第24話 合成獣の試練。敵を穿て

 森へ入る際、正規の討伐隊は北側から、急造の冒険者隊は南側から潜るという手筈だった。そして正規の討伐隊は紅音達が自己紹介をしている内に森の中へと入って行っていた。

 そして彼女達が森に入る際、今回のチームリーダーを任されたワルグレイドが話し出す。


「それでは探索者であるテリフさんを先頭に索敵をしつつキマイラを発見次第、荷物持ちの方々は少し距離をおいて待機していてくださいね」


 ペネトレイトが気さくに返事をする。


「あいよ!」


 そうして一通りの手筈は済んだ彼らは森の中へと入っていった。

 その最中、先程の不安が拭いきれない紅音は先行している他の冒険者達に聞こえないようにして、ペネトレイトに小声で話しかける。


「……なぁペネトレイト、ちょっと聞いていいか?」


「なんだ? 忘れもんか?」


「いやな、正直悪いとは思うんだけどよ。何か心配しか無いように感じてな……」


「ハハッ、まぁ色々突然な事だらけだもんな。そう臆病になっちまうのも仕方がないが……よーく見てみな」


 そう言われた彼女は前を先行している冒険者たちの背中を見つめる。……色々な装備品を身に着けている。個々の武器に恐らく回復等に使うであろうポーション。だがそれくらいしか彼女には分からなかったが、彼はそのまま語り始める。


「まず……確かに前衛はたったの二人で残りは後衛だ。だがその後衛だって三級の神官然り、弓兵アーチャーによる様々な方向からの攻撃をかますことで敵の注意を散漫できる。それに準ニ級魔法使いだって幸運にもいる。実はこれでも結構豊富な人材で溢れているんだぜ? それにニ部隊の合同作戦みたいなもんだ。連携っつうかそういう問題はそんなに現れないと思うぜ」


「そうか。……なら良いんだけどよ」


 なんだかあまり腑に落ちない彼女であるが、自分の考えや感覚というものは正しいとは限らないと自分を律する。


(……まぁアタシはこいつらがどれだけ強えのか知らねぇし、何より冒険者のプロでも魔獣とかのプロでもねぇしな。まぁおっさんが言うならきっと大丈夫なんだろうな)


 彼の言葉を信用することにした彼女だが、それとは別でとある疑問が頭の中に思い浮かぶ。この際、聞いてしまおうと彼に話しかける。


「そういや皆自分の職業っつーか分類? みたいなんのに四級だのなんだの言ってたが、それって一番下の級っていくつなんだ?」


「あーそれはな確か……まぁ別に統一されてるわけじゃねぇけど、大体は七級からとかかな? まぁ物によって本当にそれ以上だったりそれ以下だったりするけどな」


「へぇ……そうなんか」


「ああ、まぁ大概は七級くらいからだな。細かいとこに関しては今はそんなに気にしなくていいぜ」


「ああ分かった。ありがとうな」


「いやいや気にすんな。このくらい大した事はねぇさ」


 戦闘に参加しない彼らは比較的気の持ちようが軽いが、先行している冒険者達はいつも以上に緊張の糸がピンと張られた状態で、常に臨戦態勢の姿勢を崩さずにいるのだった。

 それは何故か? キマイラという魔物が単に恐ろしく強いから? 確かにそれもあるだろう。だがそれだけではない別の何か・・・・を彼らは感じずにはいられなかったのだ。

 無論具体的に確かな根拠などというものは存在しない。これらは全てただの勘でしかないのだが……。


 ◆


 正規キマイラ討伐隊である全員がBランクに到達している四人編成部隊――編成名【ビーストハンターズ】――は森の中へ入っていく。彼らは物理耐久役の大盾使いが一人に、物理攻撃役の戦士が二人に、後方支援に加えて魔法攻撃役の魔法使いが一人の構成である。 

 そして戦士の剣には毒が塗られており、対象の体力を奪っていくという堅実な戦い方をする。その際の注意を引き付けるために魔法使いが主に対象の顔などに向けて攻撃魔法を唱える。それによる対象の攻撃からは大盾使いが守るといった連携を好んで良くする。勿論今回もそうだ。


 彼らはこのような戦法でキマイラを筆頭に様々な巨獣を狩ってきた。まさしくベテランと言って差し支えのない編成部隊である。

 そう、キマイラだったのならば彼らも死ぬことはなかっただろう……。


 かつてキマイラだったものは勝利の雄叫びを上げる。


「素晴らしい、素晴らしいぞ! フハハハッ! これが俺の王より与えられし力か! ……ハァ……ハァ」


 彼は息を切らす。何故ならば、初めての強者との戦いだったからだ。彼はその感想を一匹一匹の死体を目にしながら口にして呟く。


「……だが少々苦戦した。特にこの硬い外皮をまとった者に俺の攻撃が中々通じなかった。……それに守られた奇妙な枝を持った者もそうだ。俺の視界を奪ってきたりと、俺の邪魔ばかりをしてきやがった。そして手に持った牙で俺を切りつけてきた二匹もそうだ。奴らは中々すばしこかった」


 彼は今回の戦いで多くの学びを得た。彼の肉体にはさほど傷はつけられていないものの、それなりに体力は消耗していた。


「これが数の差による戦い。そしてこれが森の外に生きる者達の力というわけか……。俺がもし、俺の王に出会わなければ彼らに為すすべもなく狩られていただろうな。それだけはよく分かる」


 彼は自らの幸運に再度感謝する。そして別の趣味と言えるだろうか、森の外で見出した新たな興味の対象が増えたのだった。


「そして素晴らしい獣肉であった。肉質も良い……。強者の血肉とはこれ程美味なのか? それともこの獣達全て同じ味なのか? 興味深い……彼らの住処へ是非行ってみたいものだが、まずは向こう側にいる獣たちを狩りに行かねば……なッ!」


 彼は紅音達が居る場所まで一直線で森の木々を潜り抜けて走っていく。今度は真っ向から相対するのではなく、強襲という形で一匹ずつ確実に仕留めていこうと、そう考えながら……。


 ◆


 紅音達はしばらく森の中を彷徨っていく。目的のキマイラは未だ見つからずにいる。いや、その足跡すら見つからずにいた。この事から分かることと言えば、こちら側ではなく正規の討伐隊が向かって行った方にキマイラが居るということになる。この事をワルグレイドがダラルに言及する。


「……どうにもキマイラの気配すら感じませんね。こちら側では無かったのでしょうか」


「どうにもそのような気がする。奴の体重であれば足跡はわかりやすいはずだが見当たらない。そしてそれすらも無ければ……匂いも感じ取れない。未だ奴の領域テリトリーに入ってないのかもしれないが……ここまで探索して居ないというのであれば反対側かもしれないな」


 彼も概ね同じ反応を示す。獣人の鼻にも何らかの匂い、主にそれらしい獣の匂いは感じ取れなかった。探索者であるテリフも巨獣が居たであろう足跡や他の痕跡も確認できなかった。


「それでは一旦戻りますか。皆さんもそれでよろしいですか?」


 ワルグレイドが他の皆にそう告げる。その時、テリフはドシンッという重い足音を連続で感じ取る。


「――ッ!? 何かがこちらに向かってきています!」


 すぐさまその異常を皆にしかと聞こえるように大声で話す。その言葉にデラルは反応する。


「何!? どの方向だ! キマイラか!」


 それを聞いた彼は少しの沈黙の後、答えた。


「北側から確実に迫ってきています! 荷物持ちの方々は離れてください!!」


「あいよ! 行くぞあんちゃん達!」


「お、おう」


 ペネトレイトがそう言いとっととどこかへ離れていく。彼に続いて紅音達もそこから離れる。

 そして荷物持ちである彼女らが離れていった頃、ダラルは話し出す。 


「しかし随分と急だな。何だか奇妙な気がしてならない」


 唐突なキマイラからの捕捉。それに彼は違和感を覚えていたが、仲間のデラルが一蹴する。


「んなこたぁ別にどうでもいいだろ? さっそろそろやっこさんがお出でなすよ」


 テリフが聞こえていた足音も、この場に居る全員が聞こえるほどに大きくなっていた。

 それを頃合いとしたのかワルグレイドが強化魔法を唱え始める。


「強化します。【湧き上がる身体ライジングボディ】【烈火上昇フレアブースト】」


「こちらも。【目覚めし獣力ビースト・フルポテンシャル】」


 彼に続いてダラルも強化した所で、ある異変が訪れる。


「ん? ……足音が止まった? どういうわけだ」


 そう、先程までこちらに向かって一直線で来ていたであろうキマイラの足音がパタリと聞こえなくなったのだ。唐突な出来事にワルグレイドはテリフに今何が起きたのかを尋ねる。


「どうしたんです?! キマイラはこっちへ来なくなったのですか?!」


「いえ、そんなはずは……」


 テリフは再び耳を澄ませてキマイラの位置を探る。だが、やはり足音は聞こえない。

 先程までの足音どころかそれによる激しい木々の揺らぎすら感じ取れなかった。やはり、キマイラはこちらへ来なくなったのだろうか? そう考えるも、空中から激しい風圧。……そう風の音が聞こえ始めたのだ。自然による風ではないもっと他の……そう考えた瞬間、全てを察して皆に大急ぎで伝える。


「まさかッ! 皆さん、上空です!!」


「何!?」


 そう言われ、皆空の方を向く。そこにキマイラが居るのかどうかを確かめるために……。その際、ワルグレイドが先程の彼の言葉に驚愕していた。


(そんな馬鹿な。キマイラに上空から獲物を狩る習性はない。何より、森の中で生きる彼らは滅多にその翼を使って飛ぶことはないというのにも関わらず飛んで来ただとッ!?)


 そして皆が空を眺め時、魔物は現れる。それはキマイラ……ではなかった。体の大部分は従来のキマイラと同じだが、体表は赤と紫の二色が交差し、そして獅子の顔には異様に大きくなった犬歯と眉間の上に大きな角が生えていた。

 もしその獣に名を付けるのならば、融合魔獣【ワンダーデザイア】……と、名付けるだろう。

 そしてその獣は人語ではない獣の咆哮で魔法を詠唱し始める。


「炎属性魔法【火塔タワー・オブ・フレア】ッ!!」


 ワンダーデザイアの龍の頭の前に赤色の魔法陣が展開される。

 ダラルはそれを目撃し、驚愕するも仲間へ指示を出す。


「何! 魔法だと! ポートンッ!」


 ポートンは魔法陣を目にしたその瞬間から既に緑色の魔法陣を展開していた。そして詠唱する。


「させぬッ! 風属性魔法【竜巻ドラゴンズウィンド】!」


 放たれた炎と風の魔法は互いにぶつかり合い、見事相殺することに成功したのだった。


「相殺できたか……」


 安堵からダラルはそう言葉を漏らすも、心の中で状況を整理し始める。


(確かにキマイラには龍の頭部から炎を吐くというのは聞いたことがある。だがそれは生来の肉体故の炎であって魔法じゃない。なのに魔法で攻撃してきやがっただとッ……それにあの色は何だ?! あれは到底キマイラじゃない……恐らくもっと上位の魔物だ。クソッ! 冒険者組合ギルドめ! 適当な仕事しやがってッ!!)


 彼が心の中でこの異常事態は組合ギルドの不手際だと悪態を垂れると、ワルグレイドが話しかけてくる。


「ダラルさん! 退散しましょう! あれは私達の手におえる魔物ではありません!」


「賛成だ。……全員ッ分け目も振らず逃げろッ!!」


 彼らはキマイラを討伐するつもりでここに来た。だが現れたのは正体不明の何か。そのような未知の魔獣を相手にするほど愚かではない。今ここでこの瞬間に彼らに与えられた仕事は生きて帰り、この事を知らせるという事であった……。

 彼らはまるで蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったのだった。


 ◆


 一方安全のために離れていた紅音達はこの事を知らなかった。

 だが、微かに彼らの退却するように促す声が聞こえた。だがそれは彼女たちにとってはあまりにも小さすぎた……。


「なぁペネトレイト。今何か聞こえなかったか?」


「ん? 何がだ?」


「いや、今微かに退却ーーッ! ……みたいなのが聞こえたような」


「まさかァ! そんなはず無いだろう? 先も言ったがあいつら……結構強いぜ」


 彼は彼女が聞いた声は何かの空耳による聞き間違いだろうと一蹴する。

 それを彼女は鵜呑みにする。


「そうか? なら良いんだけどよ」


 すると、今度はドシンッと大きな音が大地の地響きと共に聞こえてくる。


「うお!? 今のは何だ!?」


 今度は聞き間違えようが無いものだった。この音を聞いた彼はある推察を立てる。


「今のは……恐らくキマイラが倒れ込んだ音だろう。きっと彼らが見事に討伐し終えたのさ」


「マジか、随分と早いんだな……」


 戦いがいつ始まったのか、具体的には分からないが思った以上に早い決着に彼女は驚く。

 その根拠たるものを彼は並べ立て始める。


「ああ、恐らく先程の強大な魔法でキマイラに致命傷を与えたんだろうな。だからこんなに早いのさ」


「なるほどな。確かにさっき凄い風の音したもんな」


 つい先程、物凄い爆音と業風による音が聞こえてきた。音だけでも激しすぎる戦闘を彷彿とさせるものだった。

 彼は彼女のその言葉をその通りと自信満々に肯定する。


「ああ! そうだとも! んじゃ俺達も合流しに行くか」


「え、良いのか? あいつ等の誰かが教えに来てくれるまで待ったほうが良いんじゃ……」


 彼女は彼らが討伐し終えた報告をするまで下手に動かないほうが良いのではないのかと、そう提案するも彼はこれをキッパリと否定する。


「何言ってんだよ! キマイラを倒してヘトヘトな彼らにわざわざ教えに来てもらうだって? おいおいそれはちょっと甘いぜ? こういうのは率先して行動するもんだ」


「本当にそうなんか?」


「そうだとも! 俺はそうして数々の信頼を勝ち取ってきたのさ」


 これこそ信頼溢れる人物が取る行動だと言わんばかりに彼は言った。実際彼女としても彼がいつも取っている行動の一挙手一投足には迷いがなく、常に自信で溢れていた。そしてそんな彼を一日にも満たない時間でしか関わっていないというのにも関わらず彼女は彼を信頼しきっていた。


「へぇ……まぁ分かったよ。そんじゃ行くとするかグリル」


「うん!」


 彼女の言葉にグリルは元気良く返事し、共に先程の場所まで戻ることにした。


 それからしばらくして、彼女たちは先程の場所まで戻ってくると……そこには地面に伏した赤い巨獣の背中があった。


「お? あれがキマイラか? ……なんか随分と赤くないか?」


 異様な赤さ。彼女は獅子の体が基本ベースだと聞いていたのにも関わらず、その体毛は黄色ではない赤だったことに違和感を覚えるが、彼はそれを同然のことだと言い出し始める。


「そらそうだろ! だってあれらは全部奴が流した血に違いない。早く行って、さっさと解体しないとな」


「お、おう」


 そう言ってさっさと現場まで行こうと足を早めて歩いて行く。勿論彼女達も釣られて向かって行く。

 だが近づけば近づくほど、さらに彼女はおかしい点に気づく。


「あれ? 他の奴ら居なくねぇか?」


「ん? 確かにそうだな。まぁでも大方トイレ……もしかして俺達を呼びに行ったのか!?」


「え!? じゃあ待ってたら良かったじゃねぇかよ!」


「かぁ……。シクッたなぁこれは……まぁでもこれは無理に俺があんちゃん達を連れ出したからな。あんちゃん達に火が飛ばねぇように俺が謝るから安心してくれ!」


 彼はこれは自分が悪かったと言い出す。もし怒られて問い詰められてもその責任は自分が取ると謝る。

 そう言われた彼女はこれ以上この事で何も言えなかった。


「……そうか。悪いな」


「いやいやそんなことねぇよ。こっちこそ悪かったな……でも、あのキマイラのそばで待ってた方が何かと良いだろうし、早く行こうぜ」


 そう言われた彼女たちは彼に続いて巨獣へ近づいていく。

 すると、その匂いに気づいたのか巨獣――ワンダーデザイアは起き上がり始め、唸りだす。


「グルルルルッ……」


 とっくに死んでいたと思っていた巨獣が生きていた事に彼女は酷く驚く。

 そして彼に話が違うと、問い詰めようとする。


「おいおい起きたぞ!! おいこいつ生きてんじゃねぇかッ……てぇ、あれ?」


 なんと、先程まで隣に居たはずの彼――ペネトレイトがいつの間にか居なくなっていたのだ。


「へ!? ペネトレイト!?」


 辺りを見渡して、そう名前を呼ぶも反応はない。恐らく巨獣が起き始めた段階で彼女たちを置いてどこかへと逃げ去ってしまったのだろう。


「まさかあんの野郎ォ……逃げたのかァ!?」


 そう怒りをあらわにする彼女であったが、既に巨獣は彼女たちの存在を正確に把握して襲ってくる。


「グアアアアアアアッ!!」


 おぞましい咆哮と共に巨獣は彼女たちにその鋭い前足の爪を用いて攻撃してくる。


「くっ! 【金天壁こんてんへき】ッ!!」


 身の危険を察知した彼女は急いで地面へ両手を合わせてそう唱えると、彼女の目の前から巨大な黄金の盾が出現する。

 これは彼女が密かに発案していた身を守るための防護壁。名付けて【金天壁こんてんへき】という高さが約五メートルになるほどの壁とも言える長方形の巨大な盾である。


「グオっ!?」


 そして見事、その鋭い爪による攻撃を防いでみせた。巨獣は困惑する。


(何だこの硬い岩は?! 今までのどんな物よりも硬いぞ!)


 巨獣は突如として目の前に現れた黄金の物体に困惑し、しばらく硬直する。

 その間、彼女は考えをまとめようとする。


「ヨシッ! なんとかなったようだな……で、ここからどうする?」


(逃げるか? いや、こんな化け物に追いかけられて逃げ切れる気がしねぇ。だったら戦うのか? ……それもそれで無理そうな気がするっつうか他の奴らはどこ行ったんだ? まさか、コイツにもう食われたとかか? ……もしそうだとするなら余計に勝てる気がしねぇ)


 状況は絶望的。人間ではなく獣……しかも巨獣を相手にする。それは何よりも命の危機を感じるものだろう……。

 そんな中、グリルは彼女に聞く。


「あ、紅音! ど、どうするの! どうしたらいい?!」


「グリル! お前はどっかに隠れてな! ……それとメイス持ってるか?!」


「え、うん! 持ってるけど……」


 そう言われた彼女は彼女の腕にある口からメイスを出し始める。


「って!? また口ん中に収納してたのかよ!? まぁいいや借りるぞ」


 それに構わず彼女はメイスを取り出すも……口の中にあったからか、少し汚れていた。


「うっ! 何だかベトベトする……背に腹は変えられないか」


「グアアア!!」


 突然巨獣はまるで怒りに身を任せるが如く、金天壁こんてんへきに対して連続で斬りつける。

 辺りに鋭い金属音と火花が立ち込める。そしてそれに守られている彼女はその音に恐怖を覚える。


「怖えええ! だがアイツがこの盾を壊すことに夢中なら『あの手』が使える!」


 そう言い、彼女は金天壁こんてんへきに対して手を触れる。そしてこう唱え始めた。


「いっけええええ!! 【尖金槍せんきんそう】ッ!!」


 彼女がそう唱えると巨獣側の盾の表面がぐるりと渦を描くように歪み始める。

 それを見た巨獣は獣の勘でこのままでは危険だと感じ、その場から距離を取って避ける。


「グアッ!?」


 その渦の中心からビュッと、勢いよく先の尖った針と言うべきものが飛び出始める。

 これも彼女が発案した技【尖金槍せんきんそう】。これ自体はナット・ガインとの戦いでも使っていたが、それを技としたものがこれである。


「どうだ!? ……ッ!」


 不意を突けたと感じた彼女だったが、残念ながら巨獣は獣の勘を駆使して避けていた。

 各々頭の中で思考する。


(あれを避けてたのか……困ったなぁコイツかなり速えぞ)


(あの二足歩行の雌……いや人間と言ったか? この獣は他とは違う何か『恐ろしい力』を感じる!)


 両者に張り巡らされる緊張の糸。互いが互いの力に恐怖を抱く。紅音は彼の獣としての身体能力。そしてワンダーデザイアは彼女が持つ得体のしれない謎の力。

 一歩間違えれば死に至るであろう戦いが彼らの心臓にさらなる活を入れたのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

*ここに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。

 よろしければ、感想や応援等々よろしくお願いします。


ステータス

 種族:融合魔獣 ワンダーデザイア

 名前:無名

 世界異能:無し

 称号:王の下僕

 魔法:炎属性・水属性

 耐性:無し

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る