冬は凪ぐ
只
第1話 冬は凪ぐ
刹那の秋が過ぎ、唐突として冬が顔をのぞかせた。
夜の帳が降り、早めのライトアップが煌々と輝く帰り道。
さみしさを、夜風と夕の短さと残り少ない高校生活からじんわりと感じる帰り道。
人はよく、後悔する生き物と言われる。だとすれば、終わりが近づいてきていることに早く気付いた僕は、幸せなのだろうか。
みんなが受験に向けて頑張る中、早期に進路が決まった僕は未来を馳せる。
空を見上げれば、雲から細々とまた力強く輝く星々が見える。
彼らでさえもいつかは光を失い、姿を変える。
静かに終わりは近づいてくる。
赤く鳴る踏切に行く手を阻まれ、そんな空虚を夢想する。
全ては並列進行で、岐路に立つまで先行きは不透明だ。
そう、この踏切のように交じり合い、別れる。
そして踏切は開き、活路が見える。
そんなのが人生というものだと、生きてきて理解したつもりだ。
暗がりを深めた夜と心に抗い、ペダルを漕ぎ進む。
通り道にある友人の家を過ぎればまた一つ、星が陰る。
生生流転を肯定し、歩みを進める彼を失うのが少し怖い。
六年間登下校を共にした彼が、忙しくなり僕の隣は最近空席だ。
猛き彼は、振り向くことなく己を貫き通し地元を離れることを決意した。
今やネット上で会えるといえども、リアルじゃないと味気ない。
ネットで会えてもそれはただのデータで、脳に記憶しても録画の録画みたいでなんだか、得も言われぬ気持ちになってしまう。
御託を並べたが、結局僕は別れが怖いだけなんだとつくづく思う。
自宅が近くなってきて、近所のチェーン店を横切った。
窓越しに映った学生たちの談笑している様子が、僕の心を煽った。
あと何回友人達とあのようなことができるのだろうか。
指で数え切れないほどできるだろうか。
なんて、恋によく似た思いを吐露してしまった。
僕はきっと学生に固執していなくて、ただ幸せだった時に執着している。
まだ浅い人生経験によるもので、僕の性格の問題なのだろう。
こんな強欲な僕だからこそ喪失は僕の罰として存在しているのだろう。
出会いと別れを繰り返すのが人として生きる道。
これから先も飢えた欲を満たし、罪を重ねて生きていく。
自宅に着き、自転車を止める。
カーテンから漏れる光、近隣から聞こえる団らんの音。
何も変わらないように見えて、全然違う。
また、夜空を見上げる。
水面みたいな星の海はやはり、人生そのものだと感じた。
僕が歩む道は凪そのもの。
あるは水面に映る波紋だけ。
時には増えて、時には減り、時には同調し、大きな波紋となる。
それを繰り返し、いつか死ぬ。
そうだな、うん、死ぬならこの季節がいい。
煌々と輝き、哀切を隠すこの澄み切った季節が、私の墓場だ。
冬は凪ぐ 只 @jankv
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