第11話 神との対話

 というわけで、翌日の夜。五月下旬の夜。前に歓迎会をしてくれた居酒屋に再び来た。


 テーブルの席に着くと、カタリナは「ウーロン茶でいいですか?」とクロスに確認した後、生ビールとウーロン茶、それにつまみとなるものを適当にテーブルの端末から頼んだ。つまみは、枝豆、唐揚げ、サラダ。ついでに刺身も頼んだ。


 飲み物が届くと、簡単にお疲れ様の挨拶とともに乾杯をした。仕事後のビールを堪能しているカタリナだったが、気になる本題にはさっさと入ろうと決心した。


 ところが、本題に入る前に、枝豆が届いた。空いたお腹がそうさせたのだろう、二人とも無口に枝豆を手に取り、口に運んだ。しばらく無言だった。塩気が良くて、その後に飲むビールが美味しい。


 ハッと気づく。直前にした決心を忘れるところだった。まだ一杯目なのに酔っているのか。さっそく切り出す。


「ね、クロス先輩、オプトシステムって何ですか? システムXとは違うものですよね」


 唐突すぎたのだろうか、はたまた枝豆に夢中になっていたためだろうか、クロスは意味を理解するのにちょっとだけ時間を要した様だった。


「ん、ああ、システムXとは別物だね。システムXが神様そのものだとしたら、オプトシステムは人類が作り出したものだ」


 そのことについては、カタリナも推測していた。育休中の人が開発に関わっていたという話も昨日、聞いていたから。


「システムというからには何かしらの処理をしてくれるものですよね。オプトシステムの役割は何ですか?」


 カタリナは空っぽになったビールジョッキをテーブルの横によけて、しっかりクロスの目を見て聞いた。


「先に、システムXの役割というか機能を確認しておこうか」


 言われて、カタリナは気づいた。確かにシステムXについては分かっているようで、分かっていない。


「あ、おかわりいる? ビールでいい?」とクロスはカタリナに気を使ってくれた。


 カタリナがうなづいたのを確認すると、クロスはテーブルの端末をさっと操作した。彼の二杯目はオレンジジュースだった。前回に次いでの今日。健康志向はもう確定だ。


「システムXの役割は、『異世界転生』や『異世界転移』を対象者に施すことだ。異世界に飛ばすのをやってくれるわけだ。システムXは自然の摂理のようなもので、こっちとあっちの世界の魂のバランスを取っているとか言われている。それが真実かは分からないけれど、転生や転移を自動的に行っているの事実。選ばれてしまうと転生や転移は強制的だ。原理は不明だけど、異世界転生の対象になった人物は確定した死がもたらされて、異世界に転生する。そして、スキルの付与もされる」


「ということは、昔から異世界転生を処理していたということですね。それこそ、自由というか自然に。システムXに意志があるのか分かりませんけれど。どんな人が異世界転生に選ばれるかは、システムXしだいだったということですか」


 クロスはうなづいてくれた。そして、彼は続ける。


「AIのシンギュラリティによって技術の進歩が急激に進んだ。あらゆる分野でのAI同士の相互支援によって、二十年、三十年先の未来をもう達成できたという者もいる。もっと未来だったかもしれないんだ。神、つまりシステムXにコンタクトを取れるようになることが」


「どういうことですか? なぜ、AIや技術進化の話になるのですか?」


「技術の進歩いや進化による誘惑に、人類は勝てなかった。異世界転生の神様を見つけたら、どうにかして会話をしたい。もっといえばその機能を使える様になりたい。自分たちで自由に異世界転生を制御したい。そういう欲求がオプトシステムを開発する動機だったんだ」


 カタリナは届いたビールに口をつけるのも忘れて、クロスの話に聴き入っていた。人の欲望が垣間見えるからだ。


「俺の理解は、システムXはエコだ。つまり、自然なもの。それに対して。オプトシステムはエゴだ。人工のもの」


 オプトシステムが望まれた理由がなんとなく分かってきた。


 川の流れをせき止めて貯水ダムを造ったように、核分裂反応を利用して強大な原子力エネルギーを得たように、人類は自然に働きかけてきた。


 自らの営みが楽になるように、技術という鍵を得るたびに、固く閉ざされていた自然の摂理という扉をこじ開け、宝を得てきた。異世界転生についても、同じだということだ。


「オプトシステムは、システムXと対話するための仕組みだ」


 クロスの答えをすぐにカタリナも理解した。自然を利用するために作られたのがオプトシステム。


「つまり、貯水ダムのようなものと考えればいいのでしょうか。水を溜めて、放水をコントロールすることで、川の氾濫を防ぎ、ついでに電力も発電できるのが貯水ダム。オプトシステムは、人為的に異世界転生をコントロールする。異世界に行かせる人、または行かせない人をシステムXに決めされるのではなく、オプトシステムを介して、神によらず人類が決める」


「そのとおりだよ。二つの世界の往来をシステムXが行っていた。それはどういう理由で行っていたかは不明だけれど、人を選び、スキルを与えて、次の世界での活躍を後押ししてきた」


「でも、どうやって神、システムXと対話できる仕組みの構築ができたのですか?」

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