うんち

清志郎

第1話 人間終了のお知らせ

 「お前は薄っぺらいんだよ。ペラペラ意味のない言葉喋ってないで考えて喋れ。」

 いつも上司に言われる言葉。

 「え?怖い。そんなこと考えてたなんて全然分からなかった。」

 好きな人に告白して言われた言葉。

 「あいつと二人でいると気まずいよな〜笑」

 同僚の陰口。

 僕の頭はいつも考えている。どうすればこの人たちは笑ってくれるだろう。どうすればいい雰囲気で喋れるだろう。どうすれば振り返った時に幸せな時間に感じるだろう。

 そう考えていると、話しかけられた時にその場の雰囲気で冗談を返してしまう。


 そうは言っても、僕の人生は上手くいっていた。上手くいっていたはずなんだ。学生時代は友達も多く、これといっていじめられた経験もない。友達は冗談に笑ってくれるし、休みの日だって一緒に遊ぶ。学力だって真ん中より上だったし、スポーツだってそれなりにできた。

 就職だって上手くいった。実家が貧乏だったから親孝行したくて、高卒で働くつもりで就活をした。そしたら地元の役場から内定をもらった。親も大喜びだった。街中のおいしい焼肉屋でステーキを食べた思い出がある。だから僕の生き方は間違ってなかったはずなんだ。

 一体いつからだろう、自分にダメ出しするようになったのは。上司と話していると、”こんなこと言わないのにな、もっと僕は面白いのにな”なんて考えながら話してる。


 「そうじゃないよ、でも、どうやって話すんだっけ?」

 いつの間にか自分を責めていたつもりが、責めていた自分の中の自分でさえよく分からなくなってしまった。


 「お前は薄っぺらいんだよ。考えて喋れ」

 上司から言われると頭の中で呟く。

 「彼はこんな男じゃないんだよ。ただあなたが怖くて戯けてるだけ。」

 自分にも説教する。

 「もっと冷たく接していんじゃない?無理に明るく振る舞わなくていいと思うけど。」

 僕からの返答はない。


 勇気を振り絞って言った。彼女のことはずっと好きだった。僕の言った冗談に笑ってくれたりもした。だから、真剣な顔で好きって伝えてみよう。付き合えると思う。自信を持って彼女を呼び出した。

 「ずっと好きでした。付き合ってください。」

 彼女は少し退がりながら言った。

 「え?怖い。そんなこと考えてたの。」

 戯けて僕は言った。

 「そうだよ。僕には君しかいない。後でいいから答え聞かせてよ!」

 答えは返ってこないまま。

 あとで堪らずLINEでどうか聞いた。

 「ごめんなさい」

 その一言の後は何もない。

 「何してんだよ俺」

 僕は僕に言う。

 「冷静に彼女を見れば分かるだろ?怖いってことは脈なしだよ」

 僕からの返答はない。


 よく同僚と一緒に外回りに行く。そんな時、冗談を言いながら最初は楽しく話すのだが、二人の時間が長くなると沈黙の悪魔が現れる。堪らず

 「そういえばさー、あいつ〇〇らしいよ。」

 なんて中身のない噂話を切り出して何とか会話を続ける僕に僕は言う。

 「寧ろマイナスじゃん。無理に会話なんて続けなくていいから。もっと肩の力抜いて自分が楽しく話しなよ。」

 僕からの返答はない。


 そういう事が重なっていくうちに、ついに僕が消えていなくなった。あれ?どこにいったんだろう。分からないけど、説教は無くなったみたいだし、深く考えずに生きていこっと。


 2023年11月。ついに今まで生きてきたものが崩れ落ちた。頭の中での会議も行われず、今までの自分と現在の自分を比較する自分も居なくなった。もう、何も残っていない、働く気力さえ。。。


 そして僕は...うんこになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うんち 清志郎 @kiyoshiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ