第50話 告げられた絶望
「なぁ、なぁ、あんたたち何か知ってる? あのでっかい樹は何だ?」
警戒して沈黙を保つ四人を見て、魔族の男は続ける。
「あー、面倒くさいな。自己紹介すれば喋ってくれるか? 俺はエグゼン・プラー。魔王様の側近が一人。っても、まだ魔王様は復活してねえけどな」
それを聞き、四人が武器を構えて、戦闘体制に入った。
「ち、余計だったか。厄災の力が出世のために必要なんだよね。あんたら、ホントに知らない? あのバカでかい樹のことは?」
エグゼンと名乗った男は、リーゼたち四人に尋ねる。
「厄災は一年以上前に出現し、人の手によって退けられました。その結果として生まれたのがあの神樹です」
リーゼが、エグゼンから目を逸らさずに答える。
「マジ? マジ? 勇者もいないのにか。お前ら、やるね〜。どうやったんだか」
エグゼンは、両手で驚いた仕草をしながら、余裕を持った表情は変えない。
「少しは人間側も何かしら準備してたってことか。ちょっと困るんだよな。俺、厄災の力が欲しいんだよ。返してくれない? っても、厄災を消したのはお前らとは限らないか。賢いね、俺。あーどうしたもんかな。あのバカでかい樹は気色悪いから、いずれぶっ潰したいな。厄災は、他のでもいいか。おっと」
そう話していたエグゼン・プラーは、瞬時にレンの前に立った。
「お前、いいもの持ってんな。すげぇ魔力を感じる。胸元に何かあるな」
そう言われたレンは、後ろに跳ねて距離を取る。構えた二本の剣を崩さない。四人は王家の翡翠が目につけられたと理解した。すぐ様、エグゼンを囲む。
そのエグゼンは、ニヤニヤとしている。
「こわい、こわい。四対一か。圧倒的にこっちが不利じゃん。やめてくれって、そんなに睨むなよ。やれやれ、やれやれしかたない。とっておきの情報をあげるからさ。その胸元の何かを置いて、逃げていいよ」
話が噛み合わない。カタリナは、エグゼンの心の色を見た。青色。冷静沈着。怖がっていない。そして、黄色も見える。
「勇者が何故、現れないか? お前ら知りたくないか?」
エグゼンは、くくっと笑いながら、レン、リーゼ、ヴィルヘルム、カタリナの顔を順に眺める。背負った大きな鎌も抜いていない。囲まれていながら、なんだこの余裕はと、カタリナは背筋が寒くなった。
「四百年前にもう決着が着いていることだからさ、今更知ってもどうにもならない。でも、教えてあげよう。人間たちを絶望させたいんだよね、俺」
四百年前、勇者が魔王を討ち滅ぼした。こちらの世界では幾度となく繰り返されている、勇者と魔王の戦いの輪廻。世界を魔族のものにしようと魔王が現れると、世界を守るために勇者が現れ、魔王を討つ。カタリナをはじめ、異世界の住人なら知らない者はいない。繰り返されてきた歴史。勇者は神から授かった四つの力で魔王に勝てるのだと、おとぎ話で語られていることだ。
「魔王様は四百年前、勇者にわざと討たれたんだよ。勇者の魂に呪いをかけるためにな。そして、呪われた勇者の魂は、四つに分割され、異世界に送られた。だから、勇者は現れない。例え、転生だかなんだが知らないが、向こうの世界からやってきたとしても、四つに魂が分割されたんだ。神から授かった四つの力とやらは一片だけになる。魔王様や厄災を退ける力はない。どうだ? 絶望的だろう? おとなしく、すげぇ魔力を持ったそれをおいて、逃げて、絶望を言いふらしてこい」
エグゼンは、レンの胸元を指差す。
「コード、一・一・五!」
リーゼが叫んだ。一は戦闘開始の意味。対象は一体。五は、四人で一斉という意味だ。
だが、その瞬間、リーゼの背後に、ヴィルヘルムの背後に、カタリナの背後に、そして、レンの背後にも、エグゼンが同時に現れた。四人の背後から、エグゼンが両手鎌を振り下ろす。
リーゼは、すぐさま防御魔法を張り斬撃を跳ね返す。
ヴィルヘルムは、振り向きざまに得意の両手剣で相手の両手鎌を弾き、返す剣で襲ってきたエグゼンを斬った。
カタリナは、攻撃を素早く避けて、エルフの聖剣でエグゼンの胸元を突いた。
レンも振り向いて、二本の剣で不意打ちを防いだ。
だが、もとからリーゼたち四人に囲まれていたエグゼンが、両手鎌を振り下ろした。レンは背中から斬られ、地面に倒れた。血が広がっていく。
「はい。まずは一人、終わったかな」
レンの背中を斬ったエグゼンが、軽く言った。
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