最強霊能力者が鑑定!! 「ヨシエさんの写真」調査記録② (月刊ファクト 2013.07)

『最強霊能力者が鑑定!! 「ヨシエさんの写真」調査記録②』

月刊ファクト(如水出版 2013.07)


6月号から始まった、本物の霊が写り込んでいるとウワサの「ヨシエさんの写真」調査企画ですが、実は取材を始めるにあたってとある有名霊能力者の方に心霊鑑定を依頼していた。諸事情により、その方から掲載許可が下りなかったため、ここではその霊能力者を仮にX氏と記載する。

読者諸氏は掲載を許可しなかったという話から、X氏を気難しそうな老婆の姿で思い浮かべるかもしれないが、実際は柔和で物腰の低い女性だった。いわくつきの場所へ自ら赴いて除霊を行う逞しい姿をテレビで放映された経験もある、知名度と霊能力を兼ね備えた方だ。時には霊障に苦しみながらも、決して挫けることなく彷徨える霊を成仏させてきたが、そんな霊的修羅場を掻い潜ってきたとは思えないほど福々しい笑顔をお茶の間で見かけた人も少なくないだろう。

低予算、低部数、低価格が揃った小誌の取材依頼だとしても、X氏はすぐに快諾してくださった。取材当日、テレビ慣れした方からすれば信じられないほどの軽装備で訪れた小誌取材陣でしたが、X氏はしっかりとお出迎えいただいた。

「呪われるとウワサの心霊写真です」

挨拶もそこそこに、1人の記者が例の写真をX氏に見せた。氏はその写真を真剣なまなざしで観察し始めた。しかしここで最初の異変が起こったのだ。霊を鑑定する真剣な表情の向こう側にはキョトンとした様子がうかがえたのである。もしや霊視はインチキで、実情はタレント霊能力者ではないのか、そんな懸念が記者の脳裏をかすめた。

記者が男の子の霊の顔が写る辺りを教えると、X氏は目を細めてそのあたりを見つめた。だがじっくりと見ているフリをして時間を稼いでいるように思えた。

「本当にいわくつきの写真なのですか?」

困り果てたようすのX氏はついに口を開いた。しかしインチキを暴こうと詰問するつもりはなかった。X氏の優しそうな雰囲気が記者を咎めさせたのかもしれない。氏の不思議な力を試すことはせず、正直に写真の説明を始めた。

「真ん中に写っているのは葛丘市連続殺人事件の城山佳江なんです」

そう記者が口にした途端、彼女の様子は一変した。目の前に座る記者と手元の写真を交互に見るX氏のこめかみにはいつの間にか汗が浮かびあがっていた。

「私が話せることは何もありません」

黙ったまましばらく写真を見つめていたX氏は突然そう宣言した。彼女はそれ以上何かを語ることはなく、心霊写真の鑑定は予定されていた時間を大幅に繰り上げて終了した。

なぜX氏は匙を投げたのだろうか。その場にいた記者は氏の様子から、明らかにただ事ではない雰囲気を感じ取っていた。


「大変身勝手ではありますが、先日の取材の様子について貴誌への掲載をお断りさせていただきたく存じます。」

後日X氏から小誌宛に掲載を拒否する丁寧なメールが届いた。


原因は写真にあるのではないか。X氏は何も見えないことを隠したかったわけではない。むしろその逆なのだ。そう結論付けた編集部は、このような形でX氏の取材の様子を掲載し、「ヨシエさんの写真」の調査を続けていく決意を固めた。


北見祐介


註 スクラップ帳に貼られた雑誌記事の切り抜きは、ヨシエさんの写真が載っていたであろう部分が意図的に切り取られている。

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