春小説的に言えば颯爽と助けてくれる王子様生徒が登場するかといやでも予想してしまう。


でもそうはならないだろう。

実質、いつもは気に入らない相手に毒舌な美濃さんも、不満を顔に出しつつ黙ったままだ。

彼女にいじめは似合わない。

いや、正確にはいじめにより作り出される状況が似合わないのだ。

だから、

彼女に泥水をかけるとか、虫を机に入れるとか、そう言った醜い要素を加えると、まるで完璧な絵に黒いインクを垂らすように、

なんとも言えない罪悪感と不快感を感じることになる。

故に彼女を妬むものたちは何か不運な事故が起こってくれやしないかと、なんとも曖昧で、悪意に満ちた奇跡でも願うしかない。しかしそんな捻じ曲がった根を持つものは少数派で、多くは彼女を暖かく迎え入れた。


そして

僕も彼女の綺麗な姿に一目で虜になった。羨ましいという気持ちも多少あったが、それ以上に彼女の美に気を取られ微量の畏怖さえ感じてしまった。

下校時間、彼女は僕の目線をつかまえつつ、何人かの友人に囲まれて、5月の若葉を背景に髪を靡かせながら遠ざかっていった。

これが桜だったらいっそう良かっただろうに。でも桜は長い間咲いてはいけない。一瞬で散ってしまうというその儚さが桜の価値を形作っている訳でもあるのだから。偶然虹に出会した時はいつまでも眺めていられるのに、ネットで検索した虹の画像はいとも容易くスクロールしてしまうのと同じだ。

だからこの新緑は正しい。

そしてその緑に名残を残した初登校で、彼女はいなくなった

僕が殺して。

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