第6話 40歳になった

 40歳の誕生日は娘の学芸会とPTAの当番があったので、40歳になったな〜という感慨よりも、アレどうしようコレの手順はなどとバタバタしているうちに時間が過ぎたので正直全く実感が無い。

 学芸会では娘はお猿さんの役をやり先陣を切って舞台の上で側転を披露するなど立派に活躍しており、成長を感じた。

 お昼は夫が作ってくれた茄子とベーコンのアラビアータを食べ、私はこの人と25年も一緒にいるのかと思うと不思議な気持ちだった。18歳の時、あなたは今は若いから私のことを好きでいられるけど、私が老けたら必ず浮気する、100万賭けてもいい、と何かの弾みで啖呵を切り、それに対して夫は、いいよ、俺は絶対その賭けに勝つから40歳になるまでにちゃんと100万用意しておいてね、それで旅行に行こうと言われたのだが、私は100万円を用意してない。この賭けを50歳に延長するのは可能かどうかを打診したいが、夫が忘れていたら蒸し返したくないのでそっとしておこうと思う。

 この年になって痛感するのは、無事に誕生日を迎えられるのは全く当たり前ではないということ。私は30代のうちに大切な友達を二人亡くした。死にたい死にたいと喚いていた私が生き残り、明るく健気に笑っていた彼女達が死んでしまったことを、私はいまだに受け入れていない。彼女達はまだどこかで生きているんじゃないか、ふと電話やメールが届くのではないかと、そんな空気の中生きている自分がいる。

 私が生きていることも誰かが生きていることも当たり前ではない。しかし私はそのことを本当に真摯に受け止めて日々を生きているか。時間を一秒でも無駄にしたくないと思う一方で、PTAの心労で疲れきり横になりながらこの日記をしたため、リビングでは夫が娘の勉強を見てくれている。もう少ししたら私のリクエストで久しぶりにしゃぶ葉に出かける。去年の誕生日と同じ場所で迎える40歳は、奇跡と呼ぶにはあまりにもささやかで日常の延長。

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